第3話:ショートとM
シヤコシの話が解決した翌日、俺は局長に呼ばれ庁舎のある本部へと足を運んでいた。スパイだとバレないように、服装はこの町の人々が着る様なよくあるシャツにズボンだ。
俺は、実はこの世界で生まれた人間ではない。つい3、4年前までは、別の世界で暮らしていた。名前は、三瀬翔斗、日本生まれ日本育ちの純日本人のはずだった。しかし、ある日突然俺はこの20世紀ヨーロッパ風の世界に放り込まれ、ここで暮らすこととなった。
俺は小さい頃から、スパイ映画が好きだった。映画サークルで出会ったらしい両親にの元、小さい頃から英才教育を受けていた中、俺が最もはまったのがスパイ映画だった。007やミッション・インポッシブルなど、イケてる奴らが指令を受けて国のために行動しつつも、途中で謎の美女と出会い、愛か任務かどちらを取るか、様々な葛藤に苦しめられつつも、結果として全て手に入れて帰っていく。そんな彼らの生きざまに俺は心底惚れていた。
「幼いころから努力を積めば、何時かスパイから声がかかってくる」そんな噂を小耳にはさんだ俺は、幼いころからの憧れを止められず、必死に努力を続けてきた。高校3年になっても俺は憧れを捨てられずに、体を鍛え、勉学に励んでいた。しかし両親からしたら自分たちが映画を教えてしまったという負い目もあるのだろう、自分たちに倣って教育免許くらいは取っておいてくれないか、そう言われ続ける日々が続いていた。周りが進路を決めていく中、俺だけが自分の進むべき道を決められず、ヤキモキし、ストレスのたまる日々を過ごしていた。
だから、見返してやろうと考えたのか、スパイに向いているところを行動で示せばいいのではないかと思った俺は……俺は、トラックに轢かれそうになっている少女を、助けに入った。そんな邪な気持ちを神様は見透かされたのか、少女を突き飛ばした俺は、スパイとして、と言うより人として最も大切な、自分の命を蔑ろにしてしまったのだった……。
しかし!そこで出会った神様に連れてこられたのがこの世界!文明レベルといい、世界観と言い、今俺が暮らしている国、アスタルム王国は他国と水面下でバチバチやってると来た!まさにパーフェクト!
ちなみにこの世界には魔法が存在しているらしいが、この際そんなのはどうだっていい。今更神様からはよくあるチート能力ももらえず、平均よりちょっと多い位の魔力しかもらうことはできなかったが、俺はただひたすらにスパイとしての技術を学び、今、国を陰から守る存在となっているのだった……!
「転生ガチャ成功!勝ったな!第3部完!!」
「誰に何を話してるんですか。」
気持ちよく考えていると、俺の後ろから、女の声が聞こえる。振り返るとグレーのフードを深くかぶった女が俺に話しかけていた。顔を見られないようにしているんだろうが、フードからこぼれる金髪が非常に目を引いている。
「おう、Mか」
「だから私は、マキナです。誰ですかMって。」
「分かってないなマキナは。ロマンだよロマン。まあ、Mにしちゃちょっと貫禄が足りないけど。」
しかもあのMは室長だしな。マキナは大きくため息をついて、呆れたように言ってくる。
「っていうか、外にいるときは独り言もなるべく控えてください。誰に聞かれてるか分からないんですから。」
「それを言うなら、お前の格好はどうなんだ?結構浮いてるぞ、その格好。」
「私はフードを脱いだ方が面倒になりますから。」
「そうか、美人なのにもったいないな。」
「分かってるくせに。」
顔は見えないが、きっと不満そうな顔をしているのだろう。想像に難くない。
マキナは現在オペレーターとして、俺のバディを組んでくれている。指示は的確で、冷静、俺と組み始めたのは半年ほど前からだが、それからお互いミスなく敵を捕まえてきている。今みたく小言は少しうるさいが、なんだかんだいい奴だ。
「小言がうるさくて悪かったですね。」
「あれ、また喋ってた?」
肯定の意味も込めて、無言で俺のすねを蹴ってくるマキナ。オペレーターとは言え最低限訓練をされているだけあって、的確に痛い所にあててくる。少しバランスを崩しながらも、いそいそと付いていく。
「っていうか、お前どうしたんだ、本部に用事か?」
「用事っていうか、あなたと一緒です。」
「え、お前も支部長に?」
「はい、大方昨日の件の後始末についてじゃないんですか?」
勝手に俺だけ呼ばれたものかと思っていたが、どうやらマキナもらしい。まあ、爆弾の話とかするなら、確かにマキナも必要か。
そんなことをペラペラと喋っていたら、目的地へと到着した。その建物へと入る前に、マキナは本部に入るための鍵を受け取りに行く。その方法と言うのも、オブジェクトに特定の人物が魔力を込めることで、鍵が手に入るというものだ。そこまではいいんだが、個人的にかなり納得いっていない点が一つある。
俺としては、スパイ本部はカッコよくあるべきだと思うのだ。一応国の機関なわけだし?国の省庁が入ってる建物と同じところにいい感じに出かけていきたいのだ。だがウチの場合は……。
「よし、それじゃあ行くわよ。」
恐らく怪しまれないためにこのように作られたのだろう、そいつは確かに日常風景に溶け込んでいるし、そこにマキナが近づくのも違和感はない。マキナが手をかざすと、赤色をしたそいつは、本来手紙を受け入れるはずの口から鍵を吐き出した。
「どう見ても、ポストなんだよなぁ……。」
そう、我々の事務所の外見は完っ全に郵便局なのだ、というか実際郵便局の地下に広がっている。昨日使った魔石の様に魔法による通信技術が発達しているのにもかかわらず、やはり手紙というのはある程度の需要が存在しているらしい。まあ下火であることには変わりはないので、国の機関でありつつも外部からの人の往来も少ないという点で、需要と供給が一致しているらしい。
「何ぼさっとしてるんですか、早く行きますよ。」
俺を放って先に入っていこうとするマキナ、俺もあわてて追いつく。
マキナはエレベーター前に立ち、先ほど手に入れた昇降のボタンのある所に鍵を差す、すると本来は無いはずの下に向かうボタンが出現した。
「このロマンがあるのに何で郵便局かなぁ……」
「何ですか?」
「いや、こっちの話。」
ボタンを押した瞬間エレベーターのドアが開き、俺達は中へと入っていく。
チーンと言う音が鳴り、ドアが開く。その先には、小さい部屋があり、その中に飾りっ気のない、白いドアが一つだけあった。マキナはつかつかと寄っていき、ドアに向かって話しかける。
「オペレーター、マキナ=シャルティエ、エージェント、ショート=ミツセ、以下に名。エイラ局長に用件があり参りました。」
5秒ほど待ち、マキナは数回ノックをして返事を待たずそのままドアをガチャリと開ける。俺達がドアを開けた先には先ほどの小部屋とつながっていると思えないくらいだだっ広い部屋の中央に机が一つ、そしてそこには初老の女性が座っていた。
「よく来たね、マキナ、ショート。」
俺達を呼んだ張本人、エイラ局長その人であった。
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