第13話 自由な時間

 異界の鍵を手に入れた健太たちは、次に進む前に少し休息を取ることにした。それぞれが街を自由に楽しむ時間を持ち、夕方には酒場で合流する約束をして解散する。


「よし、今日は自由行動だ。夕方には『風のエール亭』で集合だぞ。」

 健太が軽く手を振りながら、仲間たちに声をかける。


「自由って言われても、何していいかわからないんだけど…とりあえず、街をぶらぶらするか。」

 龍太が少し戸惑いながら、周囲を見回す。


「俺は本屋でも探してみます。何か面白い本があるかもしれないので。」

 亮が淡々と答えると、早速歩き出した。


「俺は道具屋に行って、次の冒険のための装備を見ておこう。」

 直樹が冷静に次の行動を決め、ミリアはその場に残って街を見つめていた。


「ミリア、街を回るならスマホで写真を撮るといいよ。地図アプリは使えないけど、写真は撮れるからさ。」

 健太がポケットからスマホを取り出し、ミリアに見せながら提案した。


「スマホ?これがその…異世界の機械なのね?」

 ミリアは不思議そうにスマホを見つめる。


「そうだよ。電波は入らないけど、こうやって写真を撮って思い出を残せるんだ。」

 健太がカメラアプリを開いてミリアに向けると、彼女の顔が画面に映し出された。


「まるで鏡のように映し出されているわね。でも、これが魔法ではなく機械で動いているなんて信じられない…。」

 ミリアは驚きながら、スマホの画面を覗き込んだ。


「そんなに難しくないよ。こうやってボタンを押すだけで…」

 健太がシャッターボタンを押すと、ミリアの写真が画面に残った。


「すごいわ…。こんなに簡単に姿を記録できるなんて、まるで魔法ね。」

 ミリアは感動したようにスマホを眺め、再び健太に返した。


「自由に散策して、面白いものがあったら写真を撮っておくといいよ。じゃあ、みんな夕方に酒場で会おう!」

 健太が笑顔で言い、全員がそれぞれの方向へと散っていった。


 龍太は街の中をぶらぶら歩きながら、面白い場所を探していた。彼にとって、この異世界の街はすべてが新鮮で、歩くだけで興奮が抑えられなかった。


「この街って、どこも面白そうだよな。どこから回ればいいんだ?」

 彼は辺りを見渡しながら歩き続けていたが、途中で大きな広場にたどり着いた。


「なんだここ?すごい賑やかじゃねぇか!」

 広場では、地元の人々が音楽に合わせて踊り、屋台が立ち並んでいた。祭りのような雰囲気に包まれたその場所は、まさに龍太が探し求めていた「面白い場所」だった。


「おお、これは混ざらないと損だろ!」

 龍太はすぐさま音楽に合わせて体を揺らし始め、踊りの輪に飛び込んだ。


「よし、俺も負けてられないぞ!」

 彼は思い切りステップを踏み、地元の人々と一緒に踊り続けた。地元の人々は龍太の陽気さに驚きながらも、すぐに彼の踊りを受け入れ、盛り上がっていった。


「へへ、やっぱり俺って人気者だな!」

 龍太は自信満々に笑い、スマホで写真を撮ろうとしたが、うまくカメラを起動できず、結局その瞬間を逃してしまった。


「なんだよ、スマホって難しいな…。でも、まぁいいか。楽しんだからそれでよし!」

 彼はそのまま広場を後にしたが、いつの間にか道に迷ってしまっていた。


「えっ、ここどこだ?あれ、俺、帰り道わかんねぇぞ…。」

 龍太はしばらく周りを見渡して途方に暮れたが、すぐに気を取り直した。


「まぁ、夕方には酒場に戻れるだろ。なんとかなるさ!」

 彼は相変わらず楽観的に考え、再び街中を歩き続けた。


 一方で、亮は街の中で静かな本屋を見つけていた。異世界の街に本屋があることに少し驚きつつも、亮はその静かな雰囲気に安心感を覚えた。


「ここには、どんな本が置いてあるんだろう?」

 彼はゆっくりと店内を歩き、異世界の書物を手に取ってみた。


「これは…魔法に関する本か。俺は魔法はあまり使わないけど、次の冒険に役立つかもしれない。」

 亮は興味深そうに本を眺め、いくつか購入することにした。


「それにしても、異世界の本でも静かな時間を過ごせる場所は同じですね。」

 彼は少し微笑んで店を後にし、街のカフェに立ち寄ってコーヒーを注文した。カフェのテラス席で本を読みながら、亮はスマホを取り出してふと周りの景色を撮影した。


「電波は入らないけど、写真くらいはいい思い出になりますよね。」

 そう言って、異世界の街並みをスマホに収めていった。


 ふと亮が隣の近くの席を見ると、図書館の情報を話てくれた情報屋が誰かと話していた。

 何か話をしていたが、大宴の島というキーワードだけ聞き取れたので、スマホのメモ帳に入力してからコーヒーを飲み、一息ついた。


 直樹は次の冒険に備えて道具屋を探していた。異世界には見たことのない道具がたくさん並んでおり、彼は一つ一つ慎重に見て回っていた。


「これは…魔法が組み込まれたポーションか。日本では絶対に見られない代物だな。」

 直樹は興味深そうに道具を手に取り、使い方を確認しながら必要なものを買い揃えていった。


「このロープは次の冒険で使えるかもしれないし、防具も新調しておこう。」

 彼は冷静に選んだ道具をバッグに詰め込み、スマホで購入した道具の写真を撮り始めた。


「これで記録しておけば、次に何を持っているか忘れずに済む。」

 直樹は実用的にスマホを活用しながら、街をもう少し探索することにした。


 ミリアは街を歩きながら、異世界の文化や技術に興味を持っていた。露店で並べられたアクセサリーや、賑やかな通りを歩く人々の姿が彼女にとっては新鮮だった。


「この世界には、本当に色んなものがあるのね…。」

 彼女はふと、健太から借りたスマホを手に取り、周囲の様子を撮影してみることにした。シャッターボタンを押すと、瞬時に景色が画面に残る。


「すごい…こんな風に一瞬で記録できるなんて。」

 ミリアはスマホの画面をじっと見つめ、何度も驚きの声を上げていた。異世界の魔法と違って、この機械はすべてが人間の技術で成り立っていることに、彼女はさらに感心していた。


「魔法じゃなくても、こんなにも精巧なものを作り出せるなんて…異世界の技術は本当に侮れないわね。」

 ミリアは露店の賑わいや、美しい街並みを写真に収めていく。彼女はそのたびにスマホを見つめて、驚きの表情を浮かべる。


「まるで絵画のように記録されていくなんて、これがもし魔法の道具だと言われたら、私でも信じてしまいそう。」

 彼女はしばらく写真を撮り続けた後、ふと街の広場に足を運んだ。


 そこでは、街の子供たちが楽しそうに遊んでいる様子が見られた。ミリアはその無邪気な姿に微笑みながら、スマホでその光景を撮影した。


「こうして記録しておけば、あとで何度でも思い返せるのね。便利だわ…本当に便利なものね。」

 彼女はスマホの機能に感心しつつ、街をもう少し散策することにした。


 夕方になり、健太たちは約束通り「風のエール亭」に再び集まった。酒場にはすでにたくさんの客が集まっており、にぎやかな声が響いていた。


「おお、全員そろったな!みんな、今日はどうだった?」

 健太が笑顔で問いかけ、全員が各々の席に着いた。


「俺は、広場で踊ってきたぜ!みんなと一緒に音楽に合わせてステップ踏んだんだ。最初は戸惑ったけど、すぐに俺も輪に入れてもらったんだよ!」

 龍太が興奮気味に話し、健太は笑いながら「お前、さすがだな」と答える。


「俺は本屋で面白い本を見つけました。この世界の魔法に関する本だったけど、少しだけ勉強してみようかと。」

 亮が静かに答え、テーブルの上に数冊の本を置いた。


「俺は道具屋で次の冒険のための装備を揃えてきた。これで何かがあっても大丈夫だろう。」

 直樹が冷静にバッグの中から購入した道具を見せた。


「私は街を散策して、色々な場所を見て回ったわ。特に、健太が貸してくれたスマホが面白くて、たくさん写真を撮ってしまった。」

 ミリアがスマホを取り出し、今日撮った写真をみんなに見せた。


「そうか、やっぱりスマホに驚いたか。便利だろ?」

 健太が笑顔で言うと、ミリアは頷きながら答えた。


「本当にすごいわ。魔法じゃなくて、ただの機械でここまでのことができるなんて…最初は信じられなかったけど、使い方を教えてもらったらとても楽しくなったわ。」


「お前ら、写真もいいけど、せっかくだから酒も楽しもうぜ!」

 龍太が笑いながら、カップを掲げた。全員がそれに応じて乾杯し、酒場はさらに賑やかになった。


 酒を飲み始めると、健太たちは今日起こったくだらない出来事をお互いに語り合い始めた。


「俺、さっき道に迷っちまってさ。広場で踊ってるうちにどっか行っちゃって、帰り道がわかんなくなってさ。」

 龍太が恥ずかしそうに話すと、亮がすぐに突っ込んだ。


「龍太さん、やっぱり迷子になったのですね。踊っていたのはいいけですけど、場所覚えくださいよ。」

 亮が呆れたように言うと、全員が笑い出した。


「俺もスマホで写真を撮ろうと思ったんだけど、全然うまく撮れなくてさ。結局、猫が逃げちゃって、その瞬間を逃しちまったよ。」

 龍太が苦笑いしながら話すと、健太が「まぁ、練習すればそのうち上手くなるよ」と慰めた。


「俺は道具屋で店主に延々と商品の説明をされて、ほとんど話を聞かないまま適当に買い物してきた。」

 直樹が少し困ったように言うと、龍太が「いや、それいつものことだろ」と笑いながら返した。


「でも、次の冒険には役に立つだろうし、まぁいいんじゃないか?」

 健太がそう言うと、直樹は軽くうなずいて酒を飲み干した。


 その間、ミリアはスマホをいじりながら、不思議そうな顔をしていた。


「本当にこれが魔法じゃないなんて…どうやって作られているのかしら?私たちの世界には、こういった機械は全くないわ。もしこの技術が広まったら、世界が大きく変わるかもしれないわね。」

 ミリアが感心した様子で言うと、亮が静かに答えた。


「まぁ、こっちの世界じゃ普通なんですけど。ミリアさんの驚く顔を見るのも面白いけど、使い方を覚えたらもっと楽しめると思いますよ。」


「ありがとう、亮。でも、もう少しこの世界の技術について学んでみたいわ。冒険でも役に立つかもしれないしね。」

 ミリアが微笑んで答え、健太たちもそれを聞いて頷いた。


 健太たちは、酒を飲みながら今日一日の出来事を共有し、笑い合って過ごした。全員がそれぞれに楽しい時間を過ごし、異世界での冒険とはまた違った自由な時間を楽しんだ。


「やっぱり、こうやって酒場で集まって飲むのが一番だな。」

 健太が満足そうに言うと、全員が「その通りだ」と笑顔で乾杯をした。


 こうして彼らは、充実した一日を過ごし、次の冒険に向けて英気を養ったのだった。

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