第8話 無職の一存
大学を中退して実家に戻った健(けん)は、フリーターにもならずニートを満喫していた。
毎朝、ベッドから起きて朝の光を浴び、体操着に着替えては朝散歩する。午前9時。同年代のサラリーマンが忙しく働く中、健は遅いルーティーンを過ごす。みんなはもう冴えた顔で業務に勤しんでいる。健はうつ病の予防のため、朝散歩をしてセロトニンを摂取する。30分の散歩の内、帰る最中のコンビニに寄る。朝食とコーヒーとジャンプを買い、会計を済ませる。月曜日の習慣だった。
無職というものは退屈という地獄と向き合う。パソコンのサブスクに放置されたアニメや映画、マンガを見終わった後に来る虚無感は無気力。一日中、何もせずにベッドから起きれなくなる。
健が目指したのは、睡眠、運動、朝散歩。これら三つ。無気力の原因は、睡眠不足と運動不足にあると目を付けた。だから健は毎日、午前9時から30分の散歩をする。誰もいない家に戻っては、コンビニ飯を食らう。朝食と昼食の二食分を買うのでコンビニの料金は毎回2000円に達する。コーヒー130円。ジャンプ300円。おにぎり200円といった感じ。家に帰り、朝食をすますと、YouTubeを見る。
堪能するのはビジネス系のYouTube。意識の高いインフルエンサーがビジネス書や自己啓発書を紹介する。毎回、無職の22歳の健に、なぜ勉強が必要になってくるのか疑問に思うが。けれども、脳を使わないと力が落ちるのだ。勉強する力が。だから毎日、本を読んだり、YouTubeを見たりして勉強する。
健の日課は小説を書くことにあった。部屋の散らかった下着や洋服は不衛生。汚い部屋に、詰まれた本の山。ベッドの上のわずかなスペースにパソコンを置き、健は寝そべって執筆する。ベッド以外の歩く空間が部屋にないのだ。仕方ない。パソコンを開き、話題のファンタジーをチェックして、マイページへ。午前11時から1時間ほどの作業をする。カタカタッと小気味が良い音を立てて、執筆する。1時間で1000文字から1500文字。調子のよい時は2000文字が生み出される。
午後。パソコンを閉じて本日の労働に終わりを告げる。あとはフリータイム。自由時間だ。だけれど、ゲームをするにしても、ソシャゲはお金がかかり、毎月10万円の課金を必要とする。200万円以上をかけたソシャゲアカウントを、健は、それでもやり続ける。ツイッターを確認して、投資家界隈と借金垢を見比べる。
「借金垢になりたくない」
毎月10万円のソシャゲ課金。赤スパチャ。ギャンブル。主にパチンコに5万円。そして、無職のトリプルコンボ。最近はスパチャを辞めていたが、親に対しての借金は300万円を超えた。ニート、ニート、ニート。
健は脳内会議した。金持ちになるには、収入-支出=資産になる。支出が収入を上回っていれば、確実に借金地獄に陥る。借金は、親なので、無利子無担保が救い。親は、別に返さなくてもいい、と言ってくれたが。健は申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「賛成多数。ソシャゲをアンインストールします」
苦節7年。200万円以上の課金をしたアカウントを削除する。無職の一存だった。
借金垢にはなりたくない。クレカで毎月10万円とか20万円とか払っているのがバカバカしく感じた。なので、健はソシャゲを消した。パチンコも徐々にフェードアウトする。
もう誰も信じない。健は本を読んで学習したお金を貯める方法を実践する。ソシャゲを消して、ギャンブルをやめて、スパチャを禁止して、YouTubeを見て勉強する。YouTubeの月額1500円ほどの課金は安いものだと思った。無職の一存でソシャゲを消した。午後はあっという間に過ぎていく。夕食に家族の作った飯を食らい、また、YouTubeを見て、学習する。もしYouTubeが毎月10万円の高額請求をしても、元が取れるくらい、依存する無職ニートの健だった。
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