04
ただの女の子ではなかった。途端に黒く謎めいてきたこの子を知るために、再びツイッターをひらく。彼女をフォローしている人々を確認すると、いくつか知った名前が私に本当のことを知らせる。中之条椿が何を呟いているのかというと、有名な人々とのツーショットと共に、『今日は雑誌のインタビューでした』など、同じような内容が並んでいる、といったようなもの。
なんだ、つまらない。いくらきらびやかな世界を添えて呟かれたって、仕事の一環としか思えない。収まった指先で画面を閉じようとしたとき、例のアイコンの隣に、もう一つのアイコンがみえた。
何やら黒い。
私は真っ黒に塗りつぶされたアイコンに触れる。すると、塗りつぶされたアイコンが黒だけでないことに気づいた。真ん中が赤い。こちらを見ている。黒地の背景に、真っ赤な目玉が、こちらを凝視しているのだ。私は声をあげそうになり、失った力の行き先を、精一杯抑制した。
震える指で、ゆっくりと画面をスクロールする。だめだ、上へ、下へと、画面も震える。なんだ、これは。
私は、再度、画面の中に見た。どこか、あの時と同じような吐き気に襲われて、私はスマホを放り投げた。
スマホは、ちょうど彼女のおなかの上に収まるが、アイコンの赤い目は、まだこちらを見ている。
だめだ、気持ちが悪い。私はここへ侵入したときと同じように、息を潜めてこの身を外へとねじ込んだ。倒れこんだベッドのシーツは私を優しく迎え入れ、私はその皺を掴んで、握り潰す、それを繰り返した。
古の妖怪が、隣で女の子のふりをして寝ているように思えた。黒で塗りつぶしされたようなスマホは、その色をカーテンの隙間からにじみ出して、まだ私を見ている。
いい加減にしろよ、と思う。そんなに可愛いのに、あれほどまでに毒づくなんて、最高じゃないか。どこまで私を悶え狂わせる気だ。よくそこまで、たまらない外見と内面を持ち合わせて生まれ持ったもんだな。
私は息を大きく吸って、吐いて、また吸って、もう一度カーテンへ溶けていった。
よかった。
まだ彼女は眠っていた。点滴は半分を終えていて、これが終わるころには、またあの看護師がここに来るだろう。それまでに、存分に欲求を満たさなければならない。
彼女のおなかで眠っているスマホを手に取って、再々度ツイッターをひらく。画面は、あの赤目のアイコンのまま。全部見てやる、全部見てやろうじゃないか。画面のスクロールが速すぎて、目が追い付かないほどのスピードで、作業をこなしていく。上から順に、芸能界の闇、闇、闇、闇。いくつもの闇の中に、光をみつけた。
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