第4話

 ニューヨークの郊外上空。

両翼にプラズマジェットエンジンが付いた2機の垂直離着陸機VTOL機がとある豪邸に向かって飛んでいた。

「あれが別荘か……。」

〈広いですね。〉

「流石お金持ちって言ったところか。」

 正門から邸まで正道を除いて、森に囲まれた広い敷地がVTOL機の窓から見えていた。

あまりに現実味のない大きさにユリナは若干……いや、だいぶ引いていた。


 しばらくして、2機のVTOL機が別荘の敷地内のヘリポートエリアに着陸した。

邸の玄関の前には侍女メイドと思われる女性がいた。

「お待ちしておりました。レイブンリリィ様。」

「時間は大丈夫?。」

「はい、問題ありません。」

「そう。」

 ユリナがコックピットに向かって手で合図を送ると、ブォォーという音と熱と風とともに2機のVTOL機は移動都市セイレムに向かって飛んで戻って行った。

「それじゃ、案内頼む。」

「かしこまりました。」

 邸に入って、メイドに案内されたユリナは応接室と思われる扉の前に来た。

「ここでしばらくお待ちください。」

「ありがとう。」

 メイドは頭を下げて、別の仕事に移っていった。

ユリナは彼女を見守った後、扉を開けて部屋の中に入っていった。

 中を見渡すと、四隅に半球型の監視カメラ。

中央に長いテーブル、それを挟んでソファーが2つ。

テーブルとソファーの先に大きな液晶モニターがあり、窓もあるものの、遮光が可能な特殊ガラスを使ってることがユリナたちにはわかった。

「おぉ〜来たきた〜。」

 部屋に入った直後、ソファーで寝転んでる藍錆色のロングヘアの幼い少女が上機嫌な声でユリナに話しかけてきた。

〈この子が依頼の護衛対象者でしょうか?。〉

(いや、違うでしょ。)

〈そう……、ですよね……。〉

 まさか……と思いつつも少女に接近するユリナ。

その刹那、視界が一気に暗転した。

「こんな姿だからって、油断しすぎだよ。戦友。」

「まさか君、r……。」

「おっと、今はラティスって呼んでもらうか。」

「はぁ……、わかったよ。だから離してくれ。」

 あっという間にソファーにうつ伏せで取り押さえられたユリナ。

右腕をソファーの背もたれ側に、空いた左腕側を背中曲げて押さえたのは、ラティスと名乗る少女であった。

外見の年齢はユリナと同じぐらい。しかし胸部の膨らみが少々大きかった。

「ASEAN解放戦線以来だな。戦友。」

「だからってこういうのはやめて欲しい。」

「いや、戦友が思ってたよりも可愛かったからついに。」

 何を言ってるだ。という表情でユリナは見つめるが、そんな彼女にラティスはあざといというポーズで応える。

ユリナとラティスとの出会いは第四次世界大戦まで遡る。

インド太平洋地域での紛争にて、共闘したのがきっかけだった。

「ラティスも同じ依頼で?。」

「そうじゃなかったらここにいないだろう。」

それもそうか。と一息つくと、取り押さえられたソファーからテーブル挟んで反対側のソファーに座っている金属質の少女が見えた。

「チャシャ、君もそうなのか?。」

「やあ、久しぶりだね。リリィ。あぁ、そうよ。私もこの依頼に参加しているの。」

 透明感白いセミロングの髪に、スコープのような、カメラのような緑色の瞳、肌が金属っぽく、外見年齢もだいたいここに集まってる人と同じぐらい。

名前はチャシャ。

デトロイトの廃材の渓谷ジャンクマウンテンに拠点を置くジャンクギルド【アンダーワールド】のギルドマスターの秘書。

ユリナとは度々、共闘したり、依頼を斡旋したりと後方支援したりする関係である。

「マスターからの伝言よ。『おめでとう。良かったね。』だそうよ。」

「うん、アリスらしい。」

「まあ、それには同意する。」

 チャシャは青い猫耳とケーブルのような尻尾、素体が人型の影響で耳が4つある猫娘になっている。

それもそのはずで彼女は機械人形オートマタであるゆえ。

「ちっ……、俺が最後かよ。」

 ガチャっと扉を開けて入ってきたのはロングヘアとツインテールを合わせたような紅い髪と黄色い瞳を持つ少女。

外見年齢はこの子もみんなと同じぐらい。

「おや、遅い到着じゃないか。イリヤ。」

「うるせえ、隊長の説教がちょっと長かっただけだ。」

 赤毛の少女の名はイリヤ。

ユリナたちとは欧州戦線で共闘していこう、度々一緒に依頼をしたり、たまに敵対したりしていた。

「相変わらず、鬼軍曹は今日も元気だね。なあ、戦友。」

「あ……、うん、そうだね……。」

「ちっ、駄犬も先に来てたのかよ。」

 理由は分からないが、イリヤはユリナをライバル視していて、一緒になるたびに突っかかってくる。

「おい駄犬。オヤジからの伝言だ。『よくやった。それでこそ俺のせがれだ。』だそうだ。」

「そう、ありがとうね。イリヤ。」

「ち、違うからな!。オヤジから伝言だからな。」

 キャンキャン吠える狂犬ポメラニアンのごとく矢継ぎ早に言い訳する様は、イリヤの意思に関係なく場を和ませた。

《「賑わってるところすまないね。そろそろ時間だ。」》

 ユリナたちがいろいろと騒いでいると、部屋のモニターにテンプレートなアメリカンな顔立ちの青年が映し出された。

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