第5話

 複合軍事企業【マテリアル・エレクトロニクス】。

第三次世界大戦後、戦時特需によって勢力を伸ばし、他の軍事企業を巻き込む形で1つの大企業として成長した。

『デトロイトの奇跡』と言われるように、ここデトロイトに拠点を置いており、自律飛行物体ドローン機械人形オートマタの製造工場で地域の復興再生を果たした。




☆@☆@☆@☆




 応接室のモニターに映し出された典型的なアメリカ人な外見の男性。

彼がマテリアル・エレクトロニクスの最高経営責任者CEOのジョン=マテリアルである。

《「傭兵の皆さん、厄介な依頼を受けてくれてありがとう。まずはお礼をさせて欲しい。」》

 ジョンが机に向かって深々と頭を下げる。

ラティスは見守るような笑顔で。

イリヤは偉そうな感じで。

チャシャは最低限の反応だけ。

そしてユリナは何処吹く風という他人事な表情である。

《「まずは具体的な依頼内容を言っておく、私の娘【イブ】をハワイの別荘に護送して貰いたい。」》

 モニターにはアメリカ大陸が映し出される。

現在地のピンが表示され、そこから大陸を横断するように矢印が伸びていく、対岸に達すると矢印が飛んでハワイ諸島に到達するという大変わかりやすい内容であった。

《「アメリカ大陸の横断には私の企業が製作した原子力蒸気機関車を使って移動する。」》

 大陸を横断する矢印に注釈のように見た目がなんの変哲も無い蒸気機関車が映し出されるが、中身は原子力で動く蒸気機関車である。

第四次世界大戦のあとに世界各地で話題になった現代技術で古典的未来技術レトロフューチャーの再現ブームで造られた物の1つである。

《「対岸に着いたら、飛行機プライベートジェットでハワイまで向かってもらう。」》

 太平洋にまたがる矢印に2発のプラズマジェットエンジンを搭載した飛行機の注釈が表示された。

《「それでなにか質問はあるかな?。」》

「はいはーい。おやつは出ますか?。」

《「ははは、専用の客車と厨房車を使うから問題ないよ。」》

「やったー。」

〈えぇ……。〉

 見た目に合わせた可愛らしい質問をするラティスにユリナとエアリアは引いてる。

ものすっごく。

「はい。」

《「はいどうぞ。」》

「武器、弾薬の費用は?。」

《「全てこっちが持つから、君たちは護衛に集中して欲しい。」》

「ちっ、怪し過ぎて怖いぞ。」

《「そのくらいの警戒感をもってほしいからね。」》

「弄ばれてるようで癪にさわらねぇ……。」

 イリヤは少々イラついた様子で答えを受け取った。

前金も出て、武器・弾薬も依頼主持ちは大抵『そういう』案件でもあるからだ。

《「他に何かないかな?。」》

「では私が。それで護衛対象の容姿が教えてほしい。人の顔も分からないのに護るのは難しい。」

 最もである。

それと同時に、依頼主がユリナたちを信用しているのかを確認するためでもある。

《「心配しなくてももうすぐやって来る。」》

 ガチャっと応接室の扉が開いて、1人の少女が入ってくる。

金色の髪を黒いスカーフで結んで短いツインテールにはし、紅い瞳を持つ幼い少女。

ちょっとロリータゴシックっぽい衣装を身にまとっている。

《「改めて紹介しよう。私の愛娘の――。」》

「イブ=マテリアルよ。よろしく、おじさんたち。」

 食い気味の自己紹介で、可愛げらしい幼い声が部屋の中で響き渡った。

そしてイブの言葉は。

ラティスは苦笑いし。

イリヤは若干イラつき。

チャシャは頭を抱え。

ユリナは他人事である。


 その強い眼差しにユリナはいささか疑問を感じながらも、これからの依頼についての暫定的な計画を考え始めていた。

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