第4話 次なる任務

 俺とマキナは二人でエイラ局長の机から数歩離れた場所に立つ。彼女がこちらを振り向くとマキナはびしっと気を付けをする。


「お疲れ様です、エイラ局長。」

「お疲れ様、マキナ、ショート。」

 エイラ局長は俺たち二人をゆっくりと見やる。


 エイラ局長、フルネームは不明、そもそもエイラが本名かもわからない。白髪ショートカットの老齢の女性、年は50代くらいに見えるが、実際の年齢は分からない。30年前のここの設立当初から局長をやっているとかいう噂もある。身長は中くらい。しっかり見ると美人だが、なぜか印象に残りにくい顔。ウチの支部局の局長を務めるにふさわしい、謎多き人物だ。


「マキナ、そんな恰好では折角の美貌が台無しだよ。」

「あ、はい、すみません!」

 慌ててフードを脱ごうとするマキナ。ここぞとばかりに小声で煽ってやる。

「怒られてやんの。」

「気づいてたなら言いなさいよ!」

「ほら、はやく脱げよ。」

 局長の手前、流石に立場が悪いと思ったのか不満げな顔は残して、フードを脱ぐ。


 フードの下から覗いたのは、フードに隠せるのが不思議なくらい長くふわっとしたブロンドの髪、そしてエメラルドの様な吸い込まれる碧の瞳、そして何より目を引くのが、その髪から飛び出す、先のとがったその長い耳だった。


「やはり君たちは美しいな。」

「そんな、やめてください。」

 そう、彼女は所謂エルフだ。人間以外にも、様々な種族のひとびとが共生しているアスタルム王国であるが、その中でもエルフは非常に珍しく、その美貌も相まって非常に目を引きやすい。

 職業柄もあり、マキナは基本的に人前ではフードを被って生活しているのだ。


「いや、ホントにマキナは綺麗だよ。その調子でハニトラ部門にでもグフッ」

 俺が言い終わる前にマキナの強烈なケリが俺のすねに炸裂する。俺も局長の手前、住んでのところで食いしばる。

「なんか言った?」

「いえ、そのマキナ様の美貌は何としてもウチで秘匿すべき宝だと思います……。」

「よろしい。」

「あっはっはっはっ」

 俺がうめいていると、局長の快活な笑い声が聞こえる。

「君たちは本当にいいコンビだねぇ。」

「そんなことありません、こんなやつ。」


 普段なら可愛いツンデレめで済ませるようなしぐさと発言だが、すねの痛みに耐えている今、どれだけ本気かよくわかる。


「いやいや、君たちがペアを組んでからというもの、アスタルムの犯罪件数はぐっと減ったし、君たちは任務達成率も非常に高い。特にショート君、アスタルム出身ではない君の加入に当初は反対する声も多くあったが、今はすっかり鳴りを潜めている。」


「まあ、そういう連中は結果で黙らせるしかないですから。」

「ちぇ、カッコつけちゃって。」

「なんか言ったか?」

 マキナはプイっとそっぽを向く。このアマ……。俺達が小競り合いをしていると、局長がパンと手を一つ叩く。俺達もあわてて気を付けをする。


「では、今回来てもらったのは他でもない。そんな君たちに次の仕事をお願いしたいんだ。」

 俺達の間に緊張が走り、背がピシッと伸びる。この国にはまだまだ問題が山積み。一つの事件が解決してもまた新たな任務が舞い込んでくる。さて、エリートスパイ、ショート=ミツセ様の次の仕事は……


 局長がゆっくりと口を開く。


「まずはマキナ君から。君にはとある貴族の動向の調査をしてほしい。細かいところは追々説明するが、金の出入りがおかしい、裏組織とのつながりがあるかもしれない。」

「はいっ、承知しました。」

 成程、つまり俺の任務は……。

「俺がマキナの掴んだ情報をもとに、その貴族をしょっ引けばいいわけですね。」

 ふむ、まあ俺達なら何とかなるだろ。そう考えていたが、局長は首を横に振る。


「いや、今回君にはマキナ君と別れて、長期の潜入任務を行ってもらう。」

「せ、潜入任務ですか……。」

 しかもマキナと別で長期か……これは極秘任務の可能性が高いな……。


「済まないマキナ、ここは外してくれないか。」

「いや、大丈夫だ。と言うかマキナ君にいてもらった方がいい。」

 へ?極秘じゃないんですか?局長の意図がつかめず困惑する俺に、彼女は俺の潜入先を突きつける。


「君の今度の潜入先は……。」

 ご、ごくり。


「コーラクス魔法学園だ。」


「「こ、コーラクス魔法学園!?」」


 俺とマキナの声が部屋中に反響した。



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