第1138話 2025年

 訓練ってほど訓練にならなかったが、プランデットの基本は教えられた。


 拠点には領民たちがまだいて、すっかり場所を取られていた。仕方がないので隣の家屋で休むことにした。


 マットを敷いてすぐに眠りにつき、なんか騒がしくなって目覚めた。


 特段、険しい騒ぎでもない。人の会話がしていてうるさいだけのようだ。なんなんだ?


 時計を見たらまだ九時を過ぎたくらい。五時に寝たから四時間は眠れたか。まだ寝たりないな……。


 マベルクは気にせず熟睡中だ。肝が座ったヤツだ。そんなんじゃ長生きできんぞ。もっと繊細にならんと。


「まあ、それはそれで神経が擦り切れて寿命を縮めそうだがな」


 どっちが正しいかはわからない。そいつの性格を活かして強くなるしかないか。


 また寝るのも目覚めが悪くなりそうなので、苦いコーヒーでも入れるとしよう。


 マベルクのリュックサックを漁り、携帯カセットコンロとドリップ式のインスタントコーヒーを出して飲むことにする。


「たまに飲むのもいいもんだな」


 コーヒーは缶派だが、こうして淹れて飲むのも悪くはない。平和な感じがするよ。


「悪い。起こしてしまったか」


 さすがのマベルクも起きてしまったよ。


「……いや、いい。おれにもくれ」


 起きたらまずうがいしろと思ったが、オレもやってないことに気がついて、黙ってコーヒーを淹れてやった。


「最初は苦くて飲めたもんじゃなかったのに、慣れると美味く感じるから不思議だよ」


「精神を静める効果もあるからな。マベルクはタバコは吸わないのか?」


 マガルスク王国じゃよく吸われていると兵士たちは言ってたが。


「そんな高貴な趣味はないよ」


 タバコ、そんなに高いものなのか? 兵士たちはよく吸うって言ってたのに。


「まあ、吸わないなら吸わないでいいさ。体に悪いものだからな。吸うなら酒で気分を落ち着かせたいものだ」


「酒か。酒なんてもう何年も飲んでないよ」


「それならこれを持ってろ。気付け薬代わりだ」


 スキットルを渡した。


 いつもは余市十年を容れてあるが、たまには味を変えようと今回はジェムソンを容れてある。あまり飲んだことはなかったが、舌が贅沢になってくるといろんなウイスキーを飲みたくなってくるんだよ。


「複雑な臭いだな。飲めるものなのか?」


「コーヒーと同じさ。飲み慣れてくるとこれなしでは生きていけない体になる。まあ、好みもあるからな。無理なら葡萄酒でも容れておくといい」


 相当な飲兵衛でもなければウイスキーを飲むのは辛かろうよ。酒を飲めない庶民ならワインくらいがちょうどいいのかもな。


「キッツ! スゲーな、これ……」


「気付け薬だ。いきなり全部飲むなよ。飲むときは水で割るといい」


 そう言うと、さっそく水を容れて飲み出した。節操のない子供か!


「うん、まあ、飲めなくはないな。美味いかどうかはよくわからんが」


「慣れろ。それだけだ」


 初めてなんてそんなもんだろう。飲んでいるうちに辞められなくなる。酒とはそんなものさ。


「なにか食べるか?」


「んー。軽いものなら」


「じゃあ、袋麺でも食うか。リュックサックに入っているから作ってみろ」


 魚肉ソーセージも入れてある。たまにはそんな食事もいいものだ。日頃の食事のありがたみわかるしな。


 ホームから鍋を持ってきて二人分を入れて魚肉ソーセージを適当に切ってぶち込む。こういうのでいいんだよ、こういうので。


 ズルズルと食べていると、エクセリアさんが入ってきた。帰ってたんですね。


「いい匂いね。ラーメンってヤツ?」


「はい。食べます?」


「食べる。ソレガシに聞いて食べたかったのよね」


「インスタントでよければ持っていきますか?」


 山崎さん、料理人が用意してくれるようだが、たまにはインスタントラーメンを食べたいだろうよ。たまに食うと本当に美味いからな。


「それはソレガシも喜ぶわ。食べたいって言ってたからな」


 それなら言ってくれたらよかったのに。ってまあ、作ってくれる人にインスタントラーメン食いたいとかなかなか言えないか。毎日一生懸命美味いものを作ってくれてんだからな。


 ホームに入って袋麺を箱で持ってきて、オレたちが使った鍋でまた作った。


「お椀、あります?」


「これでいい?」


 エクセリアさんもアイテムバッグを持っているのでシェラカップを出した。


 それに入れてやり、ちょっと難しそうに麺を食べるエクセリアさん。それでもラーメンが美味かったようで口角を上げた。


「いいわね、これ。美味しいわ」


「たまに食うから美味いものですよ。でも、たまに食いたくなる味なんですよね。特に夜中に」


「ソレガシもそんなこと言ってたわ。夜中のラーメンが一番美味いって」


 たぶんそれは店のラーメンじゃないか? 飲み会のあとのラーメン。また食いたいぜ。


「それで、車は決めましたか?」


 インスタントラーメンも食べ終わり、コーヒーを淹れてあげてのんびりしているところで尋ねた。


「ええ。これよ」


 と請負カードを見せてもらった。


「三菱?」


 に、こんな車あったっけ? なんだこれ? 新車か? 見たことないぞ?

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