第3話

 中央司令棟。通称:中央棟。

船でいうところの艦橋に当たる部分で、電気配分や船を覆うほど大きな防護壁の展開、練習場やミーティングルーム、傭兵ギルドなど多目的に作られたこの移動都市の頭脳がこの中央棟である。

「改めて見るとデカイな。」

〈そうですね。レイブンリリィも小さくなりましたからね。〉

「うるさい。」

 城壁のようにそびえ立つ大きな建物。

幼くなったユリナにとってはとてつもなく大きかった。

それこそ、超巨大な重機に迫られるような圧迫感がひしひしと侵食していく。

「はぁ、とりあえず入ろう。」

〈そうですね。〉

 透明なガラスの扉が左右に開き、ユリナたちは受付、通路、いくつかのミーティングルームのドアを横切って、目的地に着いた。

「おぉー、来たきた。」

「ごめんなさい。遅くなって……。」

「良いよ良いよ。あぁ〜、可愛い〜。」

「よしよししないでください。ユウキさん。」

「おっと、めんごめんご。あまりに可愛いロリっ子だったからつい……。」

「おい、ロリコン。」

 鉄拳制裁してやろうかと拳を握ったユリナだったが、あっさり反撃にあった上にまた可愛がられるのが軽々と予想できたため、悔しい気持ちとともに下ろした。

 ユリナの全身を撫で回した彼女の名はユウキ。

紫色のロングヘアに紅い瞳の外観少女な人。

永遠の17歳を自称しており、実年齢は秘匿されてる。

常に日本刀を携えている。

「それで、依頼の内容は?。」

 ドンと勢いよく座って足を組むも、小柄で幼い身体ではただのわがままの可愛い少女でしかなかった。

「むぅ〜、釣れないな〜。仕方ない、説明しよう。それはそれとして、短いスカートでその格好はパンツ見えちゃうよ。」

「ひゃうっ!?。」

 慌てて足を組み崩して閉じてスカートを押さえる様はもう普通の少女である。

そして自分から出た可愛らしい声に少々困惑しながらも前を向けば、謀ったようなユウキの顔がユリナに向いていた。

(あいつわざとか……。)

〈当たり前でしょ、レイブンリリィ。〉

 エアリアにツッコまれつつ、姿勢を整えて正した。

「……それで……、内容は?。」

「依頼の内容は、複合軍事企業【マテリアル・エレクトロニクス】のCEOの一人娘の警護よ。」

「いわゆる社長令嬢か……。」

「そうね。詳しい話はCEO所有の別荘に行ってからになるけど、既に前金は出てる。」

「少なくても厄介案件だと……。」

「警護って時点ではそうね。」

「それでこの姿にした……とかないよね?。」

「ん…………。」

「なぜ目を逸らす。」

「いやぁ……、件の令嬢の年齢がだいたいそのぐらいだからそれに合わせただけだよ。私の趣味じゃないからね。」

「そこまでは言ってない。」

 呆れた顔でユウキを見る。

そのジト目なユリナの目線は返ってユウキを興奮させてるのを薄々感じてより一層引いてしまう。

(これでギルドマスターなんだから、困るな……。)

〈えぇ、全くです。〉

 2人してため息をついては、この穏やかなミーティングは終わった。


 傭兵ギルドの施設を出たユリナたちは街並みが見える丘のある公園にやって来てた。

「さて、どうしたものか……。」

 ユリナ……レイブンリリィはこの方ずっと戦場の最前線で戦ってきた。

戦って、戦って、戦って……、それが当たり前の日常だった。

護衛任務も何回かやってきたが、基本的に危険地帯での護衛が主であり、護衛対象者と一緒に行動するのは初めてである。

「あそこには戦いと関係の無い、俺……私の知らない日常があるだよな……。」

〈そうですね。私はその日常を知りませんが……。〉

「そうか……。」

 ユリナはニュースで流れてくる向こう側の日常は見てはいた。

壁に埋め込まれてる薄い液晶から流れてくるその映像はかつてのユリナにとっては作り物にしか見えなかった。

毎日、ドローンやオートマタ、改造生物や改造兵士を相手にしてきた故に……。

「この身体は、どうしてこの身体で再構築された意味ってあるのかな……。」

〈物語の主人公みたいなこと言うですね。レイブンリリィ。〉

「なんとなく……、ね。」

〈はぁ〜、わかりました。私が意味を与えましょう。〉

「えっ?。」

〈あなたはずっと戦ってきました。いつまでも、いつまでも……。〉

「そうだね。」

〈だからもういいじゃないですか。好きに生きても。〉

「良いのかな……。」

〈私はそう思います。ユリナ。〉

「……うん……、うん、そうだね。やれるだけやってみるよ。」

〈それでこそ、あなたです。レイブンリリィ。〉

「ありがとう。エアリア。」

「あら、もう憂鬱な気持ちは終わった?。」

「きゃっ!?。」

 唐突に耳元で囁かれて、可愛い悲鳴とともに逃げるユリナ。

そこにはいつの間にか傍に来てたユウキがいた。

「あらあら、可愛い反応しちゃって〜。長生きするものね。」

「発言がおばさんっぽい……。」

「何か言った?。」

「いえ、何も……。」

 圧の強い笑顔がクラスター爆弾のごとくユリナに降り注いでいる。

禁忌を言ってしまったのだから仕方ない。

「それで、依頼はどうするか決まった?。君がいやならこっちから断るけど……。」

「やります。」

「そうだよね〜。君ならそう言うよね。」

 笑顔で向き合うユリナとユウキ。

しかし、空気がちょっとおかしい。

「まあ、それはそれとして。勝手に出ていったことについてはしっかり罰を受けてもらうからね。ユリナちゃん。」

「あははは……。」

 この後、ユウキにギルド内施設の大衆浴場に連れていたれて、あんなことや、こんなことされたのはまた別の話……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る