第1127話 ダブルワーク

 進む毎に人が増えてくる。武装した人がな。


「何人いるんだ?」


「正確な数はわからないが、千はいると思う」


 千では効かなそうな感じだ。二千はいると見ておいたほうが真実を知ったときの衝撃が少なくて済むだろうよ。


 ……食料とか完全に足りてなさそうだ……。


 こっちは救世主じゃねーのに、なんでこいつらを救わなくちゃならんのだ、って思いは常にある。が、オレとしてはマガルスク王国の海が欲しい。


 ソンドルク王国の海を手に入れるのはまだ時間がかかりそうだし、ロンレアとミルズガンまでの航路を手に入れられたら別大陸からどこからでも別大陸に逃げられる。


 まだこの大陸には女帝のゴブリンがいる。そいつがどう動くかわからない以上、逃げ道は作っておかないと安心して寝てられないわ。


 建物が見えてきて、たくさんの人が集まっていた。


「食い物はあるんだろうな?」


「あるよ。ただ、その上からな言葉は止めてくれ。オレらは外国の者。お前たちから税を集めているわけでもなければマガルスク王国に果たす義務もない。ただ、義理で手を貸しているまでだ。うちの者にナメたことは言わないでくれ。抑えるほうも大変なんだから」


 オレは受け流せても職員たちらぶち切れるだろう。セフティーブレットに誇りを持ち始めたからな。


「……すまない……」


「わかってくれたらそれでいいよ」


 こいつも切羽詰まっていたのだろうからな、それ以上は責めたりはしないさ。


 人が集まているところでKLX230Sを停め、エンジンを切った。


「食料を出す。この辺に入るなよ」


 指で指定して見せ、ホームに入った。


 下があまり固そうではなかったので、リヤカーにいくつか積み直して外に出た。


 突然消えて、突然現れたオレに大騒ぎだが、それを無視してコンテナボックスを降ろした。


「食い方は知っているな? もっと持ってくるからお前が代表になって配れ」


「わ、わかった」


 配るのを任せてホームからカロリーバーを運び出した。


「あ、ミサロ。さらに追加だ」


 二千人くらい生き残りがいたことを伝えた。


「わかったわ。まだ外に三十パレはあるから大丈夫よ。薬も入れておいたから」


 あ、薬か。すっかり忘れていた。あんな状態なら病人も結構いるだろうよ。五箱くらい出しておくか。


「たぶん、五パレくらいは出すと思うから」


「了ー解」


 運んできたパレットを置いたら外に出ていった。他にも出しているようで、ガレージの半分がなくなっていた。


「消費が激しすぎるな」


 ガーゲーは完全自動生産だからブラックにはならないが、ホームに入れてホームから出すのは完全手動……でもないが、それなりに時間は取られる。ゴブリン駆除を辞められるならいいが、ダブルワークとかごめんである。


 何度か出して暗くなってきた。


「カロリーバーは行き渡ったか?」


 オレはもう疲れたよ。


「ああ。なんとかな」


「それはなによりだ。あと、これを病人に打ってやれ。薬だ」


 扱い方を教えて渡してやった。てか、お前、名前は?


「おれはマベルク。この村長の息子だ」


「オレは一ノ瀬孝人。ゴブリン駆除ギルド、セフティーブレットのマスターだ」


 今さらながらの自己紹介。それだけゆとりが出たということだ。


「親父と伯爵様に会ってくれ」


 そのためにきたので否はなし。マベルクのあとに続いた。


 村長の家だろう。他の家より大きく、避難所にもなっているのか壁に囲まれている。


 ……兵士もいるんだ……。


 十人前後の兵士が家を守っている。かなり警戒されていたんだな。てか、よくランティアックが生存しているとわかったな。


 家に入ると、村の女とは思えない侍女服みたいなのを着た女性陣が結構いた。


 横目で見ながら大広間的なところに通され、そこには貴族と思われる者たちが集まっていた。


「わたしは一ノ瀬孝人。ゴブリン駆除ギルド、セフティーブレットのマスターです。今はランティアック辺境公の命で動いております。そちらの下につくことはできません。もしよろしければ誰か一人、ランティアックにきてもらえまんでしょうか? わたしが安全にお送り致します」


 面倒なので交渉事は男爵に任せるとしよう。さすがにオレの領分を越えている。


「ランティアックは無事なのか?」


「七割以上損害を出ましたが、マガルク・ライダ男爵が健在で今、復興に力を注いでおります。ミルズガン公爵、マリットル要塞は健在。王族の方が生き残っていた情報もあります。ただ、王都は壊滅。生き残りはいないと思います。どこかに生き延びていれば別ですが」


 王都にもいかないとダメだよな。マルデガルさん、片付けしててくれてると助かるんだがな~。


「そ、それは本当なのか?」


 四十代くらいの痩せた男性が尋ねてきた。この人が伯爵かな?


「マガルスク王国の情報はランティアックに集まるようにしてあります。オレから聞くよりご自分で確かめたほうが納得もするでしょう。ご病気で?」


「あ、ああ。もう長くもないだろう……」


「マベルク。薬を打ってさしあげろ。よほどの大病でもなければ効果はある。何百人にも打ったが、今のところ誰も死んではいない」


 今死なれては困る。伯爵はいくらいてもいいからな。


「わ、わかった。伯爵様。薬を打ちますね」


 最初の一人にならないでね。

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