第2話 偏差値40以下の大学生

「偏差値が20下がる病気ですか?」


 目の前の医師は深くうなづいた。


 主人公の男子大学生は、高校を卒業と同時に、偏差値が20下がる病気を患った。


 中学時代、必死に勉強して偏差値60の進学校に入学したが、毎日、部活三昧で遊び惚け。勉強はろくにしなかった。授業中は寝ていた。


 病気にかかったのは高卒の時点。高校を卒業して、さらに勉強しようと躍起になって、浪人生になった瞬間、そいつは来た。偏差値が20下がる病気。やってきて絶望した。うつ病のごとく字があまり読めなかった。脳内のドーパミンが活性化して勉強の妨げになった。偏差値は20落ちた。


 病院に駆け込み、医師に相談しても、不治の病で現代医療ではどうしようにもない病気だった。


 医師に感謝を告げて、大学生は部屋を出る。白い、消毒液のする部屋だった。マスクをしているのにマスク越しにアルコールの臭いが鼻をくすぐった。


 偏差値40以下。半分の日本人よりも劣っている自分に辟易した。嫌気がさした。


 大学時代はボッチに過ごした。どこのサークルにも入らず、友達を作らず。一人ぼっちの空間は、されども、大学という場所では居心地が良かった。図書館は広くて綺麗。最高の一人空間で、本をむさぼるように読んだ。


 就職は失敗した。就職に強い私立の大学だった。けれども、大学生は就職をせずにフリーターを選んだ。


 いつまでも人より劣っているという感覚がつきまとい。大学生改め偏差値40以下のフリーターは、がむしゃらに本を読んだ。


 フリーターは一人で本を読み、恋人ができ、自己肯定感が高まり、お金の増やし方を学んだ。睡眠の重要性を特に学んだ。人生、良くこと尽くめだった。


 だけれども、偏差値40しかない自分を悔やんだ。勉強すると、旧帝大や一ツ橋、早慶などの高学歴男性を羨み、学歴コンプレックスに陥った。


 十年後。フリーターは金持ちになった。かなりの金持ちになった。そして、学歴を買った。海外の大学で無法に売られていた学歴を買った。


 周囲の高学歴は金持ちになったフリーターを、こう蔑む。


「金はあっても教養の無いやつは尊敬できない。成金野郎」


 金の切れ目が縁の切れ目。すべてを手に入れた金持ちフリーターは、されど信頼を手にすることができなかった。


 恋人と別れ、自己肯定感が低くなり、お金の減らし方を実践した。


 いつの間にか。お金を無くして、自分が最底辺の道を歩いていることに気づく。まあ、生活保護も良かろう。一人で孤高に実践してきた大学生は、フリーターになり、成金になり、自己破産して、ホームレスの生活保護受給者になった。


 という夢を見た偏差値40以下の大学生は、大学を中退して、高卒になり、フリーターとしてアルバイトを始めた。


「世の中、お金で9割の悩みは解決できる。けれども僕の病気のように、不治の病はある。人間、どうしようもない時は、悩まず、考える事を放棄する事だ」


 フリーターの男は、何も考えず、頭をすっからかんにして、学歴コンプレックスを知らず、結婚し、子どもを産んで、幸せに暮らしましたとさ。勉強のし過ぎにご注意を……。

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