第1140話 厄災の赤竜
空間把握センサーで隠し通路を発見した。
暖炉の奥に扉があり、機械式のようだ。魔法じゃないんだ。
約三年の流れを感じさせず、暖炉の柵を踏むと動き出した。
「入るのか?」
「いや、空気を入れておこうと思ってな。風の通らない通路や洞窟に入るときは注意しろよ。空気が濁っていると一瞬で死ぬからな。空気を送り込んでから入れよ」
動画でそんなのを見た記憶がある。二酸化炭素が下のほうに溜まっているってな。
ホームから扇風機とポータブル電源を持ってきて隠し通路に風を送った。
「よし。探索を続けようか」
「あいよ」
上から下に向かって調べていく。
「どんだけバデットが襲ってきたんだか」
「埋め尽くすほどいたって話だ。高位の冒険者たちがいなければ伯爵様や領民は逃げられなかったそうだ」
「その高位冒険者たちは?」
「一人を残して死んだそうだ」
それはご愁傷様です。ダメ女神に会わず無事成仏していることを願うよ。
地下まで探索し、やっとこさ安全を確保した。ふー。
「休憩しよう」
外に出て缶コーヒーで一服。この一時の缶コーヒーが一番美味いぜ。
「倉庫はどこだ?」
「城の裏だ。城門が閉まっているからバデットが侵入されてないと思う」
あー。なんか城門があったな。裏門かと思ってたよ。
「探索だけなのに疲れるものだな」
「まだプランデットがあるから楽なほうさ。自分の目と耳だけで探ったら精神が擦り切れるぞ。オレはそれで精神を壊す寸前だったよ」
「そうなのか? 結構、腹が座っているように見えるが?」
「それまで人には言えない情けないことをしたものだ。空を見上げたらデカい赤い竜を見たときは漏らしたものだ。恐怖ってのを生まれて初めて知ったよ」
バケモノを見すぎてあのときの恐怖は消えている。ラダリオンと出会わなかったら穴という穴が崩壊してたことだろうよ。
「……厄災の赤竜か。お伽噺の竜、本当にいたんだな……」
「知っているのか?」
「マガルスク王国じゃ有名なお伽噺さ。厄災の赤竜が現れたら国が滅ぶだの疫病が流行るなど伝えられているよ。本当かウソか、マガルスク王国の前に栄えていた王国を滅ぼしたとかって話だ」
マ、マジか?! あのダメ女神、ゴブリンをなんとかする前に厄災の赤竜をなんとかしやがれよ! 安心してゴブリン駆除できんだろうが!
「……胃が痛いよ。赤竜の対策も考えないといかんじゃないか……」
竜ってこと熱を放っていたらスティンガーミサイルを使えるんだろうが、そうでなかったらどんなミサイルがいいんだ? ガーゲーて造れないか? 赤竜に飛び乗って巨人化すればいいのか?
ダメだ。いい案が思いつかない。ダメ女神よ、勇者を喚んでくれよ!
「あれと戦おうとしてんのか?」
「戦わずに済むならそれに越したことはない。が、なにかあってからでは遅い。だからこそ安全なときに対抗策を用意しておくんだよ。平和に甘えるな、だ」
この世界に連れてこられて平和なんてなかった。山あり谷あり悪夢ありだ。
そこで得られた家族だけがオレの安らぎ。そして、生きる理由だ。厄災だかなんだか知らんが、オレの幸せを奪う者には鉄槌を食らわせてやるさ。
「……今、お前の凄さがわかったような気がしたよ……」
「オレはなに一つ凄くもない。凡人な男さ。だが、凡人には凡人なりの戦い方があり、生き様がある。なにもやらず殺されて堪るか。使えるものはなんでも使う。この世に倒せぬ生き物はいないんだからな」
古代エルフの技術があり、現代知識がある。どんな毒でも買える力がある。さらには魔法までる。エイリアンだって対策すれば勝てるだろうよ。
……赤竜に勝てる方法はさっぱりだがな……。
「赤竜の情報があればな。誰か記録を残しててくれないもんかね?」
とっかかりさえあれば倒す道が導けるのに。パージパールで倒せんかな?
「いや、赤竜のことはあとだ。まずは倉庫を確認するとしよう」
何事にも順番はある。今は倉庫の確認。食い物があるかどうかだ。
空き缶を捨て、倉庫に続く城門に向かった。
「城門に傷がないな」
「前に城門にも魔法がかかっているって聞いたことあるぞ」
なるほどと、魔力残存センサーに切り替える。
「魔力反応があるな。城門全体に膜がかかっているようだ」
なら、どこかに魔石が使われているんじゃないか? どこだ? と辺りを探ると、石碑みたいなところに強い魔力反応があった。
「あれか? 魔力供給源は」
石碑みたいなのを探ると、石板が動かせるようになっているところがあった。
ナイフで抉じ開けると、野球のボールくらいある黒い魔石が入っていた。
「魔法は問題なく動いているか」
スゲー技術だよな。魔道具とかないって言ってたのに、これって魔道具みたいなもんじゃないか。いや、付与魔法になるのか?
「目標は果たせた、ってことか?」
「そうだな。大きな魔石があって魔力が纏ってあるなら問題なく倉庫の中の麦は腐ってないってことだ」
腐ってないのならハクラクカの未来は守られたってことでもある。よかったよかった。
「よし。隠し通路を調べるぞ」
完全に安全を確認してからじゃないと伯爵を呼べないからな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます