第9話 運命の人

 午前9時。ちょっと遅い時間帯に大学生のケンジは家を出た。徒歩で移動して電車駅に向かう。電車の中はすいていて座れるスペースがある。田舎の電車は中学生や高校生、社会人のたくさんいる時間帯を除けば、割りと座れる。空き時間にスマホをプラプラ見ながら、ネットニュースをチェックする。最近、大統領選でトランプさんが勝った事を告げるニュース。次にXをチェックする。いくら呟いてもインプレッションは50から100の間。フォロワーが大幅に増える気配は一向に来ない。月額課金して青のバッジをもらっているのに、Xの機能がうまく使えない。


 ケンジはちょっと特殊な大学生だった。留年を経験した五年生。単位の大半はすでに獲得していて、あとは卒業するのみになっていた。留年したのは病気のせいであり、朝、起きれなくなる精神的なものだ。まあ、留年の話は置いておいて、実は今日は授業に出なくても良い日であった。ケンジの目的は電車に乗り、運命の人を探すことに終始していた。


 いわゆるナンパである。


 ネットナンパという言葉ができて、マッチングアプリでネトナンという概念ができた今日このごろ。純粋なナンパは減ってきている。しかし、マチアプを使ってやるネトナンよりも、精神を鍛えるために普通のナンパをするのであった。


 電車に揺られながら広告を目にする。電車の広告は情報の宝庫であり、特に株をやる人には見飽きないデザインになっていた。一時期のライザップは電車広告にテレビCMに、広告を打ちまくっていた。そんな急成長を遂げる企業の株を買えば伸びること間違いなし。ライザップであれば、5倍は稼げた。100万円を投資していれば500万円にはなった。当時、お金がなかったので惜しいことをした。お金は今もないが


 閑話休題。ケンジは運命の人を求めるため、電車に乗っていた。平日の9時に電車に乗っているのは、田舎では、おじいちゃんやおばあちゃんなど年配の者が多い。若い人は働いている。大学生の23歳のケンジに中学生や高校生の相手はできなかった。だからOLを狙った。富山から石川県の金沢まで行く電車はそのまま金沢市へと走った。


 次にケンジは金沢駅に降りた。素晴らしい外見の駅は見る人を圧倒させる。感動的な光景だ。富山の田舎から金沢駅に降りると、別世界。北陸の都会が広がっていた。


 さて、ここでナンパをしてもいい。しかし、ケンジは運命の人を求めるのをすごく緊張していた。声をかけようとするとドキドキする。呂律が回らない。言葉がどもる。緊張で普段よりおかしなテンションで、スタバに入った。なんちゃらフラペチーノを頼むのは上級者向けなので、素直にブラックコーヒーを頼んだ。午前9時30分。大学を休んでケンジは何をしているのか自問自答した。


「ナンパするんだ」


 落ち着いたケンジはコーヒーを飲み、スタバを出た。


 2時間後。成果はゼロ。どころか声を一つもかけなかった。女の子はたくさんいるのに、何もしなかった。単純に金沢駅周辺を探索しただけに終わった。それはそれで楽しかったが、目的がナンパから観光に切り替わっている。


「運命の人を見つけなくては」

 

 午前12時30分。ケンジのお腹がすいてくる。腹が減ったのでフラリとラーメン屋に入った。


 適当なラーメン屋に入り、お客さんが混んでいるので待ち時間を有した。10分後。回転率の早いラーメン屋で席が空く。ケンジはそこに座った。醤油と味噌の美味しそうな匂いがする。ラーメンを食べる前のワクワクは異常で、ケンジの心は津波が押し寄せてよだれがたれる。


 素直に店の一番おすすめのラーメンを注文した。すると、隣の大学生風の二人組がラーメンのおいしさを語り合っていた。


「このラーメンうめえ」


「うんめえ」


「見つけた」


 ケンジはついに、(男性ではあるが)ラーメンをうめえと食べる、運命(ラーメンうんめえ)の人を見つけた。男性の二人組だったので、声はかけずにスルーした。時刻は午後1時。そのまま電車に乗って富山の田舎に帰った。金沢観光はケンジの精神に安定をもたらした。


 オチがダジャレですみません。

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