第16話 Sometime(16)
「急に・・そんなこといわれても、」
そう言ったとたん
ひなたは泣き出した。
うんと小さいころ
自分が会社に出かけようとすると泣いて追いかけてきた。
すがってくるこの娘が本当にかわいくて。
愛しくて。
でも
今は違う男を思って泣いている。
胸が張り裂けそうに
苦しい。
志藤は顔に手をやって泣きじゃくるひなたの肩をやさしくポンと叩いた。
「どこでも行っちゃえばいいじゃんって・・言っちゃった。 浩斗がいなくなるなんて思わなかった、」
彼に対しては
あまりにも子供っぽい感情しかないと思っていたけれど
本当はすでにもう自分にとって大事な人になっていたってことを
きっと今思い知ってしまったのだろう。
志藤はひなたの頭をやさしくなでながら
「自分の気持ちを素直に言えば・・ええやん、」
そう言ってにっこりと笑った。
「素直って・・」
「別れたくなくても別れなくちゃいけないときってあるねん。 自分たちではどうしようもないことあるねん。 ひなたはまだ13歳やし。 これからの人生でもきっとこういう別れがあると思う。 つらくて悲しいけど・・でも別れる時でも悔いを残したらあかんと思う、」
「アメリカなんか・・とおくって。 きっと二度と会えない気がする、」
「これからもひなたは大事な人と出会って、別れてを繰り返して大人になるねん。 もし・・もしな、ひなたが浩斗のこと好きやったら。 笑って『元気でね』っ言ってやらないとあかんと思うよ、」
『好き』
ひなたはその意味を考えた。
「離れたくないって・・思うのは。 好きってことなの?」
くしゃくしゃの泣き顔ですがるように言った。
父親として
そこでうなずくのは非常に複雑な思いであったが。
「・・ひなたの大事な人ってことやん。 それは間違いない、」
小さくうなずいた。
まだまだ恋の入り口にもきていないほど幼くて
そんなひなたに訪れた最初の『試練』。
「浩斗に。 自分の気持ちを素直に言ってやれ。」
娘に自分以外に大事な男ができるなんて
ほんとは悔しいけど。
「おねえちゃん・・だいじょうぶかな、」
台所で洗い物を手伝っていたななみはゆうこにボソっと言った。
「ん。 今はつらいと思うけど。 でもね。 きっと乗り越えられるよ。」
おとうさんも
おかあさんも
たくさんこういう気持ちになってきたのかな
ななみは水を流しながら
どんどんと自分の気持ちも流れていくような気持ちになっていった。
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