第11話 Sometime(11)

「そっか。 ひなたちゃんと出かけたのね。 なんだかね、最近口きいてくれなくなっちゃって、」



浩斗の母は苦笑いをした。



浩斗が幼稚園の頃に離婚をして女手ひとつで二人の子供を育ててきた。



大変だろうに本当に明るくて少しだけ年上の彼女のことをゆうこは尊敬していた。



「・・男の子は中学生になったら親としゃべらなくなるわよ。 ウチの兄たちもそうだった、」



ゆうこは励ますようにそう言った。



「・・ねえ、ちょっと時間ない? ななみちゃんたちも喉乾かない? 」



浩斗の母はしゃがんでななみたちにもそう言った。




すぐそこのファミレスに入った。



涼太郎はピアノのレッスンで、こころは実家に遊びに行っていたので



ゆうこは時間の余裕もあった。



それでもなんだか浩斗の母の様子がおかしいような気がして気になった。



「あたし、ね。 再婚しようかと思ってて、」



アイスコーヒーが運ばれてきてそれにガムシロップを入れながらそう言われた。



「え・・再婚?」



浩斗の母は雑誌の編集者として、離婚をしてもちゃんと自立をした仕事を持っている人だった。



「・・2年くらい前からお付き合いしている人がいて。」



「そう、」



ななみは凜太郎の世話をやきながら、大人たちの会話が気になっていた。





「え・・浩斗のお母さんが? 再婚するの?」



ひなたは目を丸くした。




「ん。 なんか。 ちょっと前に母ちゃんからそう言われて。」



浩斗は少し沈んだようにうつむいた。



「へー・・そうなんだあ。」



「何度かウチに来たりして。 その人にも会ったけどー。」



スカイツリーを見上げるように今度は宙を見た。



「え? ヤな人だったの???」



あまりに彼がどんよりとしたように言うので、身を乗り出して聞いてしまった。



「え? 別に。 おれ父ちゃんのことあんま覚えてないから。 ああ、お父さんてこんなかなって感じで。 すっげーいい人でさあ。 おれがバスケやってるって言ったらシューズ買ってきてくれたりとか。 その人も学生の時にバスケやってたみたいでさ。 話も合うし。」



「そっか。 いい人だったんだあ・・・よかったね、」



ホッとしたのだが。



「姉ちゃん賛成してるし。 おれも母ちゃんがそうしたいならいいと思うんだけど・・」



どうやら浩斗の本来の悩みの方に突入してきてしまったらしく



いきなり黙り込んでしまった。





「麻奈も浩斗も賛成してくれて、」



浩斗の母はストローでアイスコーヒーを所在なくかき混ぜていた。



「そう。 でも、よかったじゃない。」



ゆうこはそう言ってほほ笑んだが、どうにも彼女があんまりスッキリしない顔をしていることが気になった。


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