第5話 三大魔将との飲み比べ

 健太たちは、初めての飲み比べ試練を見事に乗り越え、オーク族のグラッタ・オルゴンに勝利を収めた。彼らの身体に湧き上がるエールの力を確信し始め、次の試練に向けて準備を進めていた。


「まだ次があるんですか…正直、あのグラッタとの戦いでかなり消耗しましたよ…。」

 亮が息を整えながら、疲れた表情で言った。


「それでも、俺たちは前に進むしかない。この世界で生き残るためには、もっと強い力を引き出さないといけないんだ。」

 健太はリーダーシップを発揮し、亮を励ますように声をかけた。


「確かに…でも、次は誰が相手なんだ?」

 龍太が疑問を口にしながら、ミリアに視線を向ける。


 ミリアは静かに彼らの前に立ち、厳しい表情で言った。


「次にお前たちが対峙するのは、三大魔将の一人だ。彼らはこの世界で最も強力な存在の一部だが、酒に弱いわけではない。むしろ、彼らはその力を飲み比べによって高める術を持っている。」


「三大魔将…?なんですかそれ、ますます大変そうじゃないですか。」

 亮が少し顔を青ざめながら言った。


「でも、俺たちがここまで勝ち進んできたんだ。次も勝てるはずだ!」

 龍太は拳を握りしめ、前向きな気持ちを奮い立たせた。


 直樹は冷静にミリアを見つめながら、質問を投げかけた。


「具体的に、三大魔将はどのような力を持っているんだ?」


 ミリアは彼の質問に頷き、説明を始めた。


「三大魔将の一人、ヴァルゴ・ブラガ。彼は、炎の魔力を持つ種族で、飲み比べにおいてもその力を発揮することができる。彼と戦うには、強靭な精神力と、肉体的な耐久力が必要だ。」


「炎の力…?」

 健太は少し緊張した顔でその言葉を受け止めた。


「そうだ。彼は炎の魔力を操り、そのエールは身体の中を燃え上がるように駆け巡る。お前たちがその力に耐えられるかどうかが、試練のカギになる。」


 ミリアの言葉に、健太たちは再び自分たちの限界に挑む覚悟を固めた。


 地下闘技場の奥の扉がゆっくりと開くと、赤々と輝く炎が辺りを照らし出した。その炎の中から、巨大な影が現れる。筋骨隆々の体に炎のタトゥーが浮かび上がり、瞳は赤く輝いていた。その男こそ、三大魔将の一人、ヴァルゴ・ブラガだった。


「俺がヴァルゴ・ブラガだ。お前たちがグラッタを倒した連中か?まぁ、オークの奴が負けるのは見ての通りだが、俺には通じんぞ。」

 ヴァルゴは低い声で言い放ち、凶悪な笑みを浮かべた。


「ふん、次はこいつか。やるしかねぇな!」

 龍太がカップを掲げ、挑戦的な視線を向けた。


「この男…ただならぬ力を感じる。だが、俺たちも負けられない。」

 直樹が冷静に分析しながら言った。


「よし、全力でいこうぜ!」

 健太がリーダーシップを発揮し、仲間たちに声をかけた。


「ふふ、いいだろう。だが、お前たちが俺に勝てるとは思うなよ。炎の力を持つこのヴァルゴ・ブラガが相手だ。俺はこの世界で最も強い酒を飲み続けてきたんだ。」


 ヴァルゴはそう言うと、カップを持ち上げ、一気に飲み干した。彼のカップから立ち上る蒸気は、まるで火山のように熱く、炎が吹き出すようだった。


「すごい…このエール、まるで炎が体を駆け巡るようです。」

 亮がカップを見つめながら言った。


「ここで引くわけにはいかない。俺たちも同じだけ飲み干すんだ!」

 健太は気合いを入れて、カップを掲げた。


「さぁ、飲み比べの開始だ!」

 ミリアが合図を出し、試練が始まった。


 ヴァルゴは再び豪快にカップを掲げ、グイッとエールを飲み干す。炎の力が宿ったそのエールは、まるで彼の体の中で爆発しているかのようにエネルギーを放出していた。


「どうだ、熱いだろう?これが俺のエールだ!」

 ヴァルゴが豪快に笑いながら、次の一杯を飲み干した。


「すごい…本当に体が熱くなります!」

 亮がカップを持ちながら、額から汗を拭った。


「でも、負けてられない!俺たちも飲み干すぞ!」

 健太は仲間たちを鼓舞し、全員で一気にカップを飲み干した。


「ふぅ…これは強烈だ。でも、まだいける。」

 龍太が息を整えながら、次の一杯に向けて準備を始めた。


 直樹は冷静に状況を見つめながら、仲間たちにアドバイスを送る。


「このエールの熱さに耐えるのは難しいが、ペースを崩さずに飲み続ければ、勝てるかもしれない。焦らず、自分たちの力を信じよう。」


「そうだ、ここでビビってたらダメだ。全力でいこう!」

 健太が再びカップを掲げ、次の一杯を飲み干した。


 だが、ヴァルゴも負けじと次々にエールを飲み続け、その炎の力を発揮していた。彼の体は次第に赤く輝き、まるで火の神そのもののような姿に変わっていく。


「これが俺の力だ!お前たちに勝ち目はない!」

 ヴァルゴはさらにエールを飲み干し、その威圧感を増していった。


 健太たちは、ヴァルゴの猛攻に耐えながらも、次第に体力の限界を感じ始めていた。炎のエールが体中を駆け巡り、その熱さが次第に彼らの体力を奪っていく。


「これ…かなりキツです。」

 亮が額に汗を滲ませながら、つぶやいた。


「まだだ、ここで諦めるわけにはいかない!」

 健太が必死に気合を入れて、仲間たちを奮い立たせる。


「俺たちはここまで来たんだ。このままじゃ終わらせない!」

 龍太もカップを掲げ、気力を振り絞って次の一杯に向かった。


 だが、ヴァルゴの攻撃は止まらなかった。彼のエールは次々と飲み干され、その度に炎の力が彼の体を強化していく。


「これが俺の本気だ!お前たちに耐えられるか?」

 ヴァルゴが叫び、さらにエールを飲み干した。


 健太たちは、必死に耐えながらも、次第に限界に近づいていることを感じていた。


「このままじゃ…ダメかもしれない…」

 亮がつぶやき、カップを置いた。


 だが、その時だった。健太の体の中に、再びエールの力が湧き上がってくるのを感じた。まるで体中を駆け巡る炎が、逆に彼を強化していくかのようだった。


「これだ…この力なら、まだ戦える!」

 健太は目を見開き、再びカップを手に取った。


「俺たちはこのエールの力を得たんだ。この世界で勝ち抜くための力が、俺たちにはある!」


 その言葉に仲間たちも反応し、再び全員がカップを持ち上げた。


「よし、行くぞ!全力で飲み干せ!」

 龍太が叫び、全員が一斉にエールを飲み干した。


 ヴァルゴは再びエールを飲み干し、その力を最大限に発揮していた。しかし、健太たちも同じく、彼らの体に宿るエールの力を完全に解放していた。次々とカップを空にし、彼らの体は再び力を取り戻していった。


「どうだ、まだ続けるか?」

 健太がヴァルゴを見据え、挑戦的に言った。


「くそ…こんなに強いとは…!」

 ヴァルゴは歯を食いしばりながらも、次の一杯を飲み干そうとした。


 だが、その瞬間、彼の体がガクッと揺れ、ついにその場に崩れ落ちた。


「勝った…!」

 龍太が叫び、亮と直樹もガッツポーズを取った。


「よくやったな、お前たち。これでお前たちの力が本物であることが証明された。」

 ミリアが冷静に彼らを見つめ、満足そうに微笑んだ。


「ふぅ…何とか勝てたな。これで次に進めるってわけか。」

 健太は息を整えながら、次の試練に向けて気持ちを新たにした。


「お前たち、本当にすごいな。俺をここまで追い詰めるとは思わなかった。見事だ。」

 ヴァルゴは悔しそうにしながらも、健太たちに敬意を示した。


「ありがとう、ヴァルゴ。お前との戦いは厳しかったが、俺たちも成長できた気がするよ。」

 健太が微笑みながらヴァルゴに感謝の言葉を伝えた。


 健太たちは、ヴァルゴ・ブラガとの飲み比べの戦いを乗り越え、さらに強くなった自分たちを感じていた。だが、ミリアの言葉が彼らに次なる試練を告げた。


「お前たちがこれから対峙するのは、三大魔将の残り二人だ。次の試練はさらに厳しいものになるだろう。」


「また三大魔将か…。でも、ここまで来たんだ。俺たちならできる!」

 龍太が自信を取り戻し、次の戦いに向けて準備を始めた。


「次は誰が相手なのか、気になるな。」

 直樹が冷静に分析しながら、次の挑戦者について考えていた。


「とにかく、まずは休もう。次の試練に備えないと。」

 健太はそう言って、仲間たちと共に再び酒場に戻ることにした。


 彼らの冒険はまだ始まったばかりだった。次なる試練に向けて、健太たちは一歩ずつ前進していく。異世界「グランコール」での試練は、ますます過酷なものになっていくことを、彼らはまだ知らなかった。


 ヴァルゴ・ブラガとの激しい飲み比べの戦いを終え、健太たちは休息を取っていた。グラッタとの飲み比べに勝利し、さらにヴァルゴを倒したことで、彼らの体力は限界に近づいていたが、心の中には達成感と少しの余裕が生まれていた。


「ふぅ…なんとかやり切ったな。」

 健太が深い息をつき、木製のカップを机に置いた。


「ほんとですよ。あの炎のエールなんて、今まで飲んだことのない強烈なやつでした。」

 亮が体を伸ばしながら言う。


「でも、結局勝ったじゃねぇか。俺たち、意外とやれるもんだな。」

 龍太がニヤリと笑いながらカップを掲げ、もう一杯を頼もうとしている。


「油断は禁物だ。次の試練はさらに厳しいかもしれない。」

 直樹は冷静に状況を分析しつつも、仲間たちを気遣っていた。


 そんな中、彼らは次の試練に向けての準備を進めていたが、ミリアが静かに近づいてきた。


「次の相手はすぐに現れる。だが、その前にお前たちには少し休む時間が必要だ。エールの力も重要だが、それをうまく活かすには心身ともに整える必要がある。」


「えっ、次もすぐに飲み比べが始まるんですか?」

 亮が驚いた顔をしてミリアに尋ねた。


「安心しろ。今回は少しだけ余裕がある。だが、準備は怠らないことだ。」

 ミリアは冷静に答え、視線を健太たちに向けた。


 休息を取る間、健太たちは一度宿に入ることにした。街の宿は、質素ながらも心地よい空間で、長い戦いを経た彼らには最高の癒しの場所だった。


「ここでゆっくり寝れるな…やっとまともなベッドにありつける!」

 龍太がベッドに飛び込むと、体全体を伸ばして大きなあくびをした。


「おいおい、汗臭いままベッドに入るなよ。俺たちが泊まる部屋を少しはきれいにしろよ。」

 健太は笑いながら龍太に注意するが、龍太はすでに寝る準備をしている様子だ。


「俺もさすがに体が重いです…このまま倒れたい気分ですよ。」

 亮も疲れ切っていたが、その時、彼の足元にある何かが目に入った。


「ん?これ、何だ…?」

 亮が部屋の隅に落ちていた古いほうきを拾い上げる。


「それは掃除道具じゃねぇか。せっかくだから、お前が掃除するってことか?」

 龍太がベッドから起き上がり、ニヤリと笑った。


「ちょっとは手伝ってくださいよ!なんで俺だけ掃除するんですか!」

 亮が叫びながら、ほうきを握りしめる。


「しょうがねぇな。じゃあ、俺も手伝うよ。」

 龍太が肩をすくめて立ち上がり、健太もそれに続く。


 彼らは笑いながら、無駄に競争心を燃やして掃除を始めた。誰が一番早く部屋をきれいにできるかというくだらない勝負が始まったが、結局、部屋中がほこりまみれになり、さらに疲れ果ててしまう。


「これ、逆に部屋が汚れたんじゃないか…?」

 直樹が冷静に指摘しながら、結局は自分が片付ける羽目になった。


「俺たち、戦いは強いけど掃除は向いてないかもな。」

 健太が苦笑しながらカップを持ち上げ、最後の一口を飲み干した。


 そんなくだらないやり取りが終わった頃、ミリアが再び姿を現した。


「時間だ。次の挑戦者が来る。準備はできているか?」

 ミリアの言葉に、健太たちは気持ちを引き締めた。


「次は誰ですかね?また厳しい戦いになるんでしょうか?」

 亮が少し不安そうに尋ねる。


「三大魔将の二人目、アイリス・アクアリーナだ。彼女は水の力を持つ魔将であり、飲み比べでもその力を発揮する。」


「水…?さっきの炎のヴァルゴとは真逆の力だな。」

 健太がつぶやきながら、次の戦いに備える。


「彼女は冷静で慎重だが、決して油断してはいけない。水のエールは、飲み手を徐々に弱らせる力を持っている。それに耐えられるかどうかが試練のポイントだ。」

 ミリアは厳しい表情で説明を続けた。


「水のエールか…。俺たちも次は冷静にいかないと。」

 直樹が冷静に分析しながら言った。


「まぁ、どんなエールでも飲むしかねぇだろ。俺たちが勝ってきたんだ、次もいける!」

 龍太が自信満々にカップを掲げ、やる気を見せた。


 しばらくして、地下闘技場の奥から静かな足音が聞こえてきた。現れたのは、長い青い髪をなびかせた美しい女性、アイリス・アクアリーナだった。彼女の瞳は透き通るような青で、その姿は冷たい水そのものを連想させた。


「お前たちが挑戦者か…。ここまで来たことは褒めてやるが、私に勝てるとは思うな。水は柔らかくとも、時にはすべてを押し流す力を持つ。私のエールに耐えられるか?」

 アイリスは静かに言葉を放ち、その表情には少しの揺らぎも見せなかった。


「そんなこと言われたって、俺たちは飲むしかないんだよ。行こうぜ!」

 龍太が勢いよくカップを掲げ、仲間たちを鼓舞した。


「冷静に、俺たちの力を使いこなそう。」

 健太もまた、カップを持ち上げ、飲み比べが始まる瞬間を待った。


 アイリスは、ゆっくりとカップを持ち上げ、その中に輝くような透明なエールを注いだ。その液体は、まるで水晶のように澄んでおり、冷たい光を放っていた。


「これが私の水のエール。さぁ、飲んでみろ。」

 アイリスが静かに挑発し、カップを口元に運んだ。


 健太たちも同時にカップを持ち上げ、一気にエールを飲み始めた。しかし、そのエールはヴァルゴの炎のエールとはまったく違う冷たさを持っていた。まるで体が冷気に包まれていくかのような感覚が、彼らの体を蝕み始めた。


「なんだこれ…冷たすぎます。」

 亮がカップを置き、体を抱え込むようにして言った。


「このエール、俺たちの体力を奪っていく…」

 直樹もその変化に気づき、冷静に分析していた。


「でも、これも俺たちの試練だ。耐えられるかどうかは、俺たち次第だ!」

 健太は冷静にそう言い、再びカップを持ち上げた。


 アイリスは次々とエールを飲み続け、そのたびに彼女の周囲に冷たい風が吹き始めた。彼女の力は、水のように穏やかでありながら、徐々にその冷たさで相手を追い詰めていく。


「どうだ、まだ飲めるか?」

 アイリスが静かに問いかける。


「もちろんだ!俺たちは簡単には倒れない!」

 健太が叫び、全員がカップを再び飲み干した。


 健太たちは次々とエールを飲み干しながら、その冷たさに耐え続けた。しかし、体力が徐々に奪われていくのを感じ、次第に体が重くなっていく。


「これ…本当にヤバいかもしれません…」

 亮が顔を青ざめさせながらつぶやいた。


「いや、俺たちはまだいける!ここで諦めたら、次の試練に進めない!」

 健太は気合いを入れて、再びカップを掲げた。


「私の水のエールは、耐えるだけでは勝てない。お前たちがどこまで耐えられるか、見せてもらおう。」

 アイリスはさらにエールを飲み干し、冷たい気流が彼女の周囲に広がった。


 龍太も再び気力を振り絞り、カップを飲み干したが、顔には疲労が浮かんでいた。


「くそ、体が…動かねぇ…」


 だが、その時だった。健太の体に再びエールの力が湧き上がるのを感じた。冷たさに耐えることで、逆に体が強化されていく感覚だった。


「これだ…また力が戻ってきた…!」

 健太は目を見開き、再びカップを掲げた。


「俺たちは、このエールの力を手に入れたんだ。この試練も乗り越えられる!」

 健太の声に、仲間たちも同じく力を取り戻し、全員が一斉にエールを飲み干した。


 アイリスもまた次々とエールを飲み続けたが、彼女の冷たい力が次第に弱まっていくのが感じられた。


「どうして…こんなに飲めるのか…?」

 アイリスは驚きながらも、ついにその場に倒れ込んだ。


「やった、勝った…!」

 亮が叫び、龍太と直樹も同じくガッツポーズを取った。


「これで、また一歩進めたな。」

 健太は息を整えながら、次の試練に向けて準備を始めた。


「よくやった。だが、次の試練はもっと厳しいものになるだろう。三大魔将の最後の一人が待っている。」

 ミリアが冷静に言葉をかけた。


 健太たちは、一息つきながらも、次の試練に向けて心を引き締めた。

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