20.不思議な光景

 子供たちは亡くなった人たちを村の中央へと運んだ。


 十歳未満の小さい子には体力的にも心情的にも酷な事だった為、運んだのは年長者の四人。


 体が大きい大人や、瓦礫の下など遺体を運び出すのが困難だった場所は私とプレセアが手伝った。


 四人の子供たちは運び終わると、大人たちを横一列に仰向けで寝かせた。


 二十八人の人たちが、胸の前で祈るように手を組み、夜空に顔を向けている。


 子供たちが全員揃うと、大人たちに向き合って一列に並び、真ん中に立つロキ君が松明で遺体に火を付けた。


 火は徐々に広がり、やがて全ての遺体を包み込む。


 そして、私は不思議な光景を目にした。


 火の付いた体が少しずつ七色の光へと変わり、夜の星空へと舞って行ったのだ。


 光は無数のホタルのように揺らめきながら空に昇っていく。


 私は不謹慎だとわかりながらも、この光景が綺麗だと感じてしまった。



 七色の光は時を刻むように少しずつ空に舞って行く。

 

 涙を流す子、涙を我慢する子、それぞれが光を目で追っていく中、ロキ君だけが振り返り、私たちに近付いた。


「アリシア様、プレセア様、ありがとうございます。これで家族は、みんなは……迷わずに新しい生を歩めると思います。本当にありがとうございます」


 ロキ君は深く頭を下げて私たちに改めてお礼を言った。


 新しい生——この世界では死んだ人は生まれ変わって新しい人生を歩んで行くと信じられているようだ。


「私がここにいるのは、私がここにいたいと思ったから。それはプレセアも同じ。だから気にしなくていいわ。それよりも今はみんなのそばにいてあげて」


 ロキ君は流れそうになった涙を手でぬぐうと、


「はい」


 返事をしてみんなのところへ戻って行った。



「ねぇ、お姉様はどう思ってる?」


「どうって?」


「生まれ変わりの信仰、人は死んでも次の生を得られると思う」


「思うわ」


 だって経験者ですもの。


「プレセアは信じてないの、生まれ変わり」


「信じてるというよりは、そうだったらいいなって思ってるわ」


 プレセアは空に舞って行く光を見つめながら言った。


 実を言うと、プレセアの子供たちに対する態度が素っ気ないと感じていた。


 私の知っているプレセアと違って冷たい人間なんじゃないかなって、ちょっと悲しく思ってた。


 でもそんな事はなかったんだね。


 子供たちの願いが届くようにって、思ってくれているんだね。

 

 私はプレセアから視線を外すと、同じように空を舞う光を眺めた。


 そして、


「生まれ変われるわ、きっと」


 彼女の想いを強く肯定した。

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