第2話

 研究所の医務室を出たユリナはその足で病棟の個室に向かった。

[ユリナ=フユキ]と書かれた表札を(マジかぁ……。)という気持ちとともにドアを横に開いた。

〈おかえりなさい。レイ……、随分可愛らしくなりましたね。〉

「エアリアからもそう見える?。」

〈はい、というかどうしてそうなったですか?。〉

「いや、それがね。――――。」

 そこから漫画やアニメのごとくかくかくしかじかとことの経緯を説明したユリナ。

最初は驚いていたエアリアも次第に冷静に聞くようになった。

〈つまり、レイブンは女の子になってしまったわけですね。〉

「端的に還元しすぎ……、まあ概ねそうだ。」

〈にしても不思議ですね。身体の遺伝子データから抽質されたのが少女だったなんて。〉

「やった本人は「私の趣味だ!(ドヤァ)。」って言ってたけど、それが原因とは思えないだよね。」

〈そうですね。おそらく能力取得の改造手術の際に混入したデータに少女の身体データがあった。〉

「それが意図的なのか、バグが出ないための予防的処置なのか、それとも単なる偶然なのか……。」

〈でも結局は能力は獲得できなかったですよね。〉

「あぁ……、だから余計分からないだよな……。」

 しばらく考え込むユリナとエアリア。

しかし彼らの意識共有では堂々巡りになって結論は全く出なかった。

「まあ、考えても仕方ない。後でカミラのところで再検査頼んでみよう。エアリア。」

〈そうですね。レイブン。私もちょうどそう考えていました。〉

 しばらくお互いに見つめあった後に、エアリアは思い出したかのように話題を変えた。

〈レイブン。傭兵ギルドでのコールサインはどうしましょう。このままいく訳にもいかないでしょ。〉

「そう……だな……、かと言って全く違う名前に変えるのも指名依頼に影響がでそうだな……。」

 しばらく「うーん。うーん。」と悩んでいた時、ピコーンと電球型の有機ELライトが光ったような閃をしたエアリアが……。

〈そうです。名前はレイブンリリィにしましょう。〉

「お、おう……。って、ちょっと待て。どこでその結論にたどり着いた。」

〈なんか参考にならないかとネットの海を探してたら、極東アジアのサーバーに細分化された英霊n―――。〉

「あぁー、もういいわかった、分かったからそれでいこう。」

〈どうしました。レイブン……リリィ。〉

「こいつめ。」

 ユリナは殴りたくなる気持ちを抑えて、病棟の窓のカーテンを上げた。

ボタンを押されて、すぃーっと上がる白い布の向こうには、目の前には海、その奥に高層ビルが立ち並ぶ陸地。

その陸地は近づきつつ、右へ右へと移動してく。

そう動いているのだ。

動いているのは陸地ではなく、ユリナたちがいる場所。

その名も海洋移動都市【セイレム】。

第四次世界大戦にて開発された空中空母用空母を改装して作れた移動都市。

その大きさはかつての小さな都市国家ほど。

そして、向かう先はニューヨーク。

『あー、あー。ユリナに連絡。これから新しい依頼のミーティングがあるから中央棟に来てくれない。』

「うん、わかった。」

〈行きましょうか、レイブンリリィ。〉

「もしかして、これから先もそれでいくつもり……。」

〈えぇ、そうです。〉

 表情はないのにドヤ顔とわかる態度で言うエアリアにユリナは少し引きつつ、軽装な荷物を持って中央棟に向かった。

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