第1128話 殺したくない男たち
顔色が悪かった伯爵の顔に赤みが戻ってきた。
……この異常なまでの効力もおっかねーよな……。
「伯爵様。どうですか?」
「し、信じられん。全身から感じた痛みがウソのように消えてしまった……」
それ、かなりの大病だったんじゃね? この薬、マジヤバくね?
「数日後にまた打ってみてください。なにもなければ体から排出される薬なので」
ほんとかよ、と思っていたセリフを飲み込んでそう促した。
今まさに死にそうだった命。後遺症は甘んじて受け入れてください。なにか不調があったら回復薬をお渡しするんで。
「まだまだ死なないでください。マガルスク王国のために」
そのために貴族として生きてきたんだか、それまで得た特権に報いるときですよ。
「……そうだな。残り命、マガルスク王国のために使うとしよう……」
栄養が足りてないから六十くらいに見えるが、案外、四十くらいだったりする?
「まずは食事をしてゆっくり体力を取り戻してください。息子さんはおりますか?」
「王都に上がっておったよ」
それはご愁傷様です。
「では、後継者は?」
「産まれたばかりの孫がいる。ライングが残してくれた子だ」
なら、ハクラクカ伯爵家はまだ続きそうだな。
「お孫さんが成人するまでは絶対に死にませんね」
「いや、ひ孫が生まれるまでは死んでなるものか。わしが生きている間にハクラクカ家を再興させてみせる」
結構、情熱系なお方のようです。元気すぎて脳の血管を破裂させないでくださいよ……。
「それは心強い。明日までランティアックに向かう方を選んでおいてください」
「いや、わたしがいこう。ライダ男爵とはよく会っていた。わたしを見たほうがライダ男爵も安心しよう」
「お付き合いが長いので?」
「小さいときから世話になったものだ。あの方がいたからランティアック周辺は守れていたと断言してもいいだろう」
昔からバケモノだったんだな、あの人。男爵でよくいられたものだ。
「わかりました。明日のために今日はゆっくり休んでください。乗り物を持ってきますので」
乗り物系はすべて外に出した。ランティアックまで戻らんとパイオニアがないんだよな。
「マベルク。馬車のところまで戻るぞ。しっかりここまで運んでこい」
「あ、ああ、わかった」
すっかり暗くなってしまったが、プランデットをかけたら問題はない。また二人乗りしてきた道を戻った。
二時間も走ると、カロリーバーを運んでいる馬車と遭遇。松明一つでこのくらいの道を進んでいたよ。無謀なヤツらだ。
「今日はここで野宿しろ。武器を渡してやるから」
一旦ホームに入り、マチェットやライト、水なんかを渡してやった。
「無理するなよ。お前らのような男はこれからのマガルスクに必要なんだから」
仲間のために無茶をする野郎どもは嫌いじゃない。こんなところで死なせたくはないよ。
「ああ、なにからなにまですまない」
「気にするな。また明日、ここを通るからちゃんと生きてろよ」
そう言ってKLX230Sに跨がって発車させた。
ランティアックに着いたらまだ起きていたカインゼルさんに海兵隊の何人かをハクラクカに向かわせてもらうようお願いした。
「ゴブリンがそこそこいたので稼がしてやってください」
渓谷前くらいに結構いる気配があった。
「それは皆も喜ぶだろう。毎日訓練ばかりだったからな」
「なんなら海に向かってもいいですよ。ミルズガンの港を使えるようにするので」
「それなら半分をそちらに回すか。まずミリエルのところに向かわせればいいか?」
「そうですね。ミリエルに伝えておきますよ」
「わかった。今日中に選んで出発させるよ」
「お願いします」
そう言って男爵のところに。起きてるかな? なんて心配するのもバカらしくなるくらい起きていた男爵様。逆に、この人がここじゃないところにいるのが見たいよ!
「まだ起きていたんですね」
「寝ようとしていたところだ」
あ、この人も寝たりするんだ。まったく想像がつかんよ。
「朗報です。ハクラクカ伯爵様が生きていました。明日には連れてきます」
少し目を大きくさせたら深いため息をついた。
「……そうか。生きておられたか……」
「ただ、息子さんは、王都にいっていたそうです」
「知っておる。わたしの息子と友人だったからな」
それはご愁傷様です。なら、男爵の息子さんも……。
「わたしの息子はランティアックにいるからな」
オレの情緒を返してもらいたいものだ。てか、いんのかよ!
「男爵様のような父親では子供も大変でしょうね」
「そうでもない。あいつは心の臓に毛が生えたような男だからな。わたしのことなど意に介さず我が道を歩んでおる。しっかり孫も作ってくれた。好きに生きればよい」
なかなかな家訓(?)をもっと男爵家のようだ。
「息子さんはなにをなさっておるので?」
「城の書庫を守っておるよ。まったく、本の虫にも困ったものだ」
へー。図書館みたいなのがあるんだ。
「まあ、後世に知識と歴史を残す者は必要ですし、お孫さんに期待するしかありませんね」
この人の代わりなんてできるわけもないのだから次の世代を担う者に育ててください、だ。
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