第6話 入学式
俺は前世でゲームオタクの社会人だった。
現実の女性と話をするのが苦手で、二次元の女の子に夢中になった。
現実の恋愛なんて興味なかった。けど、こっちの世界に転生してから、すっかり状況が変わっちまった。
最初は戸惑ったよ。朝霧家って名門の魔道士一族だし、俺はその一員として、封魔学園に通う準備をしているんだ。
毎日訓練ばっかりで、ゲームしてた頃の俺とはまるで別人みたいだ。けど、そんな田舎の少年としての生活も悪くなかった。
真面目にやればやるほど、力がついてくるのが実感できたし、魔銃を扱う訓練も面白いもんだ。
それに見た目もイケメンになって、だけど、俺の本当の人生が大きく変わったのは、あの「儀式」の日だった。
久美子さん……。
長年、朝霧家に仕えてきた美人のお姉さんが、俺の「筆おろし」ってやつをしてくれたんだ。
なんでそんなことが必要なのかって、俺も最初はわけが分からなかったけど、どうやら封魔士になるためには、女性とのつながりを通じて魔力を高めるっていう伝統があるらしい。
俺にとっては、まるで現実離れした話だった。
でも、それが終わった後、俺は変わった。いや、正確には「覚醒」したんだと思う。久美子さんとのつながりで、俺の中に眠っていた魔力が引き出されたと同時に、俺自身も何かが目覚めたんだ。
それまで使命感だけで動いていた。オタク気質で、現実の女性と接するのが苦手だった俺が、急に自信がついたというか。
それに、女性に対しても前ほど距離を感じなくなったんだ。俺も一人前の男になったってことなんだろうな。もちろん、恋愛経験なんて皆無の俺だからぎこちないとは思う。
でも、俺が本当にやらなきゃならないのは、神楽真……ゲームの主人公で、俺の親友を助けることだ。あいつは俺とは正反対で、真面目でストイック、そして闇に堕ちる運命を背負ってる。
この世界の展開を知っている俺は、何としてでもあいつを救ってやりたいと思っている。
だから、俺はゲームの中のサポートキャラとしてじゃなく、現実であいつを支える「親友」として、彼を助けることが俺の使命なんだ。
女性たちとの絆も、あいつを守るために必要な力を得るためだし、俺の目標ははっきりしてる。
魔銃を手に、妖魔と戦い、そして神楽真と一緒に世界を救う。それが俺、朝霧拓真の未来なんだ。
俺は前世と今世がやっと一つに溶け込んだ気がした。
♢
朝の風が心地よく、涼やかな桜の花びらが静かに舞い散る中。
俺は目の前に広がる景色を眺めていた。視界に広がるのは、和風建物の街並み。
瓦屋根の家が連なる古風な町並み、鳥居を越えて長い階段の先にあるのは、どこか荘厳でありながらも幻想的な雰囲気を纏う学園の門だった。
「……本当に、現実なんだな」
俺は封魔学園の入学式の風景を見ている。
周囲を見回せば、どう見ても前世の世界よりも、どこか古き情緒ある雰囲気が神気に満ちている。
封魔学園の校舎の中は、外観とは裏腹に新しい木の香りが漂っていた。
廊下に並ぶ窓からは、明るい日差しが差し込み、外の庭園の桜の花びらがひらひらと舞い込んでくる。
俺は足を進めながら、胸の鼓動を落ち着けようと深呼吸した。
封魔学園の入学式の日、俺は新しい制服に身を包んで校門をくぐった。
黒い軍服のような上下の制服は、どこか緊張感を持たせるデザインをしていた。
闇夜で身を隠し、血飛沫を受けても目立たないようにデザインされた黒い制服は、戦場に出るための覚悟を背負わせるような重厚さがあった。
周りを見渡すと、女子生徒たちは真っ白な上着に真っ赤な袴を着ていて、まるで巫女のような姿をしている。
男子生徒とは対照的な華やかな制服は、彼女たちが妖魔と戦う神の戦乙女として、神に仕える巫女ということで、制服として起用された。
封魔学園独特の伝統を感じさせる雰囲気は、華やかでありながら、どこか神聖で厳粛な空気をまとっていた。
この学園には、全国から選ばれた封魔士たちが集まる。魔道士として認められ、一人前の封魔士として認められるために、多くの生徒たちが寮生活を送りながら、妖魔との戦い方を学んでいくことになる。
「……封魔学園」
入学式が行われる大講堂に向かうと、すでに多くの生徒たちが集まっていた。
俺と同じように新しい制服に身を包み、皆それぞれの思いを抱えている。緊張している奴もいれば、興奮を隠しきれない奴もいる。
講堂に入ると、天井が高く、荘厳な雰囲気が広がっていた。
各々が決められたクラスに分かれ、椅子に腰を下ろせば、隣に夕凪小夜が座っていた。
「夕凪」
「朝霧か、よろしくね」
「ああ、よろしく」
少しばかり緊張しながらも同じクラスになれたことにドキドキとしてしまう。
緊張していると、入学式が始まった。
壇上には、白い髭を生やした学園長が立っていた。
封魔士として、長い年月を妖魔との戦いに費やして生き抜いた学園長の姿は、歴戦の戦士であり、圧倒的な強者としての風格を持っている。
「新入生諸君、ようこそ封魔学園へ」
学園長の声が響き渡る。深い声で、まるでこの場にいる全員の心に直接語りかけるようだった。
「この学園は、国の未来を守るべき戦士を育てるために存在する。ここでは、妖魔との戦いに立ち向かう力と心を学び、強くなってもらう。だが忘れてはならない。妖魔との戦いはただの力だけではなく、心の強さが必要になる。君たちが絶望に飲み込まれぬよう、己を鍛えるのだ」
学園長の言葉は重く、どの生徒も真剣な表情で耳を傾けていた。これから始まる厳しい戦いの日々を思うと、自然と背筋が伸びる。
次に壇上に現れたのは、真っ白な髪をした女子生徒だった。
彼女は主人公が選ぶ女性ではない。
それでも、その美しい見た目は、生徒たちの息を飲むに十分な美しさを持ち合わせている。
そして、封魔学園の一年では、彼女は重要な役目をもった人物だ。
主人公たちが入学した学園の先輩で、現在の封魔学園代表を務め、生徒会長をしている。
白い髪はまるで雪のようで、学園の制服を纏ったその姿は神々しさすら感じさせる。
「私は、生徒会長の
氷結先輩の言葉に誰もが息を呑んだ。彼女の言葉は、心から訴えかける力を含んでいた。
「皆さんと共に、学園生活を過ごせることを光栄に思います。また封魔学園は、厳しい試練と成長の場です。共に高め合い、そして支え合いながら前に進みましょう」
氷結先輩の声は透き通っていて、穏やかでありながら強い意志が込められていた。
周りの生徒たちが静かに頷く姿を見て、彼女がいかに信頼されているかが伝わってくる。
そして最後に、新入生代表として壇上に現れたのは、特待生の
この世界の主人公であり、そして、闇堕ちが運命付けられた存在。
高貴な身分ではなく、平民の彼はある事件をきっかけに、姉と共に学園長の養子として引き取られた。
だが、その事情はあまりにも有名で、平民である神楽真に対して向けられる視線は半々だった。
その中性的で整った容姿を好む女子からは好意的な視線が向けられ。
平民でありながら、主席で合格した優秀さに男子から嫉妬の視線を向けられる。
壇上に立っている神楽真は堂々としていた。
「僕は神楽真です。新入生代表として、この場に立たせてもらっています」
溢れんばりの魔力量と、黒刀という特別な魔法を使う真の存在は異質だった。
「封魔学園に入学できたことを誇りに思います。日本国を守るため、妖魔という脅威に立ち向かうために全力を尽くしたいと思います。ここで学び、鍛え、そして仲間たちと共に成長していきたい。僕たちは、決して一人ではない。皆んなで共に生き延びましょう。それが、封魔士の使命に繋がります」
真の言葉に教師や女子生徒から拍手が送られるが、来賓者や一部の男子からは舌打ちや威圧が向けられる。
どこか殺伐とした入学式が終わり、俺は改めて神楽真の置かれた状況が困難であることを実感させられる。
「だけど、俺がお前の親友になってやるから待ってろよ」
「朝霧は、神楽君に対して、好意的なんだね」
俺の独り言を聞いて、夕凪に問いかけられる。
「ああ、強い奴が仲間にいれば、それだけ生き残れる確率は上がるだろ?」
「それもそうだね。私たちは封魔士見習いなんだ。妖魔に負けないために魔道士としての力を強くしないとね」
「そうだな。今日からよろしく」
「うん! よろしくね」
俺は壇上を降りる真の姿を見つめながら、拳を握る。
夕凪とも、好意に出来ているので、始まりとしては順調だろう。
ここから、必ず神楽真の闇堕ちを、絶対に阻止してみせる。
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