第6話:新学期

 新年度……それは出会いと別れの季節。新入生は新たな出会いに胸躍らせつつ、今までとは違う環境に置かれることに一抹の不安を拭えない。


 在校生は新しく出来る後輩たちはどんなものかと、背筋を伸ばしながら横目で見る一方で、自分たちの頼ってきた先輩たちがいない事への不安を感じる。


 俺が高校生の頃に味わってきた雰囲気は、コーラクスでも変わらない。ピンクの花びらが舞い散る中で、彼らは新しいステージへと進んでいく……。


「うん、青春だねぇ。」


 おどおどした子に、堂々と歩く子、友達と笑いあいながら歩いていくもの……彼らが学び舎へと歩いていく様を見ながら、俺は一人呟く。通っていく新入生の顔を見ながら、頭の中に入れた新入生名簿と一致させていく。


 うん、今の所漏れは無さそうだな……。木の陰に隠れながら、潜伏スキルをバリバリ働かせてバレないように生徒を監視し続ける……。


「にしても、中々人数が多いな、流石はコーラクス……っ」


 ふう、と息を吐くと、肩に手を載せられ、反射的に振り向く。敵か!?


「おっと、驚かせてしまいましたか。」

「あ、ああ誰かと思えば、学園長でしたか……。」


 振り向くと、白いひげを蓄えた老人が柔らかい笑顔でこちらを覗いていた。なんてことない表情で立ってはいるが、俺の隠密と気配探知をこうもやすやすと突破されると、スパイとしては少し自信を無くすな……。


「どうです、今年の生徒は。みんな利発そうでしょう。」

「ええ、そうですね。みんないい子そうで、昔の自分を思い出します。」

「ほお、先生にもそんな時期があったんですか?」

「僕を何だと思ってるんですか。」


 しかし、この校長どこまで知っているのか分からない。俺が転生者なことまで見透かしているのか……?そう思っていると、また一人、黒髪の少女が俺たちの目の前を通っていく。


「おっ……」

「あの子は、確か先生のクラスの子でしたね。」

「ええ、確か名前は、シイナ=ミナツキ。」

「先生と同じ、東国の出身だそうですね」

「あ、ええ。みたいですね」


 転生者だとバレないよう、一応機関では東国の出身だという設定にしてある。アスタルムには東国の人間が少ないから、割と信じてもらいやすかったんだが……。自分のクラスにいるとなると、すこしややこしいことになるかもしれない。要注意だな。


 そんなことをしながら、俺達はある程度、新入生の顔を見終わった。物陰に隠れて生徒の監視をする男二人……。事案すぎる


 暫く観察を続けると、皆もう登校してきたのか、殆ど人通りもなくなってくる。


「しかし、この度は依頼を受けてくださり、本当にありがとうございます。」


「これも任務ですし。それに若い人たちの成長に関われるのは、私としても楽しいですから。」

「はは、まるで用意してきたかのようなセリフ、流石は機関のお方ですな。」


「いえ、用意なんてそんな…」

 俺の社交術が完全に看破されており、少し焦る。ごまかすように話題を変える。


「フィールズクラスですよね、どんな子達が来るのか楽しみだなぁ。」

 そういうと、校長は本当に嬉しそうに笑った。


「そうですかそうですか、ミツセ先生にう言ってもらえれば、彼らも心強いでしょう、なにせ……」


 そう言って、彼は口ごもった。


「マギナクラス、ですよね」

「ご存知でしたか……」

「ええ、ざっくりと」


 マギナクラス、自分の子供に魔術の才がわかってもなおコーラクスに入れたいと考えた貴族の親や、母国に居づらくなり、半ば隔離されるようにこの学園に入れられるもの、そうしたワケアリの生徒達が入れられるのが俺の担当するマギナクラス―――という訳だ。


「彼らは皆様々な事情があってこの学園に来ています、一見平気そうにしていても、彼らはまだ学生。調査に来ていらっしゃるのは重々承知ですが、是非、彼らの成長の支えになってあげてください。」

 校長の言葉に、昔の自分が重なる。俺も前世では高校生の頃散々迷惑かけてきた身だ、周囲の大人が自分に寄り添ってくれないつらさなんかは分かるつもりだ。そのくらいどんとこいだ。


「はい、任せてください!」

 胸をドンと叩いて見せると、校長はほっとしたような顔をする。


「よろしくお願いしますね。では私たちも入学式に向かいますか。」


 俺のスパイ兼教師の生活が、今、始まった。

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