18.せめて今だけでも

 盗賊たちが積み重なって出来た二つの山を見てわかる通り、クラウドが彼等に負ける心配はない。


 一人残すのはちょっとかわいそうだけど、ここは御言葉に甘えさせてもらおう。


「じゃあ、お願いするわね」


「はい」


 私はクラウドに盗賊たちを任せると、飛竜に鉄格子の檻を掴んで飛ぶようにお願いした。

  

 飛竜は両足で檻を掴むと、ひょいと持ち上げ、空に向かって軽々と上昇する。


「うん、問題なさそう」


 重くて飛べなかったらどうしようかと思ったけど、まだまだ余裕がありそうで何より。


 さっそく子供たちに鉄格子を曲げた部分からまた檻に乗ってもらい、私は子供たちが落ちないように自分でひん曲げた鉄格子を元に戻した。


 その時の私を見る子供たちの目を見て、昔テレビで見た出荷されていく家畜の目を思い出した。


 私は今のこの子供たちの目を一生忘れられないかもしれない……。


 

 †



 盗賊たちをクラウドに任せ、私たちは飛び立った。


「う、うわ、うわあああああ!」


「きゃああああああああ!」


 と離れていく地面を見て叫ぶ子供たち。


 でもそれは一瞬だけ。


 安全のために低速低飛行を心掛けているのもあって、子供たちは直ぐに慣れた。


「うわああああ!」


「すごい!」


 叫びの『うわあああ!』から、感動の『うわあああ!』に変わった。


 怖がっていたのは最初だけで、初めて見る上からの景色に感動した子供たちは、むしろもっと高く速くして欲しいとお願いして来た。


 私は子供たちの様子を見ながら速度を上げてくれるように飛竜に頼んだ。


 飛竜の飛び方によって変わっていく景色と感覚に子供たちは喜んでくれた。


 実を言うと、この光景を少し期待していた。


 だから子供たちの姿を見て私は嬉しい気持ちになった。


 けど……同時に悲しい気持ちにもなった。


 この子たちには、これから厳しい現実が待っている。


 だからせめて、今だけでも——

 


 †



 夜が明け、太陽の光が僅かに山間 やまあいから差し込み始めた頃、私たちはユミル村に無事帰り着くことが出来た。


 飛竜が村の入り口付近に降りると、帰りを待っていたマリアちゃんが駆け付けた。


「みんなー!」


 私は直ぐに鉄格子を曲げて子供たちを鉄の籠から出てもらった


「マリア!」


「マリアちゃん!」


 子供たちは涙を流し、手を取り合って再会を喜んだ。


 良かったねと、私は心から思った。


「お姉様、クラウドは?」


 いつの間にか私の横にいたプレセアが何事も無かったかのように言った。


「クラウドは子供たちを見つけた場所に残ってるわ。捕まえた盗賊たちの事をお願いしたの」


「そうなんだ。じゃあ迎えに行かせないとね」


 そう言ってプレセアは飛竜に指示を出すと、飛竜はクラウドを迎えにユミル村を飛び立った。


 


 


 

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