第23話 友
拓真が闇に堕ちてから、学園の仲間たちも、かつての彼の面影を見失い始めていた。
以前は、純粋で仲間思いだった彼が、今や冷酷な目を持ち、氷のように冷たい表情を浮かべるようになってしまった。誰にも心を開かず、ただ力のみを追い求めている姿は、もはや俺たちの知っている拓真ではなかった。
「拓真、お前、いつからそんな奴になっちまったんだよ……」
俺――神楽 真は、胸の奥に湧き上がる苛立ちと、どうしようもない焦燥感を押さえながら、拓真の前に立ちはだかった。
夜の校庭に漂う不気味な静寂の中、冷たい月の光が二人を照らし出していた。闇に染まり、獰猛な目つきをしている拓真は、まるで別人のように見える。
「……邪魔をするな、真。お前に俺の気持ちなんてわかるわけがない」
拓真は冷たく呟き、その言葉には、かつての彼の優しさは一切残っていなかった。その目には、ただ強さへの渇望だけが映っている。
俺は歯を食いしばり、拳を握りしめた。
「わからないだと? ふざけるな、拓真! お前がどれだけ強さを求めてるかなんて、俺が一番理解してる! だけど、力のためにお前自身を見失うなんて、それで本当にいいのか?」
俺の叫びに対して、拓真は微かに笑みを浮かべる。
「強さを手に入れるためなら、何だって捨ててやるさ。俺はもう、戻るつもりなんてない」
その言葉に、胸が苦しくなる。だが、ここで引き下がるわけにはいかない。彼がどれだけ冷酷な言葉を吐こうと、俺は拓真を諦めるつもりはなかった。
「……なら、力づくででもお前を取り戻す!」
俺は剣を抜き、拓真に向けて構えた。闇に染まった彼を救うためなら、俺は全力で戦う覚悟を持っている。彼がどれだけ強さに囚われていようとも、俺たちの友情は絶対に断ち切れないと信じていた。
拓真も同じように構え、冷徹な目で俺を見据えてきた。
「本気で俺に勝てると思っているのか? 真、お前に俺を止めることなんてできない」
「俺はお前を信じてる! だから、お前がどれだけ闇に囚われていても、必ず連れ戻してみせる!」
二人の間に、張り詰めた緊張が漂う。そして、次の瞬間、俺たちは互いに飛びかかった。
拓真の剣が鋭い軌跡を描き、俺に向かって迫る。だが、その一撃をギリギリでかわし、逆に俺の剣を振り下ろす。だが、拓真はそれを難なく受け止め、冷たい笑みを浮かべたまま反撃してくる。
「どうした? 真、こんな程度の力で俺を止められると思ったか?」
冷ややかな声が耳をつんざく。
だが、俺はそれでも諦めない。仲間のために、そしてかつての拓真を取り戻すために、全力で戦い続ける覚悟を決めたんだ。
「俺がここまでお前を追ってきたのは、お前がどれだけの痛みや苦しみを抱えてきたか知っているからだ!」
拓真が一瞬だけ表情を歪ませるが、すぐに冷たい目つきに戻る。
「お前には、もうその弱さはない。真、お前は甘いんだ。強くなるためには、捨てなきゃいけないものがある。俺はその覚悟をした。それだけのことだ」
拓真の言葉が胸に突き刺さる。だが、俺はその冷たい表情の奥に、まだ残っているはずのかつての彼を見出そうと、必死に声をかけ続けた。
「お前は、本当はそんなこと思ってないはずだ! お前は、仲間や友達を大事にする優しいやつだっただろう? 強さのために全てを捨てるなんて、そんなことが本当にお前の望みか?」
俺の言葉が届くように、さらに踏み込んで剣を振りかざす。だが、拓真はそれを冷静にかわし、俺の背後に回り込んで攻撃を仕掛けてきた。
一瞬の油断で斬撃が肩を掠め、痛みが走る。それでも、俺は拓真から目を逸らさず、再び構え直す。
「俺が諦めるとでも思ってるのか? 拓真、お前を取り戻すまで、俺は何度でも立ち上がる!」
痛みに耐えながら、俺は声を張り上げた。
拓真の瞳が一瞬だけ揺れ動く。俺の言葉が、少しずつ彼の心の奥底に届いているのかもしれない。
「……真、どうして……どうしてそこまで俺にこだわるんだ?」
拓真が微かに囁くように言った。その冷たい瞳の奥には、一瞬の迷いが見え隠れしている。
「それは、お前が俺の大切な仲間だからだ! 俺は、お前を信じてる! だから、お前が闇に囚われているとしても、絶対に見捨てない!」
その瞬間、拓真の動きが止まった。彼の表情から、冷徹さが少しずつ薄れていくのがわかる。
「真……」
その声には、かつての拓真の温かみが感じられた。
だが、闇は再び彼を包み込もうとする。彼の瞳が再び暗い色に染まっていくのが見えた。俺は一瞬も迷わず、再び彼に向かって駆け出し、強く叫んだ。
「思い出せ、拓真! お前は一人じゃないんだ! 俺たちはずっと一緒だっただろう? お前がどれだけ苦しい時も、俺が支える! だから、闇に負けるな!」
俺の叫びに応えるかのように、拓真の瞳から闇が少しずつ消えていく。彼の表情がゆっくりと柔らかくなり、かつての彼の優しい面影が戻ってきた。
「真……俺……」
拓真がかすれた声で呟く。その目に浮かぶ涙が、彼の心がまだ完全には闇に囚われていないことを示していた。
「大丈夫だ、拓真。お前は戻れる。俺がずっとお前のそばにいる。だから、闇に囚われるな!」
俺は彼に手を差し伸べ、強く握りしめた。拓真もその手を掴み返し、かつての温かみが戻ってくるのを感じた。
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