05

『今日は先生とたくさん話せたー』

『ずっと気になってた本、貸してもらっちゃった』

『共通の趣味が読書ってことがわかった!』

 なんだ。可愛らしい。文面を見る限り、どうやら、学校の先生に恋をしている様子だった。なんだ、大丈夫だ。ちゃんと年相応の女の子もしている。

 私は安堵して画面を元に戻した。それをまた彼女のおなかに横たえた。

 そうだ。中之条椿のアカウントにはパスワードがかかっていないから、私がフォローさえすれば、簡単に彼女の『つぶやき』をみることができる。わざわざ彼女のスマホを確認する必要はないのだ。鍵のかかっているほうのアカウントはみることができないけど。

 私は自分のベッドに飛び乗ると、自分のスマホを手繰り寄せて、ツイッターのアイコンに触れた。検索窓に『中之条椿』と打ち込み、例のアイコンをそっと撫でる。

 仮面のほうの彼女の『つぶやき』が再び表示される。いっそのこと、鍵のかかったほうのアカウントもフォローしてしまおうか。その場合、彼女自身による承認がなければ、いわゆる裏のアカウントのほうの『つぶやき』を確認することはできないのだけれど。

 きっと、彼女は警戒する。見知らぬ名前を名乗るアカウントなんて、相手にされない。きっと、人気のある人間は、どこかで本当の自分が漏れてしまっていないか、絶え間なく疑っている。

 そういえば、私だってフォロワー数で負けているわけではなかった。数か月から始めた百四十字小説という、ツイッターの『つぶやき』の中で綴る極短のストーリーは、思ったよりもウケがよく、色々な世代の人からコメントを貰うことができた。

 そのコメント数に比例して、私にはたくさんのフォロワーができた。特に、小説を通して有名になりたいわけでもないけれど、百四十字小説は、私が日々出会った事物の浄化作業のようなものだった。今日、見知った隣の少女についても、はやく書かなければならない。この想いが新鮮なうちに、腐ってしまう前に、文字に起こさなければならない。

 私はたまらなくなって、再々度、カーテンの中を覗き見た。

 この子が目覚めたら、どんなふうに喋るのだろう。もしも、未来からきたの、といわれても、私はきっと疑わない。私はこの子がどんなふるまいをしたって受け入れることができる。無条件に愛せる。



「二村さん?」

 不意に名前を呼ばれ、研がれた矢で後ろから貫かれた気分になった。頭だけ、隣のカーテンの中に突っ込んで、残りの身体が震えている私は、さぞ妖怪じみていたことだろう。

「もう体調が良くなったんですね」

 確か、私が目覚めた後、すぐにいろいろと説明を添えてくれた看護師さんだ。私とそう年齢の変わらなさそうな、まだ何度でも壊れてしまいそうな、そんな余白を感じるひと。

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