第1話 友人転生
布団の上で目を覚ますと、視界には見慣れない和風建築の天井が広がっていた。
木の梁が幾重にも交差し、その細やかな作りはどこか荘厳な趣を感じさせる。薄い光が隙間から差し込み、木の香りが漂ってくるようだ。
「やっぱり、朝霧拓真なんだな」
俺が朝霧拓真として、ゲームの世界に転生して数日が経っていた。
冷たい雨の中、血に染まった戦い。かつて、ゲームの世界で見た光景だと理解しているのに、現実で起きたことのように生々しく体に痛みや感触が、はっきりと残っている。
目を覚ましてから、しばらくの時間は気持ちを落ち着かせなければ起きるのが辛い。
今の俺にとって、夢で見た光景は、未来に起きるかもしれない現実なんだ。
和風の街並みに魔法という摩訶不思議な世界を題材にした、《封魔学園》は、結末がすべて鬱展開で終わる最悪なゲームとして、有名になったゲームだった。
公式発表では、たった一つだけあると言われている幸福な結末。
それを見つけるために、必死に探したにもかかわらず。ゲームをやった誰一人、見つけられなくて公式に苦情が殺到したほどだ。
ネットではかなり騒がれたゲームだった。
このゲームには、魅力的な
「ウォッホン!」
このゲームの醍醐味として、妖魔と戦うのが主になる。
仲間にできる登場人物たちは育成要素を含んでいて、百人近い登場人物を育成して、妖魔と戦うために育成する。
「どうして俺がそんな世界に転生してしまうかね。しかも主人公じゃなくて、その主人公に殺される親友役って……」
布団の感触が肌に伝わり、雨の音はすでに消え、代わりに外からは風に揺れる竹藪の音が聞こえる。
俺は静かに起き上がり、自分の手を見つめる。
あの戦いの記憶は生々しく頭から離れない。血みどろの戦い。
そして俺が叫んだ言葉……。
「行くな、真!」
だが、真は振り返らなかった。
それが現実か、夢なのかは、もはや区別がつかない。
俺は体を起こし、辺りを見回す。
この世界では、封印された闇の力を宿す妖魔と呼ばれる存在が跋扈しており、それらを討伐するために選ばれし者たちが集まる学園を舞台に、ゲームが繰り広げられる。
だが、この物語には救いがない。
いや、たった一つだけ救いはあるはずなんだ。
だが、まだ誰も辿り着いたことがない。
どの道を選んでも、最終的に主人公や
救いようのない悲劇が、次々と押し寄せるのがこの世界の本質だ。
「こんな世界に……俺は転生してしまったのか」
目を閉じると、ゲームのいくつかの場面が脳裏に蘇る。
美しい女性たちとの恋愛、そしてその恋が実った瞬間に訪れる悲劇。
彼女たちは必ず妖魔によって、蹂躙され殺されて命を落とす。
主人公は愛する者を失った絶望に沈み、闇に堕ちていく。
それでも争いながら、妖魔との戦いに挑むも、最終的には封印された闇と一つになって、完全な闇として世界を滅亡させる。
この世界で生き延びる道は、一つしかない。
破滅から世界を救う。俺がこの世界で生き残るためにも、主人公が闇堕ちする運命を変える必要がある。
「封魔学園に入学して……
俺は自分の新しい役割を理解し、深く息を吐いた。
『封魔学園』では、選ばれし者たちが集い、恋愛や青春を謳歌する中で、妖魔と呼ばれる恐ろしい存在と戦わなければならない。
しかし、どんなに強くなっても、どんなに仲間との絆を深めても、最終的には悲劇が待っている。
それがこの世界の
主人公が女性たちとの関係を深めれば深めるほど、彼女たちは、より大きな代償を払うことになる。
死や裏切り、そして妖魔によって無残な姿にされる運命から、誰一人として逃れることはできない。
「俺が、この運命を変えられるのか?」
不安が胸をよぎる。だが、俺は立ち止まってはいられない。
もし、このまま何もしなければ、俺もまたこの世界の登場人物として、無意味な死を迎えるだけだ。
「真……俺はお前を助ける。絶対に、お前を闇に堕とさせない」
心には一つの決意が固まっていた。
たとえこの世界がどんなに救いようのない場所であっても、俺は諦めない。
真を、そしてこの世界を救うために、俺は戦う。
静かな屋敷の中、決意を新たにして、学園へと向かうための準備をすることにした。
準備の第一段階として、学園に行くまでに己を鍛えることだ。
和風ではあるが、魔法が存在する世界なので、登場人物一人一人に固有魔法が存在する。
朝霧家は、平安時代から続く由緒正しい家系であり、大納言や中納言といった高位の官職に就いた者たちを数多く輩出している。
朝廷や宮中での重要な役割を果たすだけでなく、妖魔退治にも尽力してきた家でもあった。
そのため、武士の血脈も受け継いでおり、魔道士としての歴史も深い。
特に、火縄銃が日本に伝来してからは、魔力を込めて敵を打つ「魔銃」に可能性を見出し、家伝の技術として魔銃を使いこなす道を極めた一族だ。
「魔銃か……」
「拓真お坊ちゃん、目が覚めたのですか?」
女性の声が聞こえてきた。この時間に俺に声をかけるのは女中をしてくれている久美子さんだ。
「はい。久美子さん、起きています」
「それでは支度をしますので、お邪魔いたしますね」
「はい」
返事をすると、着物に割烹着姿の綺麗な女性が部屋へと入ってくる。
彼女は、
化粧台の布が取り払われて、鏡が姿を表すと、十五歳の朝霧拓真の姿が映し出されていた。
紺色の少し青みかかった髪は、朝霧家の特徴であり、瞳も少し青みを帯びている。顔立ちは、無骨というほどではない少年らしい男顔が映っていた。
そこそこに整っている色男なんだよな。
このゲームに登場する登場人物は、美麗な画像も相まって、ほとんど美男美女なので、その中に入れば平凡な部類に入る。
「おはようございます。拓真お坊ちゃん」
「おはようございます。久美子さん」
「おや? 今日は落ち着いておられますね?」
「落ち着いているかな?」
「はい。本日は成人の儀が執り行われます。拓真様が魔銃に選ばれるのか……儀式の日ですから…」
今日は朝霧拓真にとって大事な日だ。
ゲームが始まる三ヶ月前……。
十五歳で、成人を迎え、自身の固有魔法を知ることになる。
「うん。多分、なるようにしかならないから」
「ふふ、成人の儀を控えて動揺する方々が多い中で、拓真お坊ちゃんはさすがです!」
「はは、久美子さん。俺も成人だからね。拓真お坊ちゃんは卒業させてよ」
「私にとっては幾つになっても拓真お坊ちゃんですが、そうですね。それでは、拓真様、本日は成人を迎えられて、おめでとうございます。朝霧家は代々、朝廷でも高い地位を持つ人々を多く輩出してきた家系です。拓真様もそのお一人になられることを久美子は期待しております」
そう言って綺麗な久美子さんはおまじないだと言って、俺の額に頬に接吻をしてくれた。
さすがは
久美子さんの雰囲気も
「あっ、ありがとう」
「ふふ、まだまだお坊ちゃんですね」
照れて赤くしてしまうと、久美子さんに笑われてしまった。
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