時間が余ったのでお供に小説を。SS(ショートストーリー)

ハカドルサボル

第1話 小説を書く大学生

 仕事で時間が余ったので練習がてら小説を書く。大学生。


 彼は浪人生であり、留年生であった。


 二十歳の時に大学一年生。一年、留年し、現在は大学五年生の二十五歳だ。


 趣味は授業をサボって小説を書くこと。たぶん、死ぬまで小説を書いている。


 デッド オア アライブ。死ぬか生きるか、というが。たぶん死と小説を書くことはイコールで結ばれている。生きる=小説を書くことになっている。


 小説を書く大学生の成績は芳しくない。それこそ大学の成績だったり、ウェブ小説のPV数だったり、ありとあらゆるものが負け組に属している。


 小説の公募はいつも一次選考で落ちる。プロ作家になる道は、箸にも棒にも掛からぬ。


 大学生には彼女がいた。名前は三十五歳の女。今年、三十五歳になる、十歳年上の彼女だ。


 三十五歳をS氏氏と呼ぶ。S氏は働かない障がい者であり、障害年金をもらって生活していた。


 大学生とS氏は同棲している。月5万円のオンボロアパートで怠惰な生活を送っている。


「大学には行かないのかい?」


 S氏が言った。背中が痒くなる甘ったるい声だった。


「大学には行かない。小説を書く」


 大学生は今日も授業をサボって小説を書いていた。


「なんでいね。なぜ大学に行かない?」


「小説を書きたいからだ」


「そんなお金の稼げないことに、いっつも熱中しおって。親からの仕送りがなくなったらどうすんだべ?」


「死ぬ。ホームレスになる。生活保護を受給する。選択肢は無限だ」


 大学生は、自分の生活を書く、私小説を書いていた。S氏とのセックスにふける耽美な日々。


 S氏は方言を研究している無職で、ときどき変な言葉遣いをする。彼女曰く、言葉は意味が伝われば、後は何でもいいらしい。まったく変な女だと、大学生は思った。


「死ぬなんて難しいこと言ってくれんねべさ」


「じゃあ、セックスをしよう。創作活動の幅が広がる」


 今日も今日とて、二十五歳の大学生と、三十五歳のS氏はセックスをした。


 大学生は、セックスをすれば、何かが変わると思って。S氏はセックスをすれば大学生が働いてくれると思って。二人は懸命に突き合った。


 一年後。大学生は留年を二年目に突入した。大学六年生。今も小説を書いている。


 死ぬか小説を書くか。または、生きる=小説を書くこと。残念ならば、まだまだ芽は出ていない。


「なんで授業を行かないべさ?」


「小説を書きたいからだ」


 S氏の胸には赤子の姿が。大学生とS氏の子どもだ。二人は赤ちゃんを産んで、結婚せず、婚外結婚のまま、同棲している。


 女は赤ちゃんを産むと逞しくなる。強くなる。男はいつまでたっても変わらない。


「僕は小説を書く」


 来年も、再来年も、赤ちゃんがいるのに小説を書く、パパになった大学生。物書きほど幼少のころの夢はずっと続けていく。


 バカはいつもまでたってもバカのまま。しかし、人生はチョコレート菓子のようで蓋を開けてみるまでは分からない。将来、大学生が大学を中退して、妻子と別れて、離婚して、それでも小説を書き続けて、プロの小説家になったかは、誰にも分からない。


 だから人生は楽しい。レールから外れた負け組の人生は、40歳になっても50歳になっても続く。

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