第1110話 *サイルス*

 まったく、駆除員ってヤツは波乱万丈だよ。


 いや、おれも波乱万丈な人生ではあったが、タカトと関わってからの波乱はそれまで生きてきた波乱を忘れてしまうくらいだ。女神が出てくる人生とかもはやお伽噺の世界ではないか。なんの冗談かと思うよ……。


「状況はそれほど深刻なものじゃない。軽い飲酒なら認める」


 規律の厳しい兵団ではないし、おおよそこちらが考えた流れに添っている。気軽に聞いてくれたら問題はないさ。ニャーダ族が暴れ出したら魔王軍でも止められないだろうからな。


「ビールだけにしておけよ。決戦の前なんだから」


 マーダが仲間たちを戒めた。


 人の世界に出たことがあるだけに組織で生きる術を心得ている。タカトが重用するのもよくわかる。ニャーダ族にこいつは絶対に必要だろうよ。


 先ほど皆に説明したホワイトボードをニャーダ族に見せた。


「魔王軍は終結してミルズガンを襲うため集結している。予想したとおり、このルートだ」


 ルートとかおれも異世界に侵略されてんな。


「数は?」


「軽く見積もっても五万。首長クラスが三十。十六将が一だ」


「まだ増えそうなのか?」


「ミリエルは、どこかに転移魔法陣があるのではないかと言っていたな。当初より数が増えている。女神様がおっしゃた数は優に超えている。まあ、こちらとしてはありがたいがな」


 おれは一旦抜けたから三百万円に届いていない。今回を逃せば大量に稼げる機会はなくなるだろう。増えるのならどんどん増えて欲しいところだ。


「報酬を与えることは正解だな。普通に五万の敵と言われたら絶望に陥るのにな。もっと欲しいと考えてしまうのだから」


 これまで金に執着しなかったが、異世界の品は魅力的すぎる。今後一切ミルクティーが飲めないかと思うと気が気ではないわ。


「まったくだ。ここで稼がないと女たちになにを言われるかわかったもんじゃないよ」


 ニャーダ族は女が強い。精神的に。いや、それはうちも同じか。ミシャには頭が上がらんのだからな……。


「ミリエルから稼ぎ者は前線に立っても構わないと言われている。ただ、どこかが崩れたらどこに流れるかわからない。あとは運になる。クジによる配置決めをする」


 仮にニャーダ族が前線に立ったとして、その戦闘力で大量に殺してもゴブリンが怯えたらすぐに逃げ出すだろう。バラバラに逃げるか、弱いところに向かうか、なにか予想もしない行動に出るかわからない。


 こちらは数が少なく、大軍として動けるわけでもない。小集団による攻撃はどこかに穴が生まれるものだ。


 まあ、逃げたのなら逃げたで稼ぎが継続されるだけ。ただ、儲けが少なくなるだけだ。また増えておれたちの糧となってくれ、だ。


「こちらはそれで構わない。逃げ出す前に駆除してやるだけだ」


 ニャーダ族はそれができそうだから怖いよな。


「それは頼もしいことだ。作戦は包囲戦だ。ミルズガンの手前にきたら作戦決行となる。必要な弾薬は用意してある。ミリエルが戻ってくるまで準備しておいてくれ」


 作戦はそう難しいものじゃない。包囲戦になることも前々から決まっていたこと。なに一つ慌てることはない。ただ、皆が稼ぐことに夢中にならないか心配するくらいだ。


「わかった。万全の用意をしておこう」


「では、解散だ」


 おれも長く動けるよう糖分を摂取しておくとしよう。

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