第6話 酒とくだらない時間の大切さ

 アイリス・アクアリーナとの飲み比べの戦いに勝利した健太たちは、勝利の余韻に浸りつつも、その代償で体はボロボロだった。水のエールによる冷たさに耐え、やっとのことで勝利を収めたものの、全員が限界近くまで追い込まれていた。


「ふぅ…やっぱり勝ったあとの一杯が一番うまいな。」

 龍太が酒場でエールのカップを持ち上げ、満足げに飲み干した。


「お前、さっきまで『もう無理だ』って言ってたくせに、酒が目の前にあると元気になるんだな…」

 健太は呆れたように笑いながら、自分もエールを口に運ぶ。


「まぁ、勝ったんだから祝杯くらい挙げないとだろ?酒がなきゃ戦えないぜ!」

 龍太は無邪気に笑っていたが、亮は顔をしかめながらカップを覗き込んでいた。


「ちょっと待ってください、さっき飲みすぎて頭がガンガンするですが…これ本当に飲んで大丈夫ですか?」

 亮はカップを手に取りつつも、まだ残っている二日酔いの頭痛を気にしていた。


「飲んでるうちに治るって!」

 龍太は亮にカップを押し付け、無理やり飲ませようとする。


「いやいや、そういう問題じゃないです!それに、昨日の水のエールのせいで胃が冷えてるんですよ。体が冷たいエールを拒否してる気がする…」

 亮は必死に抵抗するが、結局は健太も笑いながらそのやりとりを見守っていた。


「亮、お前も飲まないと調子出ないだろ?とにかく一杯だけでもいってみろよ。」

 健太が促すと、亮はしぶしぶエールを口に運んだ。


「ふぅ…仕方ないな。でも、これでまた明日二日酔いになったら、皆のせいですからね!」

 亮はエールを一気に飲み干し、カップをテーブルに叩きつけた。


 酒場での飲みが続く中、話題は自然と次の試練のことから、それぞれが今までに飲んだ酒の話に移っていった。


「なぁ、俺たちが飲んでるこのエールって、いったいどんな種類のエールなんですかね?」

 亮が不意に問いかけた。


「お前、またそんなこと言い出すのかよ?酒なんて飲んじまえばどれも同じだろ。」

 龍太は呆れた表情でエールのカップを掲げながら答えた。


「いや、違いますよ。ちゃんとエールにも種類があるんだって。俺たちが異世界で飲んでるこのエールは、一体何に分類されるのか気になりませんか?」

 亮は妙に真剣な表情で、テーブルの上に並べられたエールを見つめていた。


「気にならない!」

 健太と龍太が同時に即答し、亮はむっとした顔でカップを眺める。


「でもですよ、こうやって異世界の酒を味わってるんだから、少しくらい飲み方を工夫してもいいと思いませんか?」

 亮はしぶしぶ言い返すが、龍太は笑いながらカップを再び口に運んだ。


「飲み方なんて関係ねぇよ。俺たちはこうやってガッツリ飲むのが正しいんだ!」

 龍太は自信満々に言い、健太も笑いながらそれに同意した。


「亮、お前、毎回こんなこと考えてたのか?ただの飲み比べだぞ。酔えば同じだろ。」

 健太が笑いながら亮にカップを渡すと、亮は少し恥ずかしそうに肩をすくめた。


「まぁ、そうかもしれません…でも、次の試練までにはちょっと飲み方を改めたいんです。何となくですけど。」

 亮は再びカップを手に取り、少しずつエールを味わうように飲んだ。


「まぁ、飲み方を工夫するのも悪くないかもな。どうせ次の相手も強敵だし、体調を整えとかないとな。」

 健太が少し考え込んでから言うと、全員がそれに同意し、少しずつペースを落としながらエールを楽しむように飲み始めた。


 翌朝、健太たちは宿で目を覚ましたが、部屋の中は重苦しい空気に包まれていた。全員が昨夜の飲みすぎで二日酔いに苦しんでいたのだ。


「うぅ…頭が割れそうだ…」

 亮がベッドの上で頭を抱えて呻く。


「お前、飲みすぎたんだろ?昨日は自分で『もっと飲むぞ』って言ってたじゃん。」

 健太は痛む頭を抑えながら、亮を冷やかす。


「そんなこと言ってる健太さんだって、エールをガブ飲みしてたじゃないですか!」

 亮が反撃するが、健太は笑ってごまかした。


「いや、俺はいつも通りだよ。昨日の俺のペースは完璧だった。」


「どこがですか!健太さん、途中から何言ってるか分かんなくなってたじゃないですか!」

 亮は呆れながら健太を睨む。


 その時、龍太がベッドから跳ね起きた。


「よし!そんな時こそ、釣りに行こうぜ!釣りをして汗を流せば二日酔いなんて一発で治るだろ!」

 龍太は二日酔いにもかかわらず、元気いっぱいに提案した。


「隆太さん、酒飲んだ翌日に釣りなんて無理ですよ…」

 亮がすぐに反対するが、龍太はまったく意に介さない。


「いやいや、外で自然に触れれば頭がスッキリするんだよ!俺が大物を釣ってくるから、お前らは見てるだけでも元気になるぜ。」

 龍太は自信満々にそう言い、準備を始めた。


 結局、健太たちも釣りに付き合わされることになり、全員が川へ向かうことになった。


 川に着いた健太たちは、それぞれの場所に釣り竿を垂らし、静かに待ち始めた。しかし、二日酔いのせいで全員が頭痛を抱えながら釣りをしていた。


「これ、本当に釣りしてる場合か…?まだ頭がズキズキするんですが。」

 亮が顔をしかめながら水面を見つめる。


「だから、外の空気を吸えば治るって!」

 龍太は釣り竿を握りしめ、全力で魚を狙っている。


 しばらくして、龍太が突然大声を上げた。


「おおっ!ついに来たぞー!」

 龍太は釣り竿を引き上げたが、釣り上げた魚は信じられないほど小さかった。


「お前、それ、魚か?餌の方がでかく見えるぞ!」

 健太が爆笑しながら言うと、龍太は釣り上げた魚を自慢げに掲げた。


「魚は魚ですよね?俺が釣ったんですから俺の勝ちです!」

 龍太は得意げに言うが、亮が冷静に突っ込んだ。


「それで勝ちとか言われても困るんだけど。せめて夕飯に使えるサイズを釣ってくれよ!」


 結局、その後も大物は釣れず、全員が釣りを諦めて宿に戻ることになった。


 宿に戻った彼らは、釣りの後の疲れもあり、さらにひどい二日酔いに襲われていた。全員が宿のテーブルに腰を下ろし、何もせずにぼんやりとしていた。


「あの、何か二日酔いを治す方法、誰か知りませんか…?」

 亮が真剣な顔で言った。


「水飲んで寝るくらいしかないだろ。それか、酒をもう一杯飲むと逆に楽になるって言うぞ?」

 龍太がまたしても無謀な提案をする。


「いやいや、また飲んだらもっと酷いことになるだろ!」

 健太が即座にツッコミを入れた。


「でもさ、意外とその方法効くって聞いたことあるぞ?」

 直樹がクールに話に加わった。


「直樹さんまで言うんですか!」

 亮は直樹にすがるような目で見つめたが、結局は水を飲むことに決めた。


 しばらくして、全員がそれぞれの二日酔い解消法を試しながら少しずつ元気を取り戻していった。


「やっぱり水を飲んでおくのが一番ですね。次からは気をつけよう…」

 亮がしみじみと反省しながら言うが、龍太は相変わらずエールのカップを手にしていた。


「いや、やっぱり俺は酒だな。今度こそ、お前らに本物のエールの飲み方を教えてやるよ!」


 夜になり、全員がようやく体力を取り戻してベッドに向かった。しかし、寝る前に亮が突然ベッドから飛び起きた。


「ちょっと待ってください、何か忘れてる気がする…」

 亮は真剣な表情で部屋の中を見回した。


「またかよ…今度は何を忘れたんだ?」

 健太がため息混じりに聞いたが、亮は困惑した顔で部屋を歩き回り始めた。


「靴下がない!俺の特別な靴下が見当たらないんです!」


「お前、靴下なんかで大騒ぎするなよ!」

 龍太が笑いながら突っ込むが、亮は必死に床を探し続けた。


「これ、母ちゃんが送ってくれたんですよ!これがないと寝れないんです!」

 亮は真剣そのもので、全員が呆れながら靴下探しを手伝う羽目になった。


「俺たち、次の試練に備えるために寝なきゃいけないんだぞ!」

 健太が笑いながら言いながらも、最終的に亮の靴下を見つけて全員がようやくベッドに入ることができた。


 健太たちは、くだらない話や二日酔いに苦しみながらも、次の試練に向けて気持ちを整えていた。彼らの飲み方やエールに関するくだらないやり取りも含め、仲間との時間が彼らにとって大きな力となっていることを感じていた。


「次の試練も、酒とともに乗り越えようぜ!」

 健太が笑いながら言い、全員がその言葉に笑顔で頷いた。

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