第11話 友情
夕暮れが学園を染め、廊下には長い影が落ちていた。
授業が終わり、教室に戻ってきた俺は、いつも通り真に声をかけようとしたが、その表情がどこか思い詰めたようにいつもとは違うことに気づいた。
「真、どうした? 元気ないじゃん」
こんな場面で声をかけないのは友人じゃない。俺はいつもの調子で真に声をかけた。
真がイジメを受けているのは知っている。だけど、そんなことで負けるような奴ではない。
だからこそ、俺は声をかけた。
真は一瞬だけ目を伏せ、口を少しだけ開いた。何かを言おうとしているようだったが、すぐには言葉が出ない様子で口を閉じる。
「拓真……君。実は、ちょっと話があるんだ」
その声には、決意の色が含まれていた。
俺は軽く眉をひそめたが、その真剣な表情に気づいて、すぐに真の正面から瞳を見つめる。真もまた俺を見返した。
夕暮れの教室で、美少年と向かい合う。
「なんだよ、改まって。お前らしくないな」
「……うん、そうかもしれない」
真は深く息を吸い込み、少し間を置いてから言葉を続けた。
「拓真君、僕から離れた方がいい。今のままだと、君にも迷惑がかかるんだ。僕といることで、余計なトラブルに巻き込まれるかもしれない……」
真の言葉は予想できていた内容だった。
こいつはどこまでも素直で真面目なやつだ。
その性根は真っ直ぐで優しい。だからこそ、自分が傷を負っても、他人のことを思いやって、俺を突き放そうとしている。
確かに俺たちの付き合いは浅い。
だけど、俺の言葉は決まっている。
「バカやろ」
俺は真の額にデコピンをお見舞いしてやる。
「痛っ! 何をするんだ! 僕は真剣な話をしてるんだぞ!」
「それがバカだって言ってんだろ。迷惑って、俺が決めたことか? 違うだろ? だいたい、イジメられているお前を見捨てると思ってんのか?」
俺は思わず声を荒げたが、真は静かに首を横に振った。
「ハァ〜本当に君は変わっているね。だけど、僕が言いたいのは、そんな簡単な話じゃない。君が僕と一緒にいるせいで、他の奴らから目をつけられてしまう。僕は自分のせいで拓真君が巻き込まれてほしくないんだよ! 君に嫌な思いをしてほしくない!」
真の声には、深い苦悩が込められていた。こいつはとことん良い奴なんだよな。
誰かを巻き込むことを嫌がり、いつも一人で問題を抱え込もうとする。だからこそ闇につけ込まれる。
でも、そんなことを言われて、俺が引き下がるわけにはいかない。
「真、お前が言いたいことはわかるよ。でもな、俺は絶対にお前から離れねぇよ。俺たちは親友だろ? 確かに教室で陰湿なイジメをしている奴らを止めることはできない。それは根本的な解決にならないからだ。だけど、お前の側にいてお前を支えてやることはできる」
俺は真をまっすぐに見つめ、強い口調で言った。
「お前は一人で何でも背負い込むのが悪いとこだぞ。でもな、そんなことしたって辛いだけだろ? 俺が友達でいる以上、お前は一人にはならない。どんなことでも一緒に背負うつもりなんだ。辛いなら辛いって言えよ。愚痴くらいは聞いてやるぜ」
真は俺の言葉を聞いて、少し驚いたような表情を浮かべた。だが、すぐにまた視線を落とし、軽く苦笑した。
「君は本当に……。どこまでも馴れ馴れしくて馬鹿な奴だよ……」
「おう! なんだわかってんじゃねぇか!」
「僕はただ、君を危険に合わせたくないだけなんだよ」
「危険? おいおい、そりゃあ、嫌なことがあるかもしれねぇけどさ。それを怖がってたら、何もできねぇだろ。それにこんな妖魔がいる世界だぞ。いつ命を落とすのかわからない危険な世界で、何を言ってんだよ」
俺は真の肩に手を置いた。
「イジメなんかに負けるなよ、真。お前は俺の大事な友達だ。それに、お前は一人じゃないんだ。俺がついてる。だから、どんなに辛いことがあっても、絶対に一緒に乗り越えてやるからさ」
真の瞳に、一瞬だけ戸惑いが走った。自分の中で葛藤しているのだろう。
俺を巻き込みたくないという気持ちと、友人として頼りたいという思いが、複雑に交錯しているのかもしれない。俺には全てをわかってやることはできない。
「……でも、僕には、そんな自信がないよ。お前みたいに強くなれない」
真は小さな声で呟いた。
俺はその言葉を聞いて、少しだけ笑ってしまった。
「強い? 何言ってんだよ。俺だって、ただお前が大事だから頑張ってるだけだ。別に特別強いわけじゃねぇよ」
俺は笑顔を浮かべながら、真の目を見据えた。
「それに、強さってのは、一人でなんでも解決することじゃない。友達と支え合って、共に乗り越えることだって強さなんだぜ?」
真は、しばらく黙ったまま俺の言葉を聞いていた。そして、少しずつ表情が和らいでいった。
「……君は、本当にバカだな」
真はそう言って、小さく笑った。その笑顔には、少しだけ光が戻っていた。
「酷いな! だけど、お前もだろ?」
「はは、そうかもしれない。だけど、ありがとう。君がいてくれて……助かるよ」
俺はその言葉を聞いて、少しだけ胸が熱くなった。
「俺たちは、これからも一緒に戦うんだろ? お前が倒れそうになったら、俺が支える。俺が倒れそうになったら、お前が支えてくれよ。それでいいだろ?」
真は小さく頷いた。
「……ああ、それでいい」
こうして、俺たちは再び絆を確認し合い、互いに支え合う決意を新たにした。
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