第14話

 この島に不時着してから、2ヶ月以上の月日が経過していた。

 この間、僕とステラとクララは、確かに”家族”だったと思う。


 僕はステラのことが好きで、もしかしたらステラも僕のことを好きになってくれるかもしれなくて、そしてクララは僕ら二人の可愛い妹で……。


 不時着したばかりの頃は、どうすれば故郷に帰れるのかということばかり考えていたけど、いつしかこの島を離れるのが名残惜しく思うようになっていた。

 願わくば、この幸せな日々が永遠に続けばいいのに――。


 しかし、運命は僕らの絆を切り裂いた。


 今、ここに、二人はいない。

 追われの身となった僕らが隠れ家として利用していた場所には、三人で紡いだ思い出の欠片が、そこかしこに散らばっている。

 ここにいるのは、三人で飼っていた20匹の猫たちだけだ。

 餌をねだって、甘えるように鳴きながら僕の足に頬を擦りつけてくる。僕の目には、それらの猫たちがまるで二人の残り香のように映った。


 僕が今、手に持っているものは、一枚の羊皮紙。

 ステラが置いていった荷物を整理していたら、偶然発見することになったのだ。

 いつかこのときが来ることを見越して、ステラはこれを残していったのだろう。

 僕はもう一度、それに記された文面に目を通す。



『親愛なるキースとクララへ。


 突然のことで驚かれたと思います。

 本当にごめんなさい。


 二人と出会うまで、わたしは、籠の中の鳥でした。

 外の世界を自由に出歩くことはおろか、外の景色を見ることさえも許されません。

 窓も明かりもない部屋で、ただ言われるがままに使命を果たし続け、気がつけば10数年の歳月が経過していました。

 そして、もうすぐで遠い世界に行かなければならないことを知ったとき、わたしには何の感慨もありませんでした。

 自分でも不思議に思うくらい達観していました。

 いや、それどころか、わたしのような人物には、ふさわしい結末とさえ思いました。

 だけど、心のどこかで願ってしまったのです。


 それはあまりにも身勝手で、分不相応で、魂の叫びにも等しい願いでした。


 ありがとう。最後に夢を見させてくれて。

 わたしは幸せだったよ。


 ――ステラ』

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