第15話 探索再び

「さあ、街に戻ってきたぞ!」

 龍太が腕を大きく伸ばしながら港に降り立った。潮風に吹かれ、久しぶりの街並みが見えると、どこか安心した表情を浮かべる。


「これでまた飲めるな!でも、まずは元の世界に戻る方法を探さないとな…。」

 健太が荷物を背負いながら言うと、亮がその言葉に頷きつつも、眉をひそめた。


「飲むのはいいのですが、情報収集を優先しましょう。次の手がかりを掴む前に、また飲み過ぎたら元の世界に帰るのが遠のきますよ。」

 亮が冷静に言うと、龍太が肩をすくめた。


「大丈夫だって!俺たちはもう、きつい試練を乗り越えたんだぞ?これから先も問題ないさ。」

 龍太は楽観的に笑い飛ばしながら街の方へ歩いていった。


「それでも、まずは調査を進めるべきだわ。異界の鍵を手に入れたからといって、元の世界に戻る方法がすぐにわかるわけじゃない。手がかりを探すには、街での情報収集が重要よ。」

 ミリアがしっかりとした口調で言い、健太たちも納得してうなずいた。


 まず彼らが向かったのは、前回の冒険の際に訪れた情報屋だった。小さな建物の中には、前回同様に薄暗い空間が広がり、情報屋が待っていた。


「お前たちか。また戻ってきたんだな。今度は何を探してるんだ?」

 情報屋が不敵な笑みを浮かべながら、健太たちを迎えた。


「俺たち、元の世界に戻るための手がかりを探しているんだ。異界の鍵は手に入れたけど、どうやって使うかがまだわからない。何か知っていることはないか?」

 健太が真剣な表情で問いかけると、情報屋は少し考え込みながら答えた。


「異界の鍵か…。それを使って元の世界に戻るためには、特定の場所や儀式が必要になることが多い。お前たちはもう『大宴の島』の試練を乗り越えたと聞いているが、次に必要なのは、鍵を解放するための場所だろうな。」

 情報屋が静かに説明すると、ミリアが鋭く問いかけた。


「鍵を解放する場所?具体的にはどこを指しているのかしら?」


「『忘れられた神殿』って場所がある。そこでは、古代の儀式が行われ、異界の扉を開く力が眠っていると言われている。だが、その神殿は長らく封印されていて、場所を知っている者も少ない。」

 情報屋がゆっくりと話すと、健太たちは真剣な表情で聞き入った。


「『忘れられた神殿』か…。それを見つけるために、どこかに手がかりはあるのか?」

 直樹が冷静に質問すると、情報屋は首を傾げながら答えた。


「それに関する情報は、街の図書館に古い書物が残っていると聞いたことがある。それを調べれば、神殿の場所に関する手がかりが得られるかもしれない。」


「図書館か…。俺たちのやることがますます知的になってきたな。」

 龍太が少し笑いながら言うが、亮がすぐに鋭く突っ込んだ。


「いや、むしろ龍太さんにとっては一番苦手な場所ですよね。図書館で黙って本を調べるなんて、じっとしていられないんじゃないですか?」

 亮の言葉に、龍太は少しムッとしながらも「まぁな」と苦笑いを浮かべた。


「でも、ここでしっかりと調べておかないと、次の冒険に進めない。全員で協力して手がかりを探そう。」

 健太が真剣な表情で言うと、全員が図書館へ向かうことに同意した。


 図書館に着くと、中はひんやりと静かで、古びた本棚がずらりと並んでいた。書物の匂いと、時折漂う埃の香りが、冒険の雰囲気を一層引き立てていた。


「ここに『忘れられた神殿』に関する手がかりがあるはずだ。俺たちで手分けして探そう。」

 健太が指示を出し、全員がそれぞれの棚を調べ始めた。


 しばらく本を探し続けていると、亮が一冊の古い本を手に取った。


「これだ。『古代の神殿と儀式』というタイトルだ。神殿についての記述がありそうです。」

 亮が慎重にページをめくりながら言うと、ミリアがそばに寄ってきて本を覗き込んだ。


「これね…。確かに『忘れられた神殿』に関する記述があるわ。」

 ミリアが指を指しながら、古代文字の解読を始めた。


「ふむ、神殿は山の奥深くに隠されていて、特定の月の満ち欠けにしか入り口が開かない…なるほど、かなり厳しい場所にあるみたいだな。」

 健太が本の内容を読み取ると、龍太が不安そうに顔をしかめた。


「山登りか…それならそれでいいんだけど、月の満ち欠けとかタイミングが厄介だな。俺、待つのは苦手なんだよな。」

 龍太が苦笑いしながら言うと、直樹が冷静に答えた。


「それなら、タイミングを正確に把握して動けば問題ない。計画を立てて動けば、苦労は減るはずだ。」

 直樹が冷静に指摘し、全員が頷いた。


「相変わらず直樹は真面目だ。頼りになる。」

 健太がふいに言い出すと、龍太がすぐに反応した。


「そういえばさ、昨日の船旅中に俺があれだけ飲んでたのに、誰も文句言わなかっただろ?あの時、直樹がすっごい真剣な顔して『もうすぐ港だ』とか言ってたけど、あれ、後から思うとめっちゃ笑えるんだよ!」

 龍太が笑いながら話すと、直樹が少し苦笑しつつも冷静に返答した。


「酒のせいで船酔いしないか心配だったんだ。あの時は、真剣にお前のことを見ていたからな。」

 直樹が淡々とした口調で言うと、健太たちは大笑いした。


「でも、結局誰も酔わなかったし、無事に着いたってことで良かったじゃないですか。まぁ、龍太さんはいつも通り酒でテンション上がってただけですけど。」

 亮が龍太をからかうと、龍太はすぐに反応して笑顔で言い返した。


「そりゃ、俺がいなきゃ雰囲気が盛り上がらないだろ!俺が酒を飲んで場を明るくしてんだよ。まぁ、酔い潰れることはないってのがポイントだけどな!」

 龍太が得意げに笑いながら言うと、健太も肩をすくめながらジョークを返す。


「そうだな、龍太がいなきゃ静かすぎて逆に寂しいかもな。けど、次はもう少し抑え気味で頼むぞ。いつか本当に酔い潰れるぞ?」

 健太の言葉に、龍太は「それはない!」と胸を張りながら大きな声で答え、さらに全員の笑いを誘った。


「でも、酔い潰れないのはすごいわね。毎回あれだけ飲んでるのに、どうやって体が持つのかしら?」

 ミリアが興味深そうに尋ねると、龍太はまた笑いながらジョッキを振り上げた。


「それは日々の鍛錬の成果だよ!俺の体はもう酒を取り込むために進化してるんだ!」

 龍太が胸を叩くようにして答えると、亮が「そんな進化、誰も望んでいません」と冷静に突っ込み、再び全員が笑い声を上げた。


 愉快なやり取りのあと、全員は再び真剣な表情に戻り、図書館で得た情報について確認を始めた。


「さて、次の目的地は『忘れられた神殿』だな。場所はこの山奥…と。」

 健太が本を確認しながら地図を広げる。


「それに加えて、月の満ち欠けに合わせて行動する必要があるわ。どうやら満月の夜にしか神殿の扉は開かないみたいね。」

 ミリアが古代の書物を見ながら解説すると、亮がふむと考え込んだ。


「満月か。となると、あと数日後にそのタイミングが来ますね。ここで無駄に時間を過ごすわけにはいかないな。早めに出発して、準備を整えた方がいいのでは。」

 亮が淡々と計画を立て始めると、直樹も冷静に頷いた。


「そうだな。山奥ということは、道中に何か危険が潜んでいる可能性もある。装備も整えておいた方がいいだろう。」

 直樹の提案に、健太も同意した。


「よし、それじゃあ明日にでも出発の準備をして、山奥に向かおう。装備や物資を整えるために、今日のうちに買い出しを済ませておこう。」


 街での準備を終えた後、全員は再び「風のエール亭」に集まった。酒場はいつものように賑やかで、彼らが入るとすぐに馴染みの店主が声をかけてきた。


「おお、あんたたちまた来たのか!今日はどんな冒険の話を聞かせてくれるんだい?」

 店主が嬉しそうに声をかけると、健太たちは席に着きながら笑顔で応えた。


「いや、まだ冒険はこれからだ。次の目的地は山奥にある『忘れられた神殿』って場所なんだ。そこに行けば、元の世界に戻る方法が見つかるかもしれない。」

 健太が説明すると、店主は興味深げに頷いた。


「それはまた大変そうだな。じゃあ、今日はその前祝いに一杯ってとこか?」

 店主がジョッキを並べながらニヤリと笑うと、龍太がすぐに反応して声を上げた。


「もちろんだ!俺たちはどんな試練の前だって、酒を飲んで力を蓄えるんだ!」

 龍太が勢いよくジョッキを掲げると、全員がそれに続いて乾杯をした。


「でも、ほんとにこんなに飲んで大丈夫か?山登りの前にまた二日酔いになったら辛いぞ。」

 健太が少し心配そうに言うと、亮が冷静に助言した。


「そうですね。今回は山登りもあるし、体調を整えておかないといけない。今日だけは少し控えめにしておきましょう。」

 亮の冷静な判断に、ミリアも頷いた。


「そうね。満月の夜まであと数日しかないし、体力を温存するのが賢明だわ。」

 彼女が静かに言うと、龍太が少し不満げに口を尖らせた。


「控えめか…まぁ、今日はほどほどにしておくよ。でも、山を越えたらまた派手に飲めるんだから、その時は覚悟しとけよ!」

 龍太が少し悔しそうに言いながらも笑いを見せ、全員が再び笑顔で杯を交わした。


 翌朝、全員は装備を整え、山奥にある「忘れられた神殿」へ向けて出発する準備を終えた。街の出口で最後の確認をしてから、健太が力強く言った。


「さあ、行こう。次の目的地は『忘れられた神殿』だ。満月の夜に間に合うように進むぞ!」


「おう!山登りなんてへっちゃらだ。俺たちなら何だって乗り越えられるさ。」

 龍太が元気に叫びながら先頭を切って進み始めると、亮が「無理しないでください」と冷静に突っ込み、ミリアがそのやり取りに笑いながらついていった。


「この調子でいけば、あっという間に着くわね。でも、油断は禁物よ。道中にはきっと何かしらの試練が待ち受けているはず。」

 ミリアが慎重な声で言うと、直樹が最後に歩調を合わせながら同意した。


「そうだ。道中の危険に備えつつ、慎重に進もう。」


 こうして、健太たちは再び次の冒険へと旅立った。道中での新たな試練や驚くべき出会いが待っているのは間違いなかったが、彼らはすでに何度も困難を乗り越えてきた。その強さと絆を持って、再び挑むべき道へと足を踏み出すのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る