第13話 チーム戦闘

 封魔学園での実習は常に命がけだ。それは生徒たちの間で噂話のように語られていた。


「聞いたか? また実習で死人が出たらしい」


 廊下でそんな話を耳にしたとき、俺は思わず立ち止まった。


「本当か? 最近、死者が多いって話だよな」

「おう、特に上級生がやられてるって聞いた。妖魔が強くなってるって噂もあるし、気を抜いたらすぐに死ぬぞ」


 生徒たちが小声で囁き合う声が、冷たい風のように俺の背中を撫でていく。


 封魔学園の実習は、ただの訓練じゃない。


 現実に妖魔と戦い、命を懸けて討伐を行うんだ。しかも、最近はその実習で死人が出ることが増えているという。

 

 この学園で生き残るためには、ただ魔力を持っているだけじゃダメだ。


 実力がなければ、命を落とす。


「どうした? 拓真、考え事か?」


 俺の隣で声をかけてきたのは真だ。あの一件、以降、周りは落ち着きを取り戻して、真と過ごしていてもイチャモンをつけられることは無くなった。


 何よりも、妖魔との戦いで、真ほど信頼できるやつはいない。どんな危険な状況でも、真がいれば乗り越えられる、そんな気がしていた。


「いや、実習のことだよ。最近死人が出てるって話、気になるだろ?」

「気にはなるけど、僕たちはやるしかない。実習だろうが本番だろうが、妖魔を討たなければならないのは変わらない」


 真は落ち着いた声で言う。その言葉には迷いがなかった。


 実習の内容がどうであれ、俺たちは戦わなければならない。妖魔は現実に存在していて、討伐しなければならない敵だ。そして、そのための実習が行われる。


 封魔学園では、それこそがメインと言っても良い。


 その日の夜、学園の実習担当者から通知があり、俺たちは四人一組で実習に臨むことになった。


「チームは、神楽真、朝霧拓真、鬼月霞、そして夕凪小夜だ。お前たちはこの実習で連携を学び、妖魔討伐の任務に備えるんだ」


 担当者からそう告げられ、俺たちは集められた。それぞれ個性豊かなメンバーだ。


 真は、封魔学園入学時のトップ成績であり、注目されている実力者だ。


 その真を中心にチームが組まれたようだ。


 近接戦闘が得意な真に対して、俺は射撃を得意とする魔銃使いであり、チームの遠距離攻撃を担当する。


 鬼月霞は、冷静沈着で戦闘の指揮を執る能力が高い。彼女は退魔の名家の出身で、薙刀を使う戦闘は、俺と真の間に入って、戦闘を得意としている。


 そして、夕凪小夜は、柔道や空手の技を駆使して、敵を圧倒する。その動きは素早くパワフルで、遊撃に向いていた。


「この四人で、妖魔討伐を行う。それぞれの役割をしっかりと理解し、チームとして動けるように準備しておけ」


 担当者はそう言い残し、俺たちに最後の言葉をかけた。


「それと、今回の実習には氷結玲奈がお前たちの監督として同行する」


 氷結玲奈先輩、彼女は封魔学園を代表する実力者であり、冷静かつ厳格な指導で知られている。


 彼女が監督を務めるということは、真や鬼月が優秀者で、それだけこの実習が重要であり、同時に危険であることを意味していた。


「俺たちの監督が、あの氷結先輩か…」

「あの生徒会長か」


 氷結先輩の名を聞いて少し緊張していた。だが、彼女がいるということは、少なくとも俺たちが大きなミスをしないように導いてくれるという安心感もあった。



 そして、実習の日がやってきた。


 俺たちは指定された廃墟に集まった。そこは、人が住んでいた痕跡がほとんど消え、建物は崩れ、闇が広がっている。


 異様な雰囲気が漂い、周囲の気温も下がっているように感じた。


「皆さん、準備はよろしいですか?」


 氷結先輩が声をかけると、俺たちはそれぞれ頷いた。


「この廃墟周辺には、複数の小妖魔が潜んでいます。ですが、中には上位に位置する中妖魔になりかけもいると情報がありました。この実習で討伐するのは、これまでの訓練とは違うレベルの敵です。全力を尽くしてかかってください」


 氷結先輩が冷静に指示を出す。彼女の視線は鋭く、俺たち全員を見守っている。他の部隊も含めて、十部隊、五十名が妖魔退治に突撃を仕掛けた。


「行くぞ!」


 真の掛け声で、俺たちは廃墟の中へと足を踏み入れた。


 廃墟の中は静かで、異様なほどの静寂が支配していた。風の音すら聞こえない。まるでこの場所自体が生きているかのように感じるほど、空気が張り詰めていた。


 各々の武器を構え、しばらく進んでいると、突然、闇の中から不気味な声が響いた。


「……キシャアアアッ!」

「来るぞ!」


 真が叫んだ。


 闇の中から現れたのは、巨大な狼のような妖魔だった。


 黒い体毛に覆われたその姿は、異形の狼は鋭い爪と牙が光り、その目は血のように赤く光っている。


「俺が引きつける!」


 真が先頭に立ち、妖魔を挑発するように動き出した。彼の動きは素早く、妖魔の攻撃をギリギリでかわしながら、魔法で攻撃を繰り出す。


 俺はすかさず魔銃「焔」を構え、真の動きに合わせて援護射撃を行う。魔弾が妖魔の体に命中し、火が上がるが、それでも妖魔は倒れない。


「こいつ、硬いな!」

「小夜、右から回り込んで! 霞、俺と一緒に前衛だ!」


 真が的確に指示を出し、俺たちはそれぞれのポジションについて戦闘を続けた。霞は鋭い剣技で妖魔の足を狙い、小夜は強力な拳でその体を叩きつける。


 だが、妖魔は驚異的な再生能力を持っているのか、ダメージを与えてもすぐに回復し、攻撃を続けてきた。


「どうする、これじゃキリがないぞ!」


 俺が焦りを感じ始めたとき、氷結先輩の冷静な声が響いた。


「慌てないでいいのよ。妖魔には弱点がある。それは人と同じ。だけど、そこが最も固くて脆い場所なのよ」


 玲奈先輩の指示を受け、俺たちは再び連携を取り、妖魔の頭部を狙うことに集中した。そして、真が黒刀を抜くと、妖魔は首が飛んでついに倒れた。


「やったか……」


 疲労感が全身を襲うが、俺たちはなんとか勝利を収めることができた。


「全員、無事だな?」


 真が確認し、全員が頷く。玲奈先輩も冷静に俺たちを見守りながら、ゆっくりと歩み寄ってきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る