第10話 sometime(10)

「わ~~~~、ゆめみたいにきれい、」



ひなたは大きな水槽を前にうっとりとした。



「龍宮城ってこんなかな、」



「ガキみたいなこと言うな、おまえ。」



無邪気なひなたに浩斗は笑ってしまった。



ふわふわと漂うクラゲが



ライトに照らされてゆれる。




「クラゲって・・きれいだね。」



そう言ってからひなたはさっきから自分ばっかりしゃべっているのに気づいた。



いつもはぎゃあぎゃあとうるさいくらいしゃべりまくるのに



今日の浩斗は何だか無口だった。



「・・おなかでも痛いの?」



思わずそんな風に言ってしまった。



「は? 別に、痛くねえよ。 なんなんだよ、」



「なんか。 今日おとなしいんじゃない?」



そう言われてまた困ったようにクラゲの方に目を移した。



自分から誘っておいて。



ひなたはつまらなそうな浩斗に不満だった。





外に出てスカイツリーが真上に見える場所でハンバーガーを食べた。



「あ、浩斗こぼしてるよ~~~、」



「え? マジ?」



「いっつも食べてるとなんかこぼすよね、」



ひなたはアハハと笑った。



そんなひなたの笑顔を見ていた浩斗が



「・・あの、さ。」



あらたまったように切りだした。



「ん?」



ひなたはコーラをストローで吸いながら首をかしげた。






ゆうこは商店街で凛太郎とななみを連れて買い物に来ていた。



買い物に出るときに凜太郎がちょろちょろするのでななみに来てもらうととても助かる。



弟や妹たちの面倒もななみは嫌がらずに引き受けてくれる。



「あ、ひなたママ、」



後ろから声を掛けられて振り向いた。



浩斗の母だった。



「ああ、ひさしぶり。」




浩斗とは幼稚園の時からずっと一緒でお互いの家を行き来することもあったが



中学生ともなると親同士が顔を合わせることもあまりなくなった。



「今日は天気が良くてよかったわね。 スカイツリーの水族館、前にひなたに行きたいって言われたことがあったんだけどなかなか行けなくて。 浩斗くんに誘ってもらってよかった、」



と何気なく言うと



「え? 浩斗、ひなたちゃんと水族館に行ったの?」



母は丸っきり知らないようだった。



「え・・ああ、うん。 そうみたいだけど、」



ゆうこは言ってはまずかったのだろうか、と少し慌てた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る