第1130話 流動
「ナルーリュ殿。よく生きていてくださった」
「マガルク殿こそ。そなたが生きていればマガルスク王国も明るい」
がっしりと手を握り合い、お互い生きていたことを喜びあった。
ミルズガンへの連絡は延びそうな感じなので、またハクラクカの村に向かった。
百キロ圏内に発信器があるから迷うことはないだろうが、渓谷から高い山が見えた。あそこに打てばさらに狭く探索できるだろうよ。
「ここにも打っておくか」
ランティアックと村の中間くらいに発信器を打ち込んだ。
「ゴブリンの気配が消えたな」
昨日はちらほらと気配はあったが、今は完全になくなっている。カインゼルさんたちに駆除されたかな?
缶コーヒーを飲みながら遠くのほうまで気配を探るが、やはり感じ取れなかった。
「ランティアックからハクラクカの間は移動できそうだな」
人が動けば復興も早くなる。どんどん動いて欲しいものだ。と、村を曲がろうとしたら人が何人かいた。
こちらを見て驚いていないところを見ると、村に隠れていたヤツらか?
「村が心配で見にきました」
まあ、わからないではない。何年も帰ってなかったのだからな。
「ゴブリンはいなくなったが、逃げ出した魔物が戻ってくるかもしれない。夜は気をつけろよ」
「はい、ありがとうございます」
「食料を置いていくから無理しないことだ」
丸腰できたわけでもなさそうなのでコンテナボックス一つ分のカロリーバーを渡した。
「春になったらなにか植えられるものはあるのかい?」
「はい。豆を植えられます。他にも種は持って逃げたのでなんとかなると思います」
逞しいものだ。土地に生きるってことなのかね?
「隠れていた村で麦は始められそうなのかい?」
「はい。わたしらも手伝いにいきます」
「しかし、よく生きてられたな。何年隠れていたんだ?」
「三年ですかね。伯爵様が早く動いてくださったので死人を出すことはありませんでした。ただ、あれ以上は難しかったと思います。いろいろ足りなくなっていたので……」
崩壊するまで五秒前、って感じだったんだ。よく堪えたものだ。
「生きていればいいこともあるさ。子や孫たちに囲まれて死ねるようになってくれ」
「はい。ありがとうございました」
お気になさらずと、村を出た。
マベルクたちは夜通し進んだようで、途中で会うこともなく隠れていた村で再会した。
「無茶したな」
「もう少しだと思うと我慢できなくて。あの食料があればしばらくは腹を空かすこともない。本当にありがとう」
「感謝は受け取った。だからもういいよ」
こちらも目的があってカロリーバーを配っている。あまり救世主のように感謝されても困るわ。
「ところで、あの山までの道ってあるかい? 山頂にいってみたいんだが」
「その下まではあるが、山頂にいってどうするんだ」
「道しるべを打ち込むんだよ。こちらにら空を飛ぶ乗り物がある。空には目印がないからな。高い山に目立つものを立てて目印にするのさ」
「あんた、神の御使いか?」
「まあ、似たようなものだな。ただ、ゴブリンを駆除するのが本来の仕事だ」
仕事だと言うのも腹立たしいが、今はこれで生きているのだから仕方がないさ。
「祈られたってオレにはどうしようもないからな。どうにかしたいのなら自分の力で成し遂げてくれよ」
「あ、ああ。この世に神はいないのはこの数年で学んだよ。いたとしても祈る気などない。自分の力で生き抜いてやるさ」
「ふふ。お前とは気が合いそうだ」
請負員カードを発行してマベルクに渡した。
「神に祈ることはない。神の力だけ利用してやれ。そして、幸せになれ」
名前を登録させてゴブリン駆除請負員とした。
「理不尽に殺されたくないのならオレと一緒にこい。理不尽に抗う術を教えてやる」
マガルスク王国で人間を請負員にはしたが、セフティーブレットの一員として迎えてはこなかった。マベルクのような神に頼らないような人材は優先して確保しておくべきだ。
「強くなれるのか?」
「それはお前次第だ。オレには特別な力を与えてやれるような力はない。知識と技術、強くなれるような環境を与えてやれるだけだ。それを使ってどう強くなるかはマベルクが決めるんだ」
マベルクは普通の男だろう。だが、普通の男が強くなれないなんてことはない。バケモノを殺す力強いはなくとも知識と技術さえあれば殺すことができるのだ。
「おれはもう惨めな自分にはなりたくない。強くなれるならどんなことでもしてやる。おれを連れてってくれ」
いい覚悟だ。オレに見習わせたいものだ。
「少し待ってろ」
ホームに入り、予備の装備を持ってきた。
オレより体格はいいので小さいかな? とは思ったが、調整でなんとかなった。ただ、靴は二十八センチはあったので新しく買う必要はあった。
二十九センチのタクティカルブーツを買い、靴下で調整する。
「これはアサルトライフル。ベレン2って名前だ。オレの世界の武器で中ていどの魔物なら殺せるだろ。こっちはグロック17。護身用だ。人間なら十二分に殺せるだろう」
さすがにまだ手榴弾は渡せないので、細々とした道具を渡し、リュックサックに詰めて背負わせた。
「結構重くなるな」
「自分の命を守る重さだ。まずあの山の頂上を目指すぞ」
オレも体を鍛えねばならない。自分や家族を守るために。理不尽に負けないために。
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