第3話 モブキャラ大学生の話

 モブ田モブ郎。僕の名前だ。


 小学校、中学校、高校と輝かしい成績をおさめなかった。3軍男子の地味な青年。それが僕ことモブ田だ。


 モブ田は冴えない男だった。小学生の時はバレンタインデーにチョコレートをもらったかもしれない。しかし、中学生になり、みんなが恋愛を勤しんでいる中、僕はラノベを読み漁った。


 将来、勉強をすればラノベのヒロインのような女の子と付き合える。そう願って、ラノベを読みつつ、勉強を頑張った。それでも3軍男子はいつまでたっても3軍男子だった。アイドル声優のような女の子と接点を持つことはできなかった。


 友達は少数。仏教の先生が、友達は量よりも質であり、1軍男子になるとその友達の多さに、人間関係がギクシャクしてしまうと、先生は言った。だから3軍男子であることを誇りに持ちなさい、と言われた。


 いじめはなかった。いや、あったかもしれない。しかし、それは僕の不徳の致すところであり、他責志向の他人のせいにしてはいけない。失敗は自分のせい。成功は他人のおかげなのだ。


 問題は大学生活にうつつを抜かし、4年間、彼女をつくらなかったこと。チャンスはあったが物にできなかった。僕は孤高の独身男性を貫き、貞操を守った。無意味な戦いに全力を尽くして不埒な女との関係性をゼロにした。


 だからバカにされた。


僕が通るたびにスピッツのチェリーを歌う男子が増えた。大学の4年生にもなって、何を、と思うかもしれない。しかし、モブ田モブ郎は負けたのだ。世間に。人生に。


 童貞の一生は儚い。競争至上主義である男性社会で、最も底辺であり、20代にもなって風俗にもいけない落ちこぼれの烙印を押される。


 だからナンパした。


「へい。彼女。何歳?」


「無視」


「へい。彼女。彼氏いるの?」


「無視」


 結果は大敗。モブ田モブ郎は一人も女をゲットできなかった。


 今度はマッチングアプリに手を出した。世の中、出会い系と蔑まれていたマチアプも昨今の少子高齢化の影響を受けて救世主のような扱いになった。いまだにネットで出会った女と付き合うのは言語道断という童貞も多い。それでも、モブ田は、僕は藁を掴む思いでマチアプに登録した。


 課金した。1年間で2万円弱。


 大学4年生は年収がない。顔が悪い。という理由で、マッチはしたものの現実で女に会うことはできなかった。


「じゃあ、いっそ二次元に逃げよう」


 仏教の先生は言った。


「好きでもない女とセックスし童貞をとってもモブ田くんの自尊心は高くならない」


「先生には、すれ違うたびにスピッツのチェリーを歌われる童貞男子大学生のモブの気持ちは分からないのです」


「でも君は、きっと後悔する」


「それでも男にはいかないといけない戦いがある」


 モブ田は仏教を捨てた。恋愛工学を学んだ。100人の女とセックスした。オナニー&セックス依存症になった。


「先生。すみませんでした。出家します」


「モブ田モブ郎くん。あなたは仏教の世界に戻ってくると信じていました」


 かつて童貞と、うたわれ、スピッツのチェリーを歌われ、恋愛工学を学び、100人の女性とセックスした3軍男子のモブ田モブ郎。彼は仏教の僧に出家した。


 どうでもいい女100人を抱くよりも、一番好きな女を一人抱くほうが、精神的にも時間的にも金銭的にも上だった。オナニー&セックス依存症に苦しみながら、モブキャラ大学生の話を終える。


「先生。今日の教訓は?」


「好きでもない女はさっさと別れなさい。しかし、それがなかなかできないのが人間の弱みであり、弱みを受け入れなさい。だって人間だもの」

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