第1134話 領都ハクラクカ
久しぶりの二日酔いだ。やはり悪い酒は悪酔いするものだ。
「だいぶ飲んだようだな」
炊き出しのところにやっときたらマベルクに呆れられてしまった。
「人生には飲まなければならないときがあるんだよ」
「なんだそりゃ?」
「マベルクも生きてたらわかるよ」
たぶん、お前は飲まなければならない人生になる。そのときになって実感するがよい。
「ハクラクカの領都に向かってくれ。伯爵に様子を見てきて欲しいと頼まれたんでな」
悪いがオレは後部座席で眠らせてもらいます。ZZZ……。
「着いたぞ」
ふがっ!? つ、着いた!? は、早いな。ちょっと眠ったつもりなのに。
「なにか動いたのはいたか?」
「いや、見てない。入るか?」
起きて前を見ると、寂れた街が見えた。城は……崩れた感じはしないな。
「ちょっとシャワーを浴びてくる。マベルクは様子を見ててくれ。なにか襲ってきたら逃げていいから」
外に出てからホームに入り、熱いシャワーを浴びたら戦闘強化服に着替え、タボール7を装備した。バデットとかいたら5.56㎜弾では心許ないからな。
水を大量に飲んでいくぶんかすっきり。よしと気合いを入れて外に出た。
なにも異常はなかったようでハイラックスは動いておらず、マベルクはのんびり缶コーヒーを飲んでいた。
「ハイラックスは道から外れたとこに置いて、枝で隠しておけ」
持ち去られる心配はないが、荒らされたら嫌だからな。見えないようにしておこう。
ヘルメットをして熱源や魔力反応を調べる。
「なんか動いてんな。バデットか?」
反応は二十から三十。速いのもいれば遅いのもいる。なんだ?
「終わったぞ」
「了解。領都に反応がある。油断するな。マベルクが先頭。オレが後方。確実に敵だと判断したら撃て。迷ったら体を低くしてオレの後ろに回れ」
「わ、わかった」
ベレン2を構えて領都に進んだ。
大して射撃訓練はしてないが、実戦で覚えてもらう。この残酷な世界で生きてきたヤツ。なんの覚悟もなく連れてこられたオレとは意識が違うだろうよ。
街に入ると、約三年の年月がよくわかる。あちらこちらから草が生え、意気のいい植物は木となっている。バデットが暴れたのか木造の家が結構崩れている。一旦崩れると朽ちるのも早いんだな。
十年外界と遮断されていたロンレアよりはマシとは言え、やはり世紀末感が凄まじいもんだ……。
「前方、十一時前方に動体反応。数は一。路地から出てくるぞ。バデットなら撃て」
音に釣られて出てくるならそれもよし、だ。
物陰からゆっくりと現れたのはバデット。でも、体内の魔力が少ないから大部分が腐り落ちている。あれでよく歩けるものだ。
「撃て」
マベルクが背負うリュックサックをつかんで射撃を促した。
二十メートルは離れているが、落ち着いているからか数発は当てられ、バデットは崩れ落ちた。
「マガジン交換だ」
連射だったので二十発は撃った。次で撃ち尽くすだろうから早めにマガジンを交換させておく。
「警戒しながら近づけ」
バデットを確実に仕留めるに近づき、マナイーターで止めを刺す。
「バデットもエネルギーがなければこんなものか」
永久的に動けるゾンビがいないように永久的に動けるバデットもいない。風雨に晒されて肉体を維持できたら永久機関炉ができている鍵になるってものだ。
「マルベク。後ろだ」
「わかった」
すぐに振り向いてベレン2を構えた。
やはりこの地獄を生き抜いただけはある。まったく慌ててない。冷静と言ってもいいだろう。
「次はよく狙って撃て。弾の数を意識しろ」
またリュックサックをつかんで判断はマルベクに任せた。
次に現れたのも腐敗が進んだバデットだ。歩くのもやっとだが、的確にこちらを認識した動きだ。ああなっても魔力を感じられるんだな。
よく狙って五発くらい連射して倒した。
「ナイス。上手いぞ」
「いいな、これ。おれでもバケモノを殺せる」
「だからって強くなった気になるなよ。ベレン2で倒せるのは人間サイズの魔物だけだ。威力の強いこれでも倒せない魔物がいるからな。ハイラックスくらいの魔物を見たらすぐに逃げろよ」
「……世の中には恐ろしいもので溢れてんだな……」
「ああ。オレ一人だったらとっくの昔に死んでいたよ。逃げるのは恥だと思うな。勝てないヤツには絶対勝てない。確実に勝てる手段を持ってから挑めよ」
銃一つで無敵感を持たれたら困る。この世界じゃRPG-7でも倒せないのが五万といるんだからな。
「次だ。反応からして二匹。一緒にくるぞ」
反応のほうに向かうと、腐敗はあまり進んでおらず、動きもそんなに遅くはない。魔力の量が多いみたいだな。
「弾に気をつけてやれよ」
残りの弾でなんとかなるが、元気だと倒し切れないこともある。気を引き締めろよ。
「了解」
ほんと、落ち着いたヤツである。初めてこの地に降りた昔のオレに見せてやりたいものである。
残りの弾で二匹を倒し、すぐにマガジン交換をした。
「お見事。残りはまだ遠くにいる。今のうちに弾の補給と休憩でもするな」
慌てることもない。余裕があればすぐに補給しておくとしよう。
まだ形を残している家に入った。
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