第1131話 バケモノとは

 マベルク、思ったより若かった。


 二十代後半かと思ったら二十三歳だった。ここのヤツら老けすぎだろう。


「ちょっとこれを飲め」


 休憩時に回復薬中を飲ませた。


 劇的に変わることはなかったが、心なしか顔の艶がよくなったように思える。薬では治らないなにかがあるんだろうか?


「明日、またこれを飲め」


「薬なんて高額なもの、そんなに飲んだりしていいのか?」


 これは生きてきた世界の違いだろうな。こちらの常識を教えるとこの世界の常識が狂う。加減が難しいな~。


「気にしなくていい。セフティーブレットの一員には絶対に飲ませているものだからな」


 まずは健康な体を持つことがいい仕事をする第一歩。セフティーブレットのマスターとしてコストのいい仕事をしてもらえるなら安いものだ。


「足の痛みも消えただろう?」


 新品ていきなり登山は無謀だったようで靴擦れを起こしていたのだ。


「ああ、ウソのように痛みが消えたよ」


「それはよかった。じゃあ、いくぞ」


 高いと言ってもそこまで高くはない。二時間もかからず山頂に辿り着けるようや山だ。


 出たのが昼前だから十四時過ぎくらいに山頂、と思われる場所に到着できた。


「木が多いな。目立つように伐るか」


 そう大木ってわけじゃない。ウォータージェットで薙ぎ払ってやった。


「やっぱ、威力が上がってんな」


 これなら岩でも斬れそうだ。


「あんた、魔法まで使えるんだ」


「この世界に連れてこられたときに体を造り変えられたんだよ。竜の血も飲んでしまったし、レベルアップしたりとバケモノみたいになってきたよ」


 こうして木を薙ぎ払うとかヤバすぎんだろう。周りがバケモノすぎるから気づかなかったよ。


「魔法、いいよな。おれも炎を出して魔物を倒したかったよ」


「別に魔法がなくたって魔物は倒せるさ。変にいろんな力があるとすべてが疎かになるものだ。お前は体力がバケモノ並みなんだからそれを活かすといい」


 こいつ、まったく息も切らさなければ汗すらかいてない。平地を歩くかのように山を登りやがる。こっちはレベルアップしてんのに汗かいてんだぞ!


「もっとカッコイイ力が欲しいよ」


 うん。お前の体力はもう特殊能力の域だから。カッコイイとかの次元じゃねーんだよ。自慢していい力だからな!


「それなら銃の扱いを覚えろ。銃を極めたら魔法使いにも勝てるぞ。まあ、バケモノ級の魔法使いなら少しは頭を働かせないと勝てないがな」


 ミシニーとかミリエルに銃で勝とうとしたらかなりの腕前がないと不可能だろう。五百メートル離れてても油断できんよ。


「とりあえず、枝を払ってくれ。せっかくだから薪にする」


 なにかと必要になる薪。リヤカーに載るくらいの薪は常にホームに入れておかないといけないのだ。


 ウォータージェットで輪切りにしていき、マベルクに薪割りしてもらった。


 さすがに全身から汗が吹き出す。マベルクは額にうっすら出るくらいだがな。お前、ほんとバケモノ!


「暗くなってきたな。今日はここでキャンプするか」


 枯れ木を集めてもらい、簡単な釜戸を作った。まあ、それで料理するわけではないんだけどな。お湯を沸かすのはカセットコンロだし。雰囲気だよ、雰囲気。


「ここら辺のヤツは風呂に入ったりするのか?」


「フロ?」


 うん。風呂を知らない人たちのようでした。マジか!?


「体は常に綺麗にしていろ。臭いと女にモテんぞ。って、お前、所帯持ってたりするのか?」


 村長の息子なら結婚してても不思議ではないよな?


「逃げ遅れて死んだよ。初夜の日にな」


「……それはすまなかった……」


「もう過ぎたことだ。親に決められた相手だしな。その日に顔を会わせたくらいだ。情もないよ」


 昔の日本もお見合い結婚とかあったみたいだし、こんな時代では恋愛結婚は難しいんだろうか? 村長の息子ってのもありそうだしな。


「とにかく、時間があるなら毎日体を洗え。下着は毎日替えろ。清潔でいろ」


 ホームから湯船を持ってきて水を溜め、ヒートソードで沸かした。


「上がったら下着を洗って乾かせ」


「……必要か? 洗濯なんてたまにでいいだろう」


「可能な限り毎日洗え。ちょっと待ってろ」


 またホームに入り、アイテムボックス化したリュックサックを持ってきた。


「これは魔法の鞄だ。この十倍は入る。洗濯物を溜めてもいいがちゃんと洗濯しろ。もし面倒なら金を払って洗ってもらえ」


 ついでにマガルスク王国の金を渡しておく。使い道ないから溜まる一方なんだよな。


「こんな大金いいのか!?」


「惜しみなく使え。金が回ればマガルスク王国の復興が早まるからな」


 オレが思う以上に生き残りがいる。なら、金は取引に必要だろう。金と銀、銅は将来も必要になる。滅びた村や町から集めて潰したらソンドルク王国でも使えるようになる。たくさん使ってがんばって集めてもらうとしよう。


「……気前がいいよな……」


「別に気前よくやっているわけじゃない。オレたちセフティーブレットが動きやすくなるためにやっているだけだ。いいか、マベルク。どんな特殊能力があろうと人を動かす力とはならない。オレが食料を渡すのはこれから人手が必要になるから。その準備にすぎない。それに、食料を渡した恩も売れる。オレにつけば食うに困らないと思わせられ、味方になってくれるってわけだ」


「こずるくないか?」


「それで誰か不幸になったか? 憎いと恨まれたか?」


「……いや、皆腹を満たすことができた……」


「そうだ。人を動かすなら得を与えろ。こずるいと思われようがオレたちの目的が果たせるなら安い罵りさ」


 善行でやっているわけじゃない。感謝が欲しいわけじゃない。オレらが生きやすくするために動いているだけだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る