第7話 主人公に話しかけよう
あの入学式から、寮へ入り、生活を
クラス分けが行われ、本日より普通の授業が開始される。
準備期間が終わったことで、やっと神楽真と話すことができる。
「まずは、自然に話しかけるしかないよな……」
ちょっと友達を作るっていうことに緊張している自分がいる。教室の中はすでに多くの生徒たちが席についており、談笑していた。
封魔学園付属中学に通っていた者たちは、数名顔見知りが座っており、入学して数日が経つことで、普通の学園生活の一幕に見える教室の風景が広がっていた。
俺にとってはすべてが非現実的であり、戸惑うばかりの世界だった。
そして、教室の窓際に座っている男子生徒。
神楽真、端正な顔立ちに、黒髪の襟足が肩にかかるほどの長さで整えられている。パッと見は綺麗な女性にも見える中性的な美しさを持っていた。
その姿は、まさにゲームで操作していた主人公そのものだ。真は机の上に置かれた魔道書に目を落としていた。
「……よし、行くか」
俺は静かに歩を進め、真の前に座った。
「おはようさん」
「……」
意識して、できるだけ自然な口調で話しかけたつもりだった。だが、真は自分に話しかけれていると思わなかったようで、一瞬顔を上げ、俺を見つめて呆然としている。
その眼差しには警戒心ではなく戸惑いが見え、自分が話しかけられるとは思っていなかったようだ。
だが、自分に挨拶をされたと気づくと、穏やかな表情に変わっていく。
「えっと、朝霧くんだったよね? おはよう」
淡々とした返事。しかし、ゲームで見てきた冷静な真そのものだった。
「おう、朝霧拓真だ。神楽真だよな」
「えっ! うん。神楽真です」
「よろしくな。俺のことは拓真って呼んでくれていいぞ。俺も真って呼んでもいいか?」
「えっと、うん。いいよ」
戸惑いながらも自己紹介をしてくれる姿も、どこかヒロインのような可愛らしさを持っている。見た目の良さと特待生という特別な存在。
俺の軽いノリに苦笑いを浮かべながら、応じてくれるのは良い奴だな。
この国で魔法が使えるのは、高貴な身分の者が多いので、真のような平民の特待生は珍しい。
だが、真はある事件をきっかけに魔力に目覚め、特待生として学園長の養子として迎えられている。立場的には、高貴な身分ではあるが、人というのは粗探しが好きだな。
真の性格は、努力家で真面目であり、能力も高いためにヒロインたちと恋愛を繰り広げていくという学園恋愛シミュレーションRPGで、モテモテ人生をやりたい放題だ。
だが、目の前の真は澄み切った瞳に、人を疑うことを知らない素直さが見えた。だが、それが闇に堕ちていく。
「真は、もうここの学園に慣れたか?」
「えっと、拓真君ってすごいね」
「うん? そうか?」
「ああ。でも、助かるよ」
なるべく軽いトーンで話しかけたつもりだが、真の表情には翳りが見えた。だが、真が思っているよりも、俺の心の中では常に真の言動に神経を尖らせていた。
どのタイミングで闇堕ちに向かうのか、常に監視しているような感覚だ。
「僕はまだ慣れないよ。入学して少しずつ落ち着いてきてはいるけど戸惑うばかりで。ただ、この学園には秘密があるから興味が尽きないよ」
真が微笑むと女子生徒たちから黄色い悲鳴をあげる。
ゲームでは何かとトラブルに巻き込まれる真だが、根は良いやつだ。だからこそ、闇に漬け込まれるんだろうけどな。
俺はその表情に安心する反面、心の奥で不安が渦巻く。
この学園の「秘密」、それこそが闇堕ちの原因であり、真が巻き込まれてしまう要因でもある。
「まぁ、そうだな。普通の人ではここでは学ぶことを知らないまま人生を終えることもあるからな。その代わりに危険も多いけどな」
「そうだね。だけど、日本国のために、僕は全力で挑みたい」
「おう! 俺も協力するぜ」
「はは、うん。よろしくね」
俺はお調子者を演じながら、真との友好を深めた。
「そうそう、拓真君はこの学園に、古代から封印されている何かがあるって知っている?」
それはまさしく封魔学園の秘密だ。だが、今それを真に伝えることはできない。
「おいおい、七不思議的なやつか? やめろよ、ホラー話は」
「ホラーじゃないよ! いくつかの古い文献にも、その存在が記されていたんだ。正体ははっきりしていないけど、魔力を持つ者に何らかの影響を与える力があるらしい」
その言葉に、俺は背筋が凍るのを感じた。
それこそが、ゲームのエンディングに至る要因だった。封印された闇の存在が、真を狂わせ、彼を破滅へと導く。
「そんなことよりも、見てみろよ」
「えっ?」
俺は教室に入ってきた、黒髪の美少女へ視線を向ける。
封魔学園のメインヒロインであり、御三家と呼ばれる国を動かす右大臣家のご令嬢、鬼月
属性は高貴でウブ。特徴は退魔の名家「鬼月家」の次期当主として育てられ、強い責任感とプライドを持つ。
一見高貴で気高く見えるが、だが実は心の弱さを隠している。彼女の立場が物語の中で孤立を深めていき、最終的に精神的な崩壊へと繋がる。
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