19.出来る事

 再会を喜び合ったマリアちゃんたちは、私とプレセアに深く頭を下げて何度もお礼を言った後、みんなで村の中へと入って行った。


 そして——村の中央から変わり果てた景色を見て大きく泣き崩れた。


 村で帰りを待っていたマリアちゃんだけは涙を流さないように我慢していたようだけど、みんなの泣く姿を見て耐え切れなくなったのか、最後は同じように泣き崩れてしまった。


 私は子供たちに声を掛けようと手を伸ばした。


 だけど、その手はすぐに引いた。


 掛ける言葉が思い付かない。


 今、自分に出来ることは無いと、手を伸ばしてから気付いた。


 私はただ、見ている事しか出来なかった。



 †



 太陽が空に昇る頃になると、子供たちは泣き疲れてその場で眠ってしまった。


 土の上で眠るよりは屋根のある場所で眠った方がいいだろうと思い、私はプレセアとなるべく壊れていない大きな建物の中に子供たちを運んだ。


 そして建物から出ると、静かに周囲を見渡した。


 初めて見た時と変わらない光景。


 壊された家屋、飛び散った無数の血の跡、亡くなった沢山の村の人たち。


 いるだけで心が押し潰れそうになる。


 このまま立って見ているだけなのが苦しい。


 景色を変えなきゃと気持ちが焦る。


 何かしないと。


「私たちに出来る事、やってあげなくちゃね」


 壊れた家屋や亡くなった村の人たちに目を向けてプレセアに言った。


「そうね。でも村の事を私たちが先導してやらない方がいいわよ。助けてもらうのが当たり前になってしまったら、自立するのが難しくなるわ」


 私が気をいているのを察したのか、プレセアが指摘した。


 この先どうなるのかまだわからないけど、頼れる大人たちがいなくなった今、村は子供たちだけでやっていかなくちゃいけない。


 プレセアの言う通りだ。


 手伝うにしても、何かを言うにしても、なるべく子供たちが自分で考えて動けるようにしなきゃだめ。


「うん、わかったわ。ありがとうプレセア」


「どういたしまして」



 †



 子供たちが目を覚ましたのは日が沈み始める夕方だった。


 マリアちゃんを含む四人の子供たちが話し合いを始めると、すぐに四人は私のところに来てお願いをした。


「あと一日だけ、僕たちと一緒にいてくれないでしょうか」


 四人を代表して言ったのは、一番年上の少年、十四歳のロキ君。


 あと一日、そばにいて欲しいと頭を下げてお願いをしてきた。


「何か、あるの?」


 話し合って期間を決めたという事は、それだけ重要な何かがあるということ。


「家族を見送りたいんです。どうか、それまで僕たちの事を守ってください」


「(ぁ……)」


 私は言葉を詰まらせた。 


 一日という短い理由が、家族を弔う為の時間と聞いて胸が締め付けられたから。


 元々断るつもりはない。


 家族を想っての事なら尚の事。


「わかったわ」


 私は快く引き受けた。

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