第2話:スパイ、最高!(2)
「シヤコシ様、少しお話しよろしいでしょうか?」
「なんだ、そんな近寄らなくても聞こえるぞ。」
「いえ、それが大臣の件でして……」
大臣、という言葉が聞こえた瞬間にビクッとするシヤコシ。
この反応だけで十分クロだが、まだ断定するには早い。俺達はあくまで正義のためにこれをやっている。疑わしくは罰せよの考え方は、国家機関としてはあってはならない。完璧な証拠をつかむまでは、実行には移さない。
「君、まさか……」
「大丈夫です。私はシヤコシ様の味方ですから。」
「ほ、本当か?」
「ええ、何ならいっそ、私が直接手を下してもよろしいのですよ。」
空いている手で懐に手を入れると、シヤコシは焦る、シヤコシと連動してワインもこぼれそうなほど揺れている。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。こちらにはこちらのやり方があるんだ!」
小声ながらも意思のこもったトーンで話してくる。つばが顔にかかって気分が悪いが、我慢して笑顔をキープする。
「いえ、冗談です。」
俺が懐から手を抜くと、シヤコシはほっと息をつく。
「とはいえ、トラブルが発生したのは事実です。少しお時間よろしいでしょうか。」
「分かった。」
「極秘の話です、御付きの方にはなるべく聞こえないように。」
先ほどの脅しが効いたのか、こくりと頷き、シヤコシは特に疑うことなく俺についてくる。そのまま会場の外の廊下へと出ていく。特に会話をはさむことなく、俺達は会場外の廊下へと出て行った。
「いい調子ねショート、そのまま聞きだせそう?」
当たり前だ、俺を誰だと思ってるんだ。そして俺達はほとんど人の通らない廊下の突き当りの部屋に入っていった。ソワソワしながら、焦ったトーンでシヤコシは聞いてくる。
「で?その、と、トラブルってのは、なんだ。」
「とりあえず、先ず今回の作戦について、お話ししていただいてもよろしいですか?」
「い、いや、それは出来ない。まずはそのトラブルから教えろ。お前がまだこちら側だと信頼できない。」
先ほどの脅しではまだ信頼に足らなかったらしい。ここで全てゲロってくれれば楽だったんだが……。酒が入っているとはいえ、そこまで馬鹿ではないらしい。ここは、少し鎌をかけるか。
「実は、最後に実行する際に、差支えがあるらしいのです。」
「何?装置にトラブルか?」
機械、という事は人は関わっていないのだろう。暗殺などでよく使われるのは、スナイパーの魔法弾を用いるというものだ。気配消去の魔法を込めた弾丸で打つため、着弾するまでバレにくく、暗殺者御用達となっている。しかし彼は装置と言った、という事は……
「はい、実は装置の威力が問題があるらしいのです。」
「範囲の問題か、きちんと計算したはずなんだがな。」
「実際に行うとなると、少し条件が変わってきますので。」
「まあ、爆発の範囲が多少広くなる分には問題ない。大臣がやれればそれで問題ないし、私は当日離れた位置にいるからな。」
「そうでございますか。」
なるほど、やはり爆弾か。この世界の爆弾は、特定の魔力に反応する火薬を爆発させることで、作る。そのため、起爆装置もなく、遠隔で発動させられる。
「となると、爆発させるタイミングも少し変わってくるかもしれません。担当者に連絡させますか。」
「構わん構わん、あの舞台上にいれば全員吹っ飛ぶんだ。タイミングも何もない。」
完全に私を信用したのか、ペラペラと話始めるシヤコシ。ハナから大臣以外も巻き込む気で合ったことに反吐が出るが、経過は順調だ。後は爆弾の場所さえ聞ければ問題ない。
「ショート、問題発生。シヤコシがいないことに気づいたSP達が、アンタたちを探し回ってる。早く聞くこと聞いちゃって。」
「了解」
少し焦ったMの声を聴きつつ、シヤコシには聞こえない小さな声でつぶやく。少し状況が悪い、早く爆弾の場所を聞きださなければ、シヤコシを捕まえたところで意味がない。
「では、爆弾の位置は変更しないという事でよろしいですか?」
「ああ、問題ない。」
まあ、この程度でしゃべるわけもない、しかし直接爆弾の位置を聞くのは怪しまれてしまう……。どうにか誤魔化しつつ話すか……。
「急いでショート!今SP達がそっちに向かってる!」
そんなの分かってるよ!Mの焦ったトーンが余計俺の焦りを加速させる。いけないいけない、こういう時こそ深呼吸をして、落ち着くんだ。俺はプロだ俺はプロだ……。何かシヤコシの言葉にヒントがあるんじゃないか……。思い出せ、思い出すんだショート……
舞台上にいれば全員吹っ飛ぶ?
<「ショート君、急いで!」>
俺は一つ息をつき、先ほどのウェイタースマイルで問いかける。
「分かりました、シヤコシ様、では最後に確認なのですが爆弾は舞台直下に置かれている物だけで、よろしいですか?」
「ああ、あれを食らったら、大臣も一発でお陀仏よ。」
「承知しました。」
そこまで言ってから、シヤコシはふと何か気づいたように尋ねる。
「というか君、結局なにをしにここに連れて来たんだ?トラブルと言ったトラブルもないようだし……。」
ようやく酒も抜け、まともに考えれるようになったらしいが、時すでに遅し。
廊下からシヤコシのSPの声と、
<「よくやったわショート、突撃させるわ!」>
というMの声が同時に響く。
「ま、まさかお前……騙したのか……!?」
全て悟ったようなシヤコシの表情を見てにんまりと笑い、俺はあらかじめ開けて開けておいた窓枠に足をかけ、最後のセリフを投げかける。
「我がアスタルム王国の繁栄にご協力いただき、ありがとうございました。」
シヤコシの絶叫を背中に外へと飛び降りて、そのまま高速移動で人目につかないように家路に戻る。今日は気持ちよく寝れそうだ。
*********
「くぅ~今日も決まってたなぁ~俺」
静かな町の中を気持ちよく駆け抜けていく、しかしこの時の俺はまだ知らない。
「やっぱ、スパイって最っ高にかっこいいな!!」
俺のこの肩書が、明日には変わっていることを。
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