第11話 勝ち続けるものたち
図書館で「異界の鍵」の手掛かりを見つけた健太たちだったが、準備を整える前に、どうしても酒を飲みたくなってしまう。特に龍太は、飲むことが今や冒険の一部であるかのように感じていた。
「よし、手掛かりも見つかったし、これで俺たちは準備万端だな!」
健太が明るい声で言う。
「でもさ、その前に…少しだけ飲みに行くのもいいんじゃないか?」
龍太が半ば申し訳なさそうに言うが、亮がすぐに反応する。
「冒険の前に飲むのはどうかと思いますよ。」
亮が呆れたように肩をすくめる。
「だが、今日は祝杯をあげてもいいかもしれない。異界の鍵の手掛かりを見つけたんだからな。」
直樹が冷静に分析し、ミリアも少し笑みを浮かべた。
「皆が飲むのなら、私も付き合おうかしら。でも、また掛け飲み勝負をするつもりなの?」
ミリアが問いかけると、龍太が即座に笑顔を見せた。
「もちろんさ!俺たちが掛け飲み勝負で無敗なのはもう知ってるだろ?」
龍太が自信満々に言うと、亮が皮肉を込めて言った。
「ま、どうせ次の日には全員が二日酔いで倒れるんでしょうけど。」
亮が軽く笑いながら言い、全員が「それも確かに…」と同意していた。
健太たちは、今まで異世界で無料で酒を楽しんでいた理由――それは「掛け飲み勝負」で勝ち続けてきたからだった。異世界に来たばかりの頃、彼らは何も持たずにどうにかして生活を送る手段を探していたが、酒場で行われていた飲み比べ勝負で他の客を倒すことに成功し、それ以降、毎回その戦利品で飲んでいた。
「ミリアの試練の合間に休息をもらった時、金も持たずにどうするか悩んでたな。」
健太が懐かしそうに思い返す。
「そうそう。でも、あの時俺たちが飲み比べで勝って、それで酒代を稼いだんだよな!」
龍太が自慢げに言うが、亮が即座に突っ込む。
「いや、皆で協力して飲んだんですよね?龍太さんは最後にダウンしてたじゃないですか。」
亮が冷静に指摘し、龍太が顔を赤らめながら笑う。
「まぁ、あの時は俺もやりすぎたけど、今はもうベテランだからな!」
「ベテラン?酒を飲むベテランですか?」
亮が皮肉を込めて言うと、全員が大笑いした。
酒場「風のエール亭」へ到着した健太たちは、すでに何度もここで掛け飲み勝負をして勝利していた。店主は彼らを見て笑顔を見せた。
「また来たね。今日も飲んでいくのかい?」
店主がにこやかに声をかける。
「もちろん!今日は手掛かりを見つけたから、祝杯をあげたいんだ。」
健太が答え、全員がカウンターに座る。
「でも、その前に掛け飲み勝負もやるだろ?今日も一儲けして、さらに祝杯をあげるぞ!」
龍太が意気揚々と話すと、ミリアが軽くため息をついた。
「また掛け飲み勝負なのね…。本当に懲りないわね。」
ミリアが呆れたように言ったが、亮は楽しげに笑っていた。
「お約束ってやつですね。酒を飲んで、次の日に後悔するっていう。」
亮が軽く肩をすくめ、ミリアはそれに微笑んで返した。
飲み比べ勝負の時間が告げられ、店内は賑やかさを増した。健太たちはすぐに参加を決め、挑戦することにした。
「俺たちが今日も勝つに決まってるだろ!」
龍太が自信満々に宣言し、他の客たちも彼らの姿を見て「またあの連中か」と興味津々に見つめていた。
「俺たち、こうやって何度も勝ってきたんです。今日も負けるはずがない。」
亮が静かにカップを持ち上げ、直樹も「焦らず、いつも通りにやればいい」と冷静に答えた。
飲み比べが始まり、健太たちは次々とエールを飲み干していった。周りの参加者たちも続けてエールを飲んでいたが、次第に彼らの顔色が変わっていく。
「今日は相手もなかなか粘ってるな。でも、俺たちはまだまだいけるぜ!」
龍太が大声で笑い、次の一杯を注文した。
「龍太さん、本当に限界知らずですね。」
亮が皮肉を込めながらも笑顔を浮かべ、カップを傾けた。
参加者たちが次々と倒れ、最終的には健太たちが再び勝利を収めた。
「やっぱり俺たちが勝ったぜ!」
龍太が誇らしげに叫び、周りの客たちは拍手を送りながらも「次こそは倒す」と悔しそうにしていた。
「これでまた戦利品が手に入ったな。これでしばらくは飲み食いに困らない。」
健太が笑いながら言うと、ミリアが冷静に頷いた。
「でも、そろそろ別の街に行くべきかもしれないわね。これ以上勝ち続けると、挑戦者がいなくなりそう。」
ミリアが指摘すると、亮が冗談めかして言った。
「まぁ、それなら別の街で新たな飲み比べ勝負をすればいいです。どこに行っても俺たちは勝ちますよ。」
「それ、次はちゃんと準備してから挑んでくれよな。」
直樹が冷静にまとめたが、龍太は再び「とにかく今は祝杯だ!」と叫んでカップを掲げた。
勝利を祝って、健太たちは戦利品で再びエールを楽しんだ。
「今日もいい感じに稼いだし、これで冒険の準備もバッチリだな。」
健太が笑いながら言い、全員が乾杯の音頭を取った。
「でも、俺たちがこうやって飲み続けていられるのも、毎回勝ってるからだよな。」
龍太が自慢げに言うと、亮がまた皮肉を込めて言った。
「でも、次は遺跡ですよ?そこじゃさすがに飲み比べ勝負なんてできませんよね。」
亮の皮肉な発言に、全員が一瞬静まり返ったが、すぐに笑い声が上がった。
「亮の言う通りだな。遺跡に行って飲み比べ勝負はさすがにできない。次は本当に気を引き締めないとな。」
健太が真剣な表情をしながらも、カップを掲げる。
「そうだ、次の冒険ではしっかりと準備が必要だ。だが、今日の勝利を祝わない手はないだろう!」
龍太が再び元気に声を張り上げ、全員で乾杯する。
「まぁ、遺跡では飲み比べはできないけど、それでもまた何か面白いことが起こるかもしれないですよね。」
亮が軽く肩をすくめながらカップを傾け、ミリアも微笑んで頷いた。
「確かに、どんな状況でもあなたたちは楽しむ方法を見つけるわね。」
ミリアが冷静に言いながらも、どこか楽しそうに感じている。
「それが俺たちの強みってやつだろ?」
健太が笑顔を見せ、直樹も静かに同意する。
「強みと言えるかはわからないが、楽観的であることは悪くない。ただし、準備は怠らないことだ。」
直樹が真剣な表情でまとめ、全員が再びうなずいた。
酒場での祝杯が一段落つくと、健太たちは次の冒険、つまり「異界の鍵」を見つけるための遺跡探索に向けた準備を始めることになった。
「さて、飲んだのはいいけど、これからはちゃんと装備や道具を整えないとな。」
健太が真剣な表情に戻り、全員が再び冒険モードに切り替える。
「よし、まずは街で必要な物資を揃えよう。それから遺跡に向かうんだ。」
龍太も気合いを入れて言ったが、亮がすぐに軽く突っ込んだ。
「龍太さん、さっきまで飲んでた奴がいきなり真剣になると違和感がありますね。」
「なんだよ、それ。俺だってやる時はやるんだよ!」
龍太がムッとした顔をするが、亮は笑いながら「まぁ、信じています」と言って肩を叩いた。
「確かに、遺跡探索ではしっかりと準備が必要だわ。魔物が出る可能性もあるし、罠も仕掛けられているかもしれない。」
ミリアが冷静に指摘し、全員がそれに同意した。
「遺跡には未知の危険が待っているだろう。装備を万全にして、慎重に行動しよう。」
直樹も慎重に話を進め、彼らは街での準備を整えることに集中することになった。
準備の途中、街の広場で一息ついた彼らは、再び軽い雑談を始めることにした。冒険の合間のこうしたひとときも、彼らにとっては大切な時間だった。
「それにしても、俺たちって本当に酒に恵まれてるよな。毎回どこかで飲み比べ勝負して、タダで飲んでるし。」
龍太が呟き、全員が苦笑いした。
「まぁ、運が良かったと言えばそうだな。でも、次はさすがにそう簡単にはいかないだろう。」
健太が笑いながら答えた。
「確かに、遺跡には酒場なんてないだろうし、飲み比べで魔物を倒すわけにもいきませんよね。」
亮が冗談めかして言い、全員が笑い声を上げた。
「魔物相手に飲み比べするなんて、想像もできないわね。」
ミリアが呆れた表情を浮かべながらも、どこか楽しげに微笑んでいた。
「でも、俺たちなら何だってやれそうな気がしてくるよな。飲み比べだろうが、遺跡探索だろうが、何でもこなしていくんだ!」
龍太が勢いよく言い放ち、全員がまた笑い出した。
酒場での祝杯と雑談を終えた健太たちは、ついに遺跡への準備を整え、次なる冒険へと向かうことになった。街の広場で最後の確認を行い、彼らはそれぞれの役割を確認し合う。
「よし、装備は整ったか?」
健太が皆に確認する。
「問題ない。万全の準備ができた。」
直樹が短く答え、亮もうなずく。
「いつでも行けるぞ!俺たちが異界の鍵を見つけて、元の世界に戻るんだ!」
龍太が拳を突き上げて叫び、ミリアが冷静にそれを見つめる。
「異界の鍵を手に入れることができれば、私たちの旅も終わりに近づくわね。でも、油断しないことが大切よ。」
ミリアが注意を促し、全員がそれに同意した。
「そうだな。油断せずに慎重に進む。それが俺たちのルールだ。」
健太が力強く言い、全員がその言葉を胸に刻んだ。
こうして、健太たちは新たな冒険――街の地下に広がる遺跡へと向かうことになった。次に待ち受けるのは、未知の世界と「異界の鍵」。それを手に入れるための道のりは険しくも、彼らにとって新たな挑戦だった。
だが、その前に――酒を飲み、笑い合ったひとときが、彼らの絆をさらに強固なものにしたのだった。
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