第10話 図書館での手掛かり

 二日酔いから何とか復活した健太たちは、情報屋で得た「図書館に元の世界へ帰るための手掛かりがある」という情報を頼りに、街の北にある古い図書館へと向かうことにした。昨日の騒ぎを反省しつつも、彼らは次なる目的に向かって気を引き締めていた。


「ふぅ…昨日のことはあまり思い出したくないな。」

 健太は頭を軽く振りながら歩いていた。


「俺もだ…。今日は絶対に酒は控えるぞ。ほんとに。」

 龍太は決意表明するように言ったが、亮はすぐに冷やかすような声を上げた。


「本当ですか?龍太さんが酒を控えるなんて、またすぐ飲みたくなるに決まってますよ。」

 亮がニヤニヤしながらからかうと、龍太は顔をしかめた。


「いや、今回は本気だって!俺だって学んだんだよ!」

 龍太は真剣に答えるが、全員が「それなら今度は期待しておくよ」と苦笑いで応じる。


 ミリアは冷静な表情を保ちながらも、昨日の自分の酔い乱れた姿が頭に浮かんで恥ずかしそうにしていた。


「私も…昨日はちょっと失態を見せてしまったわね。普段は冷静でいるつもりだったのに。」

 ミリアは顔をうつむけて言うが、健太が励ますように声をかけた。


「ミリアだって、たまには羽目を外してもいいだろ。俺たちも楽しかったし、それにミリアが酒に強いことは証明されたよ。」

 健太の言葉に、ミリアは少し微笑んで頷いた。


 街の北にある図書館に到着すると、そこには古い石造りの建物がそびえていた。入り口には風化した彫刻が施され、年季の入った扉が彼らを迎えた。中に入ると、ほこりっぽい空気が漂い、古書が所狭しと並べられた本棚が視界に広がった。


「うわぁ、これはまた古めかしい場所だな。」

 龍太が目を輝かせながら館内を見渡す。


「この中に俺たちが帰るための手掛かりがあるんですか?」

 亮が少し疑わしそうに言ったが、ミリアは真剣な表情で答えた。


「ここには古い伝承や異世界に関する情報が多く集められていると聞いているわ。どこかに私たちが帰る方法が記されている可能性が高い。」


「それなら、まずは探し始めるか。」

 健太が意気込んで手近な本棚に向かうと、そこには古代文字で書かれた巻物や分厚い本がぎっしりと詰まっていた。


 図書館の探索が始まったが、彼らは慣れない古代文字や複雑な記述に苦戦し始めた。ミリアが主に内容を解読する役割を担い、健太たちは本を取り出してはそれをミリアに見せるという流れになっていた。


「これはどうだ?」

 健太が一冊の分厚い本をミリアに見せる。


「ふむ…これは異世界の精霊について書かれた書物ね。でも、帰還の手掛かりとは関係なさそう。」

 ミリアは冷静に本を戻す。


「おい、これなんかどうだ?タイトルが『異界を越えて』って書いてあるぞ!」

 龍太が大きな声で本を手に持ちながら近づく。


「それ、物語ですよね?多分関係ないですよ。」

 亮がすぐに突っ込み、龍太はがっくりと肩を落とした。


「まぁ、俺たちは情報を探しつつも、酒場の時みたいに何か面白い話でも見つけられればいいさ。」

 直樹が淡々と言いながら、次の本棚へと向かう。


「直樹、お前冷静すぎてつまんねぇよ!」

 龍太が大声で笑いながら言ったが、直樹は無表情のまま「そうか」とだけ答えて次の棚へ進んでいった。


 しばらく探していると、ミリアが一冊の本に目を留めた。古びた表紙には何も書かれていないが、その周りには不思議な雰囲気が漂っている。


「これは…ただの本じゃないかも。」

 ミリアが慎重にその本を手に取り、ゆっくりと開いた。


 中には、異世界に関する古代の呪文や儀式が書かれていたが、その中に「帰還の儀式」という章が存在していた。


「これよ!この章には、異世界から元の世界に帰るための儀式について書かれているわ!」

 ミリアが興奮気味に声を上げ、全員が彼女の周りに集まった。


「やったじゃないか!これで俺たちは元の世界に帰れるんだな!」

 龍太が喜びの声を上げたが、亮は少し冷静に言った。


「でも、帰還の儀式なんて、簡単にできるものなんですか?俺たちだけでやるには、ちょっと怖い気がするんですけど…」


「確かに、儀式にはいくつかの条件が必要ね。ここに書かれているのは、特定の魔法具や場所、それに…かなり強い魔力が必要だと記されているわ。」

 ミリアが本を読み進めながら、慎重に説明を始めた。


「強い魔力か…。俺たちだけでその魔力を集めるのは無理そうだな。」

 健太は難しそうな顔をしてミリアの話を聞いていたが、突然、龍太がにやりと笑って言った。


「なぁ、健太。俺たち、酒で強くなったじゃん?もしかして、酒を飲んで魔力を高める方法とかあるんじゃないか?」

 龍太の馬鹿げた提案に、全員が一瞬沈黙したが、亮がすぐに大笑いした。


「龍太さん、また酒のことしか考えてないでしょ!酒を飲んで魔力が上がるわけないですよ!」

 亮が笑いながら言うと、龍太は「いや、意外と効果があるかもしれないぞ!」と冗談を続けた。


「でも、冗談はさておき、ここに書かれている魔法具を探すことが重要だわ。この図書館にあるかもしれないし、もしなければ街の他の場所で手がかりを探す必要があるわね。」

 ミリアが冷静に話を戻し、全員が真剣に頷いた。


 本を探している途中、全員が疲れたため、図書館の一角で一息つくことにした。彼らは座ってそれぞれ軽く休憩を取りながら、再びくだらない話を始めた。


「なぁ、直樹。お前、昨日のこと覚えてるか?冷静に装ってたけど、最後は完全に酔っ払ってたぞ!」

 龍太がニヤニヤしながら直樹に話しかける。


 直樹は一瞬黙り込んだが、冷静な表情で答えた。「もちろん覚えているさ。だが、俺は酔っ払って倒れる前に、少し休憩を取っていたんだ。冷静さを失ったわけじゃない。」


「えっ、あれが休憩って…直樹さん、椅子から転がり落ちてましたよね!」

 亮がすぐにツッコミを入れ、全員が笑い出した。


「まぁまぁ、直樹も酔っ払うと普通の人間らしくなるってことでいいんじゃないか?」

 健太がフォローするように言うが、直樹は肩をすくめてため息をついた。


「飲んだことは否定しないが、次はもっと計画的に飲む。」

 直樹は冷静を装おうとするが、その言葉にまたもや全員が笑い出した。


「計画的に飲むって、どういう飲み方なんだよ!」

 龍太が笑いながら肩を叩くと、直樹は少し顔を赤らめて本を読み始めた。


「それにしても、昨日は全員が潰れるまで飲んだんだ。ミリアがあんなに飲むなんて驚いたよな。」

 健太がミリアに目を向けると、ミリアは少し照れた様子で苦笑いを浮かべた。


「昨日は…私もつい調子に乗ってしまったのよ。普段はあんなに飲まないんだから。」

 ミリアがそう言うと、亮がニヤリと笑って言った。


「でも、ミリアさんが酔っ払ってる姿ってなかなかレアでした。あんな風に笑ってるところ、初めて見たかもしれません。」


 ミリアは恥ずかしそうに顔を赤らめながらも、少しだけ微笑んだ。「そうね…でも、もうあんな風にはならないわ。少なくとも、しばらくはね。」


 休憩を終えて再び本棚を探し始めた健太たちは、ミリアが解読した本の内容を元に、魔法具や儀式に必要なアイテムについて調べることに集中した。


「ここに書かれている魔法具のひとつ、『異界の鍵』というものが必要だわ。それを使えば、異世界から元の世界に帰るための扉を開けることができるみたい。」

 ミリアが本を指さしながら説明すると、健太は真剣な表情で頷いた。


「異界の鍵か…。それはこの図書館にあるのか?」

 健太が尋ねると、ミリアは少し考え込んだ。


「図書館にあるかどうかはわからないけれど、この街のどこかに存在する可能性は高いわね。この図書館に保存されている他の資料や地図を調べれば、手掛かりが見つかるかもしれない。」


「じゃあ、俺たちで鍵を探し出すしかないってことですね。」

 亮が決意を固めたように言うと、直樹も同意するように頷いた。


「この図書館にある古い地図や記録を探せば、鍵がどこに隠されているのか見つかるはずだ。まずは手分けして資料を調べよう。」

 直樹が冷静に指示を出し、全員がそれぞれの役割を分担して資料を調べ始めた。


 しばらく資料を調べ続けた後、健太が一冊の古い地図を見つけた。そこには「異界の鍵」が隠されている可能性がある場所として、街の地下に広がる古代の遺跡が記されていた。


「見てくれ、ここに『異界の鍵』のことが書かれてる!街の地下にある遺跡に隠されてるみたいだ!」

 健太が興奮気味にみんなに知らせると、全員が集まってその地図を覗き込んだ。


「遺跡か…冒険になりそうですね。鍵を手に入れるためには、そこに行くしかない。」

 亮が嬉しそうに言うと、龍太は興奮を抑えられずに声を上げた。


「よっしゃ、俺たちの次の目的地は決まったな!遺跡で鍵を手に入れて、そしたら俺たちは元の世界に帰れるってわけだ!」


「でも、遺跡には何か危険があるかもしれないわ。無謀に突っ込むのは避けるべきね。」

 ミリアが冷静に注意を促すが、龍太は全く意に介していない様子だ。


「大丈夫だって、俺たちならどんな危険でも乗り越えられるさ。鍵を手に入れたら、まずは一杯祝杯をあげるぞ!」

 龍太は完全に冒険モードに入っており、全員が少し呆れながらも笑っていた。


「まぁ、龍太の言う通り、俺たちならやれるさ。次はその遺跡で手掛かりを見つけよう。」

 健太が力強く宣言し、全員が頷いた。


 鍵の在りかがわかったことで、健太たちは新たな冒険に向けて準備を進めることにした。街の地下に広がる遺跡は、魔物が潜んでいるという噂もあり、彼らにとって簡単な探索にはならないだろう。


「装備や道具をしっかり整えてから行かないとな。遺跡の探索は準備が命だ。」

 直樹が冷静に指示を出し、全員がそれに従った。


「よし、それなら街に戻って必要なものを揃えよう。遺跡で何が待ち受けているかわからないけど、俺たちなら大丈夫だ。」

 健太が自信満々に言うと、龍太が拳を突き上げた。


「よっしゃ、次の冒険に行く準備だ!でも、その前に少しだけ酒を飲むのもありだよな?」

 龍太の発言に全員が一瞬静まり返ったが、すぐに亮が大笑いしながら答えた。


「龍太さん、本当に懲りないな!遺跡に行く前にまた酒を飲むつもりですか!」


「まぁ、少しなら大丈夫かもしれないけど…また潰れるのは避けてね。」

 ミリアが苦笑いしながら言うと、龍太は満面の笑みで「もちろんだ!」と返事をした。


 こうして健太たちは、街の地下にある古代の遺跡へと向かう準備を整えた。元の世界に帰るための鍵を手に入れるため、新たな冒険が彼らを待ち受けている。しかし、その前に酒を少しだけ楽しむことになるかもしれない――。


 彼らの愉快で、少しばかり酒に溺れた冒険は、まだまだ続いていく。

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