第16話 忘れられた神殿

 朝早く出発した健太たち一行は、山奥にある「忘れられた神殿」へと向かう道を歩き始めていた。山道は思ったよりも険しく、道中には岩場や急斜面が続き、足場も悪かった。


「ふぅ…これ、思ったよりもきついな…。」

 健太が背中にかけた荷物を背負い直しながら、額の汗を拭った。


「山登りなんて久しぶりですからね。いつも酒場で飲んでばかりだったし、こういう運動は久しぶりです。」

 亮も少し息を切らしながら答えるが、相変わらず冷静な表情を崩さない。


「おいおい、俺たち体力なさすぎじゃねぇか?この調子だと先が思いやられるぞ。」

 龍太が苦笑いしながらも、先頭を切って歩き続けていた。


「でも、この山を越えなければ神殿にはたどり着けないんだから。少しでもペースを上げて進まないと、満月の夜に間に合わないわ。」

 ミリアが後ろから声をかけると、健太たちは再び足を進めた。


 山道を登り続ける一行だったが、途中で小さな休憩を挟むことにした。息を整えながら、健太たちはそれぞれ持参した水や食料を取り出し、少しだけ体力を回復させていた。


「なぁ、ここでちょっとした飲み物を出してくれないか?」

 龍太が冗談半分に言うと、亮がすぐに突っ込んだ。


「ここで酒を飲んだら、先に進めなくなりますよ。それに、山道ではアルコールは避けるべきです。」

 亮が冷静に答えるが、龍太は全く気にせずに笑った。


「いやいや、アルコールこそ俺たちのガソリンだろ?ちょっとだけ飲んだ方が、むしろ元気が出るんじゃないか?」

 龍太が得意げに言うと、健太も苦笑しながら同意するように肩をすくめた。


「まぁ、元気が出るのは確かだけど…さすがに今は控えとこう。これ以上キツイ道が待ってるし、酒に頼るのはもう少し後にしよう。」

 健太が慎重に言うと、ミリアも笑いながら頷いた。


「そうね。今は体力を温存するべきだわ。山を登り切ったら、その時は存分に飲んでもいいけど。」


 龍太は少し不満げな顔をしたが、結局、全員が休憩を終え、再び山道を進み始めた。


 山道を歩いていると、突然、足元が崩れかける場所に差し掛かった。急な崖に近づくと、岩が脆く、慎重に進む必要があることがわかってきた。


「ここは気をつけましょう。足を踏み外すと、真っ逆さまです。」

 亮が注意を呼びかけ、全員が緊張感を持ちながら足元を確認して進んでいた。


「うわっ、やべっ!」

 突然、龍太が足を滑らせて岩場に落ちそうになった。


「龍太、気をつけろ!」

 健太がすぐに反応し、龍太の手をつかんで引き上げた。


「ふぅ…助かったぜ。でも、ここちょっと油断したら本当に危ないな。さすがに酒を飲んでる場合じゃねぇや。」

 龍太が息を整えながら苦笑すると、ミリアも少し笑いながら言った。


「ようやく理解したようね。でも、まだ道のりは長いわ。気を引き締めて進んで。」

 ミリアが冷静に声をかけると、全員が再び集中して歩き始めた。


 数時間にわたる山道を進み続けた後、ようやく一行は「忘れられた神殿」の入り口にたどり着いた。神殿は深い森の中に静かに佇んでおり、その姿は時の流れに飲まれたかのように荒廃していた。


「これが…『忘れられた神殿』か。」

 健太が感慨深げに言うと、全員がその壮大な光景に圧倒された。


「まるで何百年も眠っていたような場所ですね。扉が封印されているのも頷けます。」

 亮が周囲を見渡しながらつぶやいた。


「これで満月の夜に、神殿の扉が開かれるってわけね。でも、まだ数日あるわ。その間に、この場所の準備を整えましょう。」

 ミリアが冷静に指示を出し、全員が神殿の周囲を調べ始めた。


 神殿の入り口には、古い石碑があり、そこには古代文字が刻まれていた。亮がそれを読み解きながら言葉を紡いだ。


「『神々の試練を受けし者よ、この門を通る者に、知恵と勇気を与えん…』って書かれています。どうやら、ここでも試練が待ち受けているようですね。」


「また試練か…。これ以上飲み比べとかはもうごめんだぞ。」

 龍太が冗談っぽく言うと、健太が笑いながら肩を叩いた。


「いや、今度の試練はもっと厳しいかもしれないぞ。準備は万端にしておこう。」


 数日が過ぎ、いよいよ満月の夜が訪れた。月光が神殿の入り口に差し込むと、扉に彫られた神々のシンボルが輝き始め、ゆっくりと扉が開き始めた。


「ついに来たな…。」

 健太が緊張した面持ちで扉を見つめる。


「これが、最後の試練になるかもしれません。気を引き締めていきましょう。」

 亮が冷静に言うと、全員が頷き、神殿の中へと足を踏み入れた。


 中に入ると、古びた壁には無数のフレスコ画が描かれ、中央には巨大な祭壇がそびえ立っていた。祭壇の上には、またしても巨大な杯が置かれており、その周囲には、謎めいた光が漂っていた。


「この杯が…試練の象徴か。」

 直樹が慎重に言いながら、全員がその杯の周りに集まった。


「神々の試練…俺たちはもう何度も酒に挑んできた。今度も負けるわけにはいかない。」

 健太が力強く言うと、龍太がいつもの笑顔で答えた。


「もちろんだ。俺たちには酒と絆があるからな!どんな試練でも、飲み干してやろうぜ!」


 ミリアがその杯を見つめながら静かに言葉を紡いだ。


「この試練は、ただの飲み比べではないことは理解できているわね。今までの経験を生かして乗り越えて。」

 ミリアが慎重に説明するなか、健太たちはますます緊張感を高めていた。目の前にある杯は、これまでの酒とまるで違う神聖さを持っているように見えた。祭壇の光が怪しげに揺れ、その神々しい光景が試練の厳しさを予感させていた。


「これまでのように飲み比べを楽しむだけじゃ済まないが、今の俺たちなら乗り切れるはずだ。」

 健太が決意を込めて言うと、亮が続けて言葉を発した。


「そうです。俺たちには絆と飲み比べに負けない力があります。何が待っているのかわからないが、準備はできているはずです。」


「そうだな。俺たちはこれまで数々の試練を乗り越えてきたんだ。今度の試練も、きっと乗り越えられるさ。」

 龍太が自信たっぷりに笑いながら、拳を握りしめた。


「みんな、準備はいいか?これが最後の試練かもしれないし、何が起こるかわからないけど、俺たちは一緒だ。どんなことがあっても、乗り越えよう。」

 健太が全員に呼びかけると、全員が力強く頷いた。


「じゃあ、いくぞ!」

 健太が先陣を切って、杯を手に取り、その酒を口に運んだ。すると、瞬く間に強烈な酔いが体全体に広がり、健太は目の前が歪んでいくのを感じた。


 健太の視界が揺れ、やがて目の前には異様な光景が広がっていた。自分たちがいたはずの神殿ではなく、広大な平原の中に立っていた。周囲は静寂に包まれ、彼の仲間たちの姿も見えない。


「ここは…どこだ?」

 健太は辺りを見回しながら、混乱した様子で呟いた。ふと、遠くから声が聞こえてくる。


「健太…健太…」

 その声は龍太のものだった。健太はすぐにその方向へ走り出したが、声は遠くに行くばかりで、一向に追いつくことができない。


「なんだ、この感覚…まるで幻覚みたいだ。」

 健太は立ち止まり、冷静さを取り戻そうとする。これは試練だ。酒の力による幻覚だと理解し、彼は深く息を吸い込んで精神を集中させた。


「俺は、仲間と一緒にいるんだ。この幻覚に惑わされるわけにはいかない。」

 健太がそう言い聞かせると、周囲の景色が少しずつ変わり、やがて仲間たちの姿が見え始めた。


「おい、健太!大丈夫か?」

 龍太が駆け寄ってきた。


「お前ら、無事だったのか?」

 健太がホッとした表情を見せると、亮が冷静に答えた。


「これは精神の試練です。自分の弱さや恐れが形となって現れる。俺たちはそれを乗り越えなければならない。」

 亮が慎重に言うと、ミリアも頷いた。


「この幻覚の中で、自分自身の真実を見つけなければならない。恐れに打ち勝つことで、試練を乗り越えることができるのよ。」

 ミリアが静かに説明し、健太たちは再び気を引き締めた。


 それぞれが自分の心の中に潜む恐れや不安に直面し始めた。龍太は過去の失敗や自信を失いかけた瞬間を思い出し、再びそれが現実となって目の前に現れた。


「俺は…俺は大丈夫だ!これくらいのこと、何でもないさ!」

 龍太は自分自身に言い聞かせるように叫び、幻影に立ち向かっていった。


 一方で、亮は冷静さを保ちながらも、自分の感情に向き合っていた。冷静でいようとする反面、どこかで自分が感じていた孤独や不安が、幻覚として現れた。


「孤独を恐れることはない。仲間がいる限り、俺は一人じゃない。」

 亮は心の中でそう呟き、幻覚を消し去るために強い意思を持って進んだ。


 ミリアもまた、自分の過去に縛られていた記憶と向き合っていた。彼女が抱えていた悲しみや苦しみが、今、試練の形で目の前に現れていた。


「私は、過去を乗り越えた。仲間と共に、未来を切り開く。そして・・・!。」

 彼女は静かに拳を握りしめ、冷静な目で幻覚を見据え、力強く歩み出した。


「ここで俺たちが試されているのは、目に見えるものではない。心の強さだ。幻覚は強力だが、俺たちの意思はそれ以上に強い。」

 彼の言葉に全員が頷き、幻覚に立ち向かう準備を整えた。周囲の景色が歪んでいることを理解しながらも、仲間たちは冷静さを取り戻し、自分の力で幻覚を打ち消そうとしていた。


 全員がそれぞれの心の試練に打ち勝ち、再び祭壇の前に集まると、神殿全体が光に包まれた。杯の周囲に漂っていた光が急速に強まり、神々の声が響き渡った。


「試練を乗り越えた者たちよ。汝らは強き精神と絆を持ち、我々の力を得るに相応しい。」

 その声は、古代の神々のものだった。健太たちはその声に驚きつつも、試練が無事に終わったことを理解し、安堵の表情を浮かべた。


「神々の力…俺たちは本当にそれを手に入れたんだな。」

 健太がしみじみと言うと、龍太が笑いながらジョッキを掲げた。


「これで、俺たちは神々の祝福を受けたってわけだ!よし、帰ったらまた酒を飲んで祝おうぜ!」

 龍太が興奮気味に言うと、亮が冷静に「少し休んでからにしましょう」と苦笑した。


 ミリアはその様子を見ながら、静かに微笑んだ。


「そうね。これでようやく次に進めるわ。神々の祝福を受けた今、異界の鍵を使って元の世界に戻る方法が見つかるはず。」


 神々の祝福を受けた健太たちは、再び元の世界に戻るための手がかりを探し始めた。異界の鍵を持ちながら、神々の試練を乗り越えたことで、新たな力と知識を得た彼らは、次に進む準備が整った。


「これで、俺たちは元の世界に戻る準備ができたんだな。でも、どうやってその扉を開けばいいんだ?」

 健太がミリアに問いかけると、ミリアは静かに考え込んだ。


「異界の扉を開くには、神々の祝福を受けた場所で儀式を行う必要があるはずよ。もしかしたら、この神殿そのものが扉を開くための鍵になるかもしれない。」

 ミリアが説明すると、亮がそれに補足する。


「つまり、この神殿を利用して、異界への扉を開くということですね。今度は、具体的にその儀式を行うための手順を確認しないとだめですね。」


「俺たち、これまで通り全力で乗り越えられるさ。神々の試練を突破したんだから、次も行ける!」

 龍太が元気よく叫び、全員が決意を新たにした。


 ミリアの言葉に促され、健太たちは異界への扉を開くための儀式の準備に取り掛かることになった。神殿の奥には、神々に捧げられた杯や古代の祭具が並んでおり、祭壇の中央には再び輝きを放つ杯が鎮座していた。


「これが儀式に必要なものか。神殿そのものが鍵となるなら、ここで全てを揃えなきゃならないな。」

 健太が祭具を慎重に並べながら言うと、ミリアが本を片手に彼に指示を与える。


「この祭具を正しい位置に配置するのが大事よ。そして、満月の光が祭壇に差し込む瞬間に儀式を始める必要があるわ。」

 ミリアの指示に従い、全員がそれぞれの役割を果たしていった。


「これで儀式がうまくいけば、異界への扉が開くってことか…緊張するな。」

 龍太が少しソワソワしながら、手にしていたジョッキを置いた。


「龍太さんが緊張するなんて珍しいですね。いつもみたいに飲んで落ち着いてください。」

 亮がからかいながら言うと、龍太は苦笑いを浮かべた。


「いや、さすがに今回は飲んでる場合じゃねぇだろ。元の世界に戻れるかどうかの瀬戸際だぜ?」


「その通りね。慎重に進めていきましょう。」

 ミリアが冷静に言葉を返し、全員の目は祭壇に注がれた。


 やがて、満月の光が神殿の開かれた天窓から差し込み、祭壇に置かれた杯を照らした。その瞬間、杯が再び輝きを増し、神殿全体に神秘的な光が広がり始めた。


「来たな…準備はいいか?」

 健太が静かに声をかけると、全員が頷いた。


「満月の光が杯に注がれた今、儀式を始める時よ。みんな、集中して。」

 ミリアが本を見ながら古代の言葉を唱え始めた。その声に呼応するように、祭壇が微かに震え、空気が揺れ動き始める。


「すごい…これが神々の力か?」

 龍太が驚きの声を上げると、亮が静かに言った。


「間違いないです。俺たちがここまで乗り越えてきた力が、今この儀式で呼び起こされています。」


 光がさらに強まる中、健太たちは全員が手を取り合い、儀式を完了させるための力を注いだ。神々の祝福を受けたことで、彼らの心は一つに結ばれ、精神的な力が彼らを包み込んだ。


 突如として神殿全体が大きく揺れ、杯から放たれた光が天井を突き破るようにして放たれた。その瞬間、神殿の中央に異界への扉がゆっくりと現れ始めた。


「これが…異界への扉か!」

 健太が目を見開いて叫ぶ。


「ついに扉が現れた…これで元の世界に戻れるかもしれない。」

 亮が冷静な口調でつぶやいたが、その目には興奮が浮かんでいた。


「さあ、行こう!扉の向こうへ!」

 龍太が意気揚々と叫び、全員がその扉に向かって歩みを進めた。


 だが、その瞬間、突然扉の前に巨大な影が現れた。黒い霧のような存在が扉を覆い隠し、強烈な圧力が健太たちを押し返す。


「なんだ、これは!?」

 健太が驚きの声を上げると、ミリアが冷静にその影を見据えた。


「これは…異界の守護者よ。扉を開くためには、最後の試練が待っているみたいね。」

 ミリアの言葉に全員が緊張感を増し、再び構えを取った。


 目の前に立ちはだかる異界の守護者は、その圧倒的な存在感で健太たちを睨みつけていた。しかし、彼らは試練に慣れた戦士であり、これまでの数々の飲み比べを乗り越えてきた経験があった。彼らは直感で理解していた。次の戦いも「飲み比べ」に違いないということを。


「どうやら、飲み比べのようですね。」

 亮が冷静に守護者の動きを見ながら言った。


「飲み比べか…やってやるじゃねぇか!神々の祝福を受けた俺たちが負けるはずがない!」

 龍太がすでにジョッキを握りしめ、守護者に挑発的な笑みを浮かべた。


 守護者は無言のまま、その巨大な手で杯を持ち上げ、黒い霧のような液体を満たしてきた。健太たちはその光景を見て、これがただの飲み比べではないと直感する。


「気をつけろ、あの酒は普通じゃない。体力と精神力の両方を奪うかもしれない。」

 ミリアが冷静に警告しながら、健太たちに注意を促す。


「でも、俺たちは今まで何度も勝ってきたんだ。この守護者にも負けるわけにはいかない!」

 健太が拳を握りしめ、全員が気を引き締めて守護者に向き合った。


 守護者が手にした巨大な杯を天高く掲げると、健太たちも各々のジョッキを用意し、その場で準備を整えた。静かな緊張が張り詰めた中、守護者は杯を口元に運び、一気に飲み始めた。


「いくぞ!俺たちも負けないぞ!」

 健太が叫び、全員が杯を一斉に口に運んだ。


 酒は強烈なアルコールの匂いと共に喉を焼き付けるような刺激をもたらし、瞬時に体中に広がる。それはただの酔いをもたらす酒ではなく、精神まで揺さぶるような強烈な力を持っていた。


「うっ…これ、マジでやばい酒だな。」

 龍太が苦笑いしながらも、ジョッキを片手にさらに飲み続ける。


「肝臓が悲鳴を上げてる…けど、ここで止まったら負けだ!」

 健太もまた苦しげに顔をしかめながらも、意地で酒を飲み干していく。


「守護者も負けじと飲み続けている。俺たちが先に倒れるわけにはいかない…!」

 亮が冷静に状況を把握しながらも、限界を超えて飲み続けていた。


 飲み比べが続く中、守護者も一歩も引かずに酒を飲み干していく。互いに壮絶な一気飲みを続けながら、限界が近づいていた。しかし、健太たちは「これが最後の試練だ」と心の中で叫びながら、自分たちを鼓舞し続けた。


「くっ…!もってくれ、俺の肝臓!」

 健太が体を震わせながらも、意地でジョッキを傾け続ける。


 龍太も「俺たちは神々の祝福を受けたんだ!」と叫びながら、守護者に負けじと一気に飲み干す姿を見せ、全員が壮絶な戦いを繰り広げていた。


「ここまで来たんだ…飲む!」

 直樹は限界を超えていた。しかし、彼の帰還への意思が限界を上回り飲み続けた。


「俺たち、もうここまで来たら後に引けない!」

 亮が最後の力を振り絞りながら叫び、全員の士気をさらに高めた。


 守護者もその巨大な体で酒を飲み続けていたが、徐々にその動きが鈍くなり、手にした杯が重く感じ始めているのが明らかだった。


 守護者は目を充血させながら、再び杯を口に運んだが、その手は震え、酒がこぼれ落ちる。彼もまた限界に達していることが明白だった。


「こいつも限界だ…俺たち、もう少しだ!」

 健太が息を荒げながらも叫び、全員が最後の一口を飲み干した。


 そしてついに、守護者は巨大な杯を持ったまま、その場でぐらりと揺れ始めた。守護者の体は震え、口元から酒が溢れ出し、吐き気に襲われた様子で顔をしかめた。


「うっ…!」

 守護者は耐えきれず、ついに盛大に酒を吐き出してしまった。巨大な体が揺れ動き、崩れ落ちるようにその場に倒れ込み、呻き声を上げながら朦朧とした表情で呟いた。


「私は…負けを認める…。」


 守護者はそのまま地面に倒れ込み、酒に酔いしれながら意識を失った。


 守護者の敗北が決まった瞬間、神殿全体に再び光が広がり、健太たちはその光に包まれながら深く息をついた。


「やった…本当にやったぞ!」

 龍太が力を振り絞って叫び、全員が力尽きたようにその場に崩れ落ちた。


「これで…全て終わったのか?」

 健太が息を荒げながら問いかけると、ミリアが静かに微笑んで頷いた。


「ええ、私たちは勝利したわ。守護者を倒した今、異界の扉は完全に開かれるはずよ。」


 その瞬間、扉がゆっくりと開き始め、光がその先の世界へと導いていくかのように差し込んできた。


「これで元の世界に戻れる…本当に帰れるんだな。」

 健太が静かに扉の向こうを見つめながらつぶやいた。


「そうですね、これが俺たちの最後の冒険の終わりです。そして、新たな冒険の始まりでもあります。」

 亮がその言葉を続けた。


「さあ、行こうぜ!次の一杯は、元の世界で乾杯だ!」

 龍太が笑いながら扉に向かって一歩を踏み出し、全員がその後を追った。

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