第4話 飲み比べの試練

 酒場の地下に広がる闘技場の中心に、健太たちは立っていた。地下とは思えないほどの広い空間に、照明の代わりに不思議な光が天井から差し込んでいる。ミリアの目の前で、健太たちはこれから行われる試練に向けて意気込みを感じていた。


「よし、ここで俺たちの力を見せてやろう。」

 健太は拳を握りしめ、仲間たちに声をかけた。


「緊張するなって言いたいけど、飲み比べで戦うってのは初めてだな…」

 亮が不安そうに呟きながら、カップを手に取った。


「まぁ、俺たちが何かしらの力を持ってるってことだろ?だったら、それを試すだけさ。」

 龍太は自信満々にカップを掲げ、微笑んでいたが、心の中には少しの緊張が隠れていた。


「この試練がどんなものか分からないが、冷静にいけばきっと乗り越えられるはずだ。」

 直樹は常に冷静で、仲間たちに安心感を与えるように、ゆっくりとカップに手を伸ばした。


「お前たちの力がどれほどのものか、これから証明してもらう。試練は簡単ではない。だが、飲み比べに勝てば、お前たちの力がこの世界で通用することが明らかになるだろう。」

 ミリアは無表情で彼らを見つめ、指示を出した。


「さぁ、準備はいいか?最初の挑戦者が現れるぞ。」

 ミリアの声が地下に響くと、健太たちの前に一人の男が姿を現した。筋肉質な体格で、顔には複数の傷跡が走っている。彼はこの闘技場の守護者の一人らしく、彼らの試練に挑む相手だった。


「俺はグラッタ・オルゴン。オーク族の戦士であり、飲み比べの達人だ。お前たちがこの試練を通過するには、俺に勝つ必要がある。」


 グラッタはその巨大な手でカップを持ち上げ、凶悪な笑みを浮かべた。


「オーク族の力を見せてやる。俺の酒量に耐えられるか?」


 健太たちは驚きながらも、飲み比べが単なる腕力ではなく、この世界では真剣な戦いの一つであることを理解し始めた。彼らの試練はこれから始まる。


「じゃあ、さっそくやるか。」

 グラッタは笑いながら、エールの入ったカップを手に取り、巨大な体をゆらしながら健太たちを挑発する。


「こんな巨漢に飲み比べで勝てるのかよ…」

 亮が一瞬、不安そうに呟くが、健太が落ち着いた声で彼に答えた。


「大丈夫だ。俺たちには、この世界に来てから感じているエールの力がある。きっと、それを引き出せば勝てる。」


「そうだな。ビビっても仕方ない。全力でいこう!」

 龍太が再びカップを持ち上げ、気合いを入れた。


「さぁ、始めるぞ!」

 ミリアが合図を出し、飲み比べが始まった。


 グラッタは、まずは自らの力を見せつけるように、カップを一気に飲み干した。彼の動作は豪快であり、エールが次々と彼の喉を流れ込んでいく。それを見た健太たちも、同じようにカップを掲げ、一気に飲み始める。


「お前たち、どうだ?まだまだだろう!」

 グラッタが勝ち誇ったように叫ぶが、健太たちも負けじとカップを飲み干していく。


「ふぅ、これが俺たちの力か…」

 健太が息を整えながらカップを置いた。


「いや、結構飲めるもんだな!」

 龍太は元気そうに笑っていたが、亮は少し顔色を変えていた。


「俺、なんか酔いが回ってきたかもしれません…」

 亮が困惑気味にカップを置くと、直樹が冷静に状況を分析した。


「まだ序盤だ。ここで無理をしない方がいい。持続力が重要だ。」

 直樹はあくまで冷静に、自分のペースを守りながらエールを飲み進めていた。


「ふん、まだまだだな!本気を見せてやる!」

 グラッタはさらに大量のエールを飲み始めた。彼の喉を通るエールの量は常人の倍以上であり、その巨体が生み出す威圧感に、健太たちは一瞬たじろいだ。


「これ…勝てるのか?」

 龍太がカップを握りながら不安そうに健太を見つめた。


「落ち着け。俺たちにもまだ力が残っている。焦らず、ペースを守って飲み続けるんだ。」

 健太は冷静さを取り戻し、仲間たちに声をかけた。


「でも、このままだと持たないかも…」

 亮が頭を抱えながら言うと、直樹が彼の肩に手を置いて励ました。


「ここで倒れるわけにはいかない。お前だって、これまで頑張ってきただろう?一緒にこの試練を乗り越えるんだ。」

 直樹の言葉に、亮は力を取り戻し、再びカップを掲げた。


「よし、もう一杯いくぞ!」


 彼らはグラッタの猛攻に耐えながら、次々とエールを飲み続けた。健太たちの体は、次第にエールの力によって強化されていくのを感じていた。


「どうだ?まだ続けられるか?」

 グラッタが不敵な笑みを浮かべ、挑発するように言った。彼はすでに何杯ものエールを飲み干していたが、その表情にはまだ余裕があった。


 しかし、その時だった。健太たちの体に再びエールの力が満ちていく感覚が広がり始めた。まるで体がエネルギーで満たされ、酔いが力へと変わっていくような感覚だ。


「なんだ…この感覚は…」

 健太が驚きながら言う。


「俺も感じる。体が軽くなってきた!」

 龍太が拳を握りしめ、再びエールを飲み始める。


「そうだ、これが俺たちの力だ。この力を使えば、まだまだ戦える!」

 直樹も冷静さを保ちながら、カップを持ち上げて飲み干した。


「なんだ、俺たち、まだいけるじゃん!よし、全力でいきましょう!」

 亮もようやく元気を取り戻し、再び勢いよくエールを飲み干した。


 グラッタは驚いた顔で彼らを見つめた。


「お前たち…何なんだ?どうしてまだ飲めるんだ!?」


「俺たちは、この世界に来てから力を得たんだ。簡単には負けない!」

 健太が叫び、カップを掲げた。


 健太たちは次々とエールを飲み干し、ついにグラッタと互角の飲み比べを繰り広げるまでになった。グラッタもその驚異的な酒量で応戦していたが、次第に顔が赤くなり、呼吸が荒くなってきた。


「くそ…まだ終わらん…!」

 グラッタはそう言いながら、最後の力を振り絞ってエールを飲み干したが、その瞬間、体がガクッと揺れた。


「もう限界だろう!」

 龍太が勝利を確信し、最後のカップを一気に飲み干すと、グラッタはついにその場に倒れ込んだ。


「勝った…!」

 健太が叫び、亮と直樹もガッツポーズを取った。


「お前たち…すごいな。俺がここまで追い詰められるとは思わなかった。見事だ…お前たちの勝ちだ。」

 グラッタは悔しそうにしながらも、健太たちに敬意を示すように頭を下げた。


「よくやったな。これでお前たちの力が認められた。だが、試練はまだ続く。次の挑戦者が待っているぞ。」

 ミリアが冷静に言い放つ。


「まだ…次があるのか?」

 亮が驚きながらも、すでに次の戦いに備えていた。


「そうだ。だが、今は少し休んでいい。お前たちはよくやった。」

 ミリアは健太たちを見つめ、その成長に満足そうな表情を見せた。


 健太たちは、初めての飲み比べの試練を見事に乗り越えた。グラッタとの戦いは厳しかったが、彼らは自分たちの力を確信し、次の試練に向けて気持ちを整えることができた。


「これが俺たちの力か…まだまだ先は長いけど、やってやろう。」

 健太は拳を握りしめ、次なる挑戦に向けて決意を新たにした。


「もう負けるわけにはいかない。俺たちでこの世界を切り開いていこうぜ!」

 龍太が笑いながら声を上げた。


「これから何が待ってるか分からないけど、今は前に進むしかないな。」

 直樹は冷静に状況を見つめながら、次の一歩を考えていた。


「とりあえず、休憩しながらエールでも飲みますか!」

 亮が元気よく言い放ち、仲間たちと笑い合った。


 彼らの冒険はまだ始まったばかりだった。次なる試練に向けて、健太たちは一歩ずつ前進していく。異世界「グランコール」での試練は、これからさらに過酷なものになっていくことを、彼らはまだ知らなかった。

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