第4話

 それから僕らは、クララと名乗る少女を連れて、アジトへと帰還した。

 グィネヴィアは倉庫に待機してもらっている。日々欠かさず食事を与えることを条件にしばらくの間、居ついてもらうことになった。

「一人レジスタンス?」

 ステラが訝しげに訪ねる。

「はい。あたしは、こうすることで奴らに復讐しているんです」

 クララは右手をかざすと、宙に幾何学模様が展開される。そして、そこから火弾が放たれると、床の隅に置かれていた壷が爆炎に包まれ、粉々に破壊された。その間、3秒にも満たない。魔道具による擬似魔法とは比べ物にならない速さと威力だ。

「あたしは、魔女パーシヴァルの血を引いています。遙か昔に、余りに危険すぎるとして火刑に処されちゃいましたけど。でも、彼女はひっそりと子孫を残していました。その末裔があたしってわけです。血はだいぶ薄れちゃいましたけど、このように魔法が使えるんです」

 そう言って、クララは虚空を仰いだ。そして、静かに言葉を紡ぐ。

「あたしの故郷は奴ら――≪翡翠の牙≫に滅ぼされました。≪パージ≫とかいうわけのわからない理由で」

 僕もステラも何も言わない。いや、言えないんだ。

「みんなみんな、あたしの前で死んでいきました。あたしは孤児でしたけど、血のつながらない姉――フレデリーカがいました。フレデリーカはあたしを庇って……。

 分かります。きっと奴らにしてみれば、パージヴァルの血を引くあたしが狙いだったのでしょう。しかし村の人が抵抗したから、村ごと焼き討ちにした。そして皮肉にも、あたしだけが生き残りました。魔法を使って、迫り来る敵を蹴散らして、逃げ失せたのです。以来、あたしは≪ジョーカー≫に指定され、命を狙われ続けています」

 それはあまりにも壮絶な過去だった。

 こんな小さな女の子に耐えられる現実ではない。

 僕は≪パージ≫を執行する≪翡翠の牙≫はもちろん、預言(オラクル)を下す≪アカシックレコード≫にも怒りが沸いてきた。

 拳を握りしめる。しかし、

「でも、あたし負けませんから!」

 そんな僕の怒りとは裏腹に、クララは胸を張って言ってみせた。

「毎日あの時計塔で、あいつらを監視して、最低1人は撃ち落とすことにしています。今日は一気にまとめて12人も撃墜させることができました。大満足です♪」

 クララは健気に笑うが、すぐに視線を落とす。

「……もはや、そうすることでしか、あたしの中で蠢く黒い感情を抑えることができないんです」

 胸がきりきりと締め付けられた。

「あのさ、」

 ステラが言う。

「よかったら、一緒に暮らさない?」

「え?」

 クララは目をぱちくりさせる。

「一人で寂しかったでしょ? これからは一緒にわいわいやろうよ!」

ステラはガッツポーズをしてみせた。

「本当に、いいんですか?」

「もちろんっ」

「ありがとうございます!」

「じゃ、ちょっと遅いけど、昼食にしよっか。あ、その前に、ここの案内をするね。えっと――」

 ステラはクララの手を引いて、階段を降りていこうとする。

 なんだろう、僕だけ取り残された気分だ。

「あの、できたら僕もしばらく居させてもらっていいかな?」

「何言ってるの? わたしたち、”仲間”でしょ?」

 仲間……。

「そっか。僕たち、仲間なんだよね、もう」

 なんだろう、僕は感激してしまった。

 だってこれまで僕がガラハッド以外に心を許せる人はいなかったし、恋人はおろか友達さえ誰一人いなかった。

 そんな僕にとって、2人は初めての友人だった。

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