第1109話 *マーダ* 上に立つ者として

「うーん。見つからんな~」


 もう二日はゴブリンを見つけられないでいる。


「マーダ。どうだ?」


 集合場所で一休みしていると、マイスが戻ってきた。


「ダメだな。まったく見つからんから諦めて戻ってきたよ」


「おれもだよ。やっぱり狩りすぎたかな?」


「かもな」


 おれたちニャーダ族は狩り(駆除)となると抑えが効かなくなる。つい熱くなって狩り尽くすときがあるのだ。これは矯正しないとダメだよな~。


 他の仲間たちも戻ってきて、ゴブリンがいないことを嘆いていた。


「どうだ? いくら稼げた?」


「四百万を越えたくらいだな」


「おれも」


「そんなに稼いでいるのか? おれ、三百万だ」


 他の請負員よりは稼いでいるが、ニャーダ族が十人もいたら一万匹いても足りない。奪い合いは避けてはいるが、それでも差は出てしまう。一人占めもできないからさっさと諦めて集合場所に戻ってきたのだ。


「タカトのほうにいけばよかったかもな」


「そうだな。なんだかんだと問題にぶち当たる男だからな」


 皆がフフと笑い出した。


 タカトは不思議な男だ。特別強いわけでもなく、目立つような姿でもない。人間の中にいたら気づきもしない男だろう。なのに、どんな種族にも好かれている。信頼を得ているのだ。


 まあ、わからないことはない。あいつはおれたちを尊重してくれる。誇りを汚さないようにしてくれる。必要とあれば同族でも罰する。


 同族を殺すことに顔を青くするほど嫌悪してもおれたちのために実行してくれた。


 おれたちは獣ではない。受けた恩を足蹴りするほど恥知らずではない。受けた恩は倍にして返す。それがニャーダ族だ。


「──こちら本部。全請負員は要塞に集合してくれ。魔王軍が動いた」


 首から下げていたプランデットから連絡が入った。


「要塞からだ。魔王軍が動いたようだ。戻るぞ」


「やっとか」


「フフ。稼げそうだな」


「そうだな。二十万匹くらいいて欲しいものだ」


 集合場所の荷物を片付けたら要塞に戻った。


 各方面に散っていた者たちも戻っており、遠くまでいってしまったおれたちが最後だった。


「遅れてすまない」


 ミリエルに謝罪する。タカトを立てるならここを任されたミリエルも立てなくてはならない。その姿を見せる必要もある。ニャーダ族だけ目立つとひがみを買うからだ。


 タカトやミリエルは笑って許してくれるだろうが、他が納得しない。タカトの周りにはたくさんの種族が集まっているんだからな。


「大丈夫ですよ。まだ余裕はありますから。まずは休んでください」


「いや、このくらいで疲れるような軟弱者はいないよ。ミリエルがいいなら状況を聞かせてくれ」


 おれらニャーダ族は他より優遇されている。


 娘の二人がタカトの一翼とされ、誰が見ても絶対の信頼を得ている。一つの種族だけ優遇していると思われたらタカトも苦労する。せめておれたちは優遇されていないと見せる必要があるのだ。


「そう気を使わなくていいですよ。タカトさんほどではありませんが、ちゃんとセフティーブレットを動かしますから」


 やはりミリエルにはバレているか。タカトが絶対の信頼を寄せる娘だ。


「あまりミリエルに苦労をさせたらタカトに申し訳ないからな」


「ありがとうござ──」


 突然、ミリエルが身を強ばらせた。


「どうした!?」


 倒れそうになるのを支え、すぐに近くの椅子に座らせた。


「ミリエル様!?」


 周りの者もミリエルの異変に気がついて集まってきた。


「……レ、レベル8? なにこれ? レベルアップ……?」


 どこかを見詰め、戸惑いを見せている。


「ミリエル、大丈夫なのか?」


 体を揺らして意識をこちらに向けさせた。


「だ、大丈夫です。おそらく駆除員関係のことだと思います。タカトさんのほうでなにかあったのでしょう」


「応援にいくか?」


「いえ、大丈夫です。ラダリオンとライガいますから。あの二人がいるのならタカトさんは無事です」


 体の調子が戻ったのか、椅子から立ち上がった。


「少し、ホームに入って状況を聞いてきますね。それまで休んでてください。サイルス様、あとはお願いします」


「ああ、任せろ。説明ならおれがやっておくから」


 サイルスもホームに入ることを勧め、ミリエルがその場でホームに入った。


「大丈夫だろうか?」


 全員の目がサイルスに集まった。


「ミリエルが大丈夫と言うのなら大丈夫なんだろう。心配しなくていいさ。んじゃ、説明するぞ」


 サイルスも上に立っていただけはある。顔色一つ変えず、笑ってみせた。


 おれもこのくらいできるようにならないとな。でないと他に遅れをとってしまう。ニャーダ族のためにもがんばるとしよう。

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