第1132話 地渡り

 山頂に発信器を打ち込んだら山を下りた。


 行きはよいよい帰りは怖い、ってことにならず一時間半くらいで村に下りられたよ。


「よし。ハイラックスの扱い方を教える」


 概念すらなかった乗り物だが、KLX230Sにも乗せたし、ハイラックスも何度も見ている。見慣れるのには充分な時間であり、AT車を運転するだけならそう難しくはない。


「ぶつけても構わない。この車はちょっとやそっとぶつけたくらいじゃ壊れないからな。逆に壊すほうが難しいものだ」


 日本車は異世界でもその性能と頑丈さを示している。でも、新車だから気をつけていただけると助かります。


 まずは村の外まで一速で走らせ、渓谷に入ったら二速に。一息つかせたらドライブに入れさせた。


「その調子だ。先の村まで進め」


 そう急カーブがあるわけでもなく馬車が通れるだけの道。問題なく村まで到着できた。


「お疲れさん。一服しろ」


 缶コーヒーを渡して一服させた。


「どうだ、運転は?」


「かなり神経を使ったが、悪くはない。タカトの世界は凄さがよくわかったよ」


「車ができた分、仕事に通うのが大変になったがな。元の世界にいたときはこの村とお前の村まで距離を毎日通っていたよ」


「それはそれで凄いな。馬車でも半日かかるぞ」


「暮らすとなるとどこでも大変ってことさ。違う忙しさが出て違う苦労が出てくるからな」


「都会にいった友達も苦労してたのかな?」


「してたと思うぞ。暮らしがまったく違うし、金だってかかる。成功しているならまだしも失敗してたら田舎に帰りたいと思っているはずだ」


 オレは地元でも他の地からやってきたヤツはいた。知らない土地で知り合いもなく暮らすのは寂しいものだと言ってたよ。


「そういう経験や考えは大丈夫にしろ。年を重ねたら自分の力とるから」


 経験があったからオレは今を生きていられる。何度も思うが、二十歳くらいで連れてこられたらきっとオレは一年もしないで死んでいただろう。年を重ねないと人は慎重を覚えないと思うからな。


 もちろん、個人差はあるだろうが、オレの場合は経験があったからだ。そうでなければ人を集めようとは思わなかっただろうよ。


「さあ、いこうか」


 空缶を遠くに捨て、ランティアックに向けて出発した。


 道も広くなり、視界もよくなったので速度も三十キロまで上げられている。もっと道がよければ五十キロまで出せるんだがな~。


「そう言えば、マベルクの親になにも言ってこなかったな。心配してないか?」


「兄貴がいるから問題ないさ。子供も二人いるしな」


「そっか。まあ、次、会ったときに説明したらいいさ」


 親子の情はあるだろうが、この時代ではすぐ独立する。いつまでも親元にはいない。生きるためになにかしらの仕事はしているのだ。


「マベルクはなんの仕事をしていたんだ?」


「荷役だよ。いろんなところに物を運んでいた」


「村長の息子なのに?」


「体力だけはあったからな。任されていたのさ」


 確かに荷物の積み降ろしには向いてそうだ。


 しゃべりながら運転もできるようになり、お互いのことを語り合っていたらランティアックに到着してしまった。


「誰かとしゃべっているとすぐだな」


「まーな。移動してるとしゃべることしかやることがないから」


 確かにそうだ。


「カインゼルさんたちはまだ帰ってないか?」


「また人が増えてないか?」


「言われてみれば。どこからランティアックが無事だと伝わるんだ?」


 近隣の者ではないよな? 馬を連れてきているヤツもいるし。


「地渡りが広めているんだろう」


「地渡り?」


「放浪しながら暮らす一族だよ。住む場所を追われた者が集まって旅から旅をしているのさ。あまり歓迎されないが、忙しいときには役に立つヤツらさ」


 マーダ族みたいなのがいるんだ。まあ、一緒にはできないがよ。


「そんなのがいるんだな」


 情報を伝える集団としてはありがたいか。この状況で遠くまでいこうって思うヤツはいないんだからな。


「男爵に会ってくるからそこら辺を走っていろ」


 一応、ここが炊き出しの場となっている。カロリースープを出しているし、ハイラックスにもカロリーバーや缶コーヒーを積んである。腹が減ることはないだろうよ。


「夜には戻ってくるよ」


 ホームからKLX230Sを出してきて城に向かった。


 街中にもさらに人が増え、露店を出している者までいた。まったく、人とは逞しいもんだよ。


 兵士に声をかけながらタバコを差し入れし、街の様子を聞かせてもらった。


「露店を出しているのがいたが、食料なんてどこから調達しているんだ?」


「どの村も生きるために必死で育てていたんだと思いますよ」


「それは凄いな。バデットが徘徊してたのに」


「それでもやらなければ死ぬだけですから」


 確かに死にたくないのならやるしかないか。やはりこの世界の住人は弱くはないな。


「まあ、それでもタカト殿たちがきてくれなかったら今年はたくさんの餓死者が出ていたでしょうな。我らは運がよかったです」


 その分、こちらにしわ寄せがきたけどな。まあ、こちらも最悪の状態でなかったからなんとかできたようなもの。タイミングが大事だったってことだ。

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