第1107話 利用し利用される関係

「ハァー。また考えることが増えてしまったよ」


 マガルスク王国のことだけでも精一杯なのに、飛び地まで考えなくちゃならんとか胃が痛くなる。あちらは山崎さんの領分なのによ……。


「おじちゃん!」


 光を失った転移魔法陣の前で缶コーヒーを飲んでいると、マリルとマルゼがやってきた。


「ご苦労さん。なんかとんでもないものを倒したみたいだな」


 戦闘強化服や銃、マルチシールドがあったとは言え、賞金駆除対象クラスA、レベル20のバケモノを倒すとか才能ありすぎだろう。レベルアップしてもオレには勝てる未来が見えないよ。


「うん。なかなか強かった」


「でも、ミニミとかマガジンとかダメにしちゃったよ」


「お前たちが無事なら構わないさ。生き抜くためならいくらでも使い潰せ」


 二人の命に勝るものはなし。数百万円くらい惜しくもないさ。


「とりあえず、ここにキャンプを張るとしよう。ここの調査もしなくちゃならないしな」


 ここなら巨人が生活するものが揃っている。生活基盤ができるまではここで暮らしてもらおう。


「少し休んだら残党狩りを頼む。あと、生き残りもいるかもしれない。隅々まで探ってくれ」


「わかった」


 ホームに入ってキャンプ用具を運んでくる。


「あ、マリル。ラダリオンに巨人たちをここに連れてくるように伝えてくれ。マルゼはオレと単管パイプを組むぞ」


 ここ、臭いんだよ。巨人も風呂なんて入ってないだろうし、集まったらとんでもないことになる。まずあいつらには清潔っていう概念を魂に刻んでやるよ。


「てか、ここで水はどうしてたんだ?」


 どんな魔法が使われているか知らんが、どこからも水が漏れていない。元の世界より凄まじい技術だろう、これ。


「地下水があるんじゃない? 上に水瓶がたくさんあったから」


「地下水? まあ、あっても不思議じゃないか」


 労力はタダなのだからパイプを通す必要もないわな。


「場所によっては発電機を買うか」


 割引シールは結構余っている。二つも置けば水を汲み上げることもできるだろう。となれば管理のために何人か請負員とするか。


 マルゼと巨人用の水場を組み立ていると、ラダリオンたちがやってきた。


「ラダリオン。巨人用の服を用意してやってくれ」


 巨人のまま入り、衣服をダストシュートしてくれたら巨人サイズとなって出てくる。これがなかったら巨人を取り込もうとは考えなかっただろうよ。


「わかった」


 ラダリオンがホームに消え、栄養剤を飲んで巨人になった。


「外にあんたらの居住地を作ろうと思ったが、ここを魔王軍に奪取されると困るので、魔王軍を破るまでここを守ってくれ。食料や衣服はこちらで用意する。ルカールの代理は誰だ?」


「おれだ。ルカール様の守人だ。名は、ガルズーグ」


「守人がどんなものかわからんが、ルカールたちが戻るまでガルズーグが仕切ってくれ。あと、必要なものがあるなら言ってくれ。ここを暮らしやすいようにする」


「……なぜ、おれたちを助けたのだ……?」


「オレが生きるためだ。オレには守らなければならない家族がいる。家族や仲間がいる。そのためにお前たちを利用する。だから、お前たちもオレを利用しろ。家族を守るために。仲間を守るために。これから生まれてくる子のために。種族がいがみ合っても未来はない。だが、いくつもの種族が協力し合えば未来はある。この地を強くして、どんな外敵からも守れるようにする。それがオレの望みだ」


 どうもここは大陸であり、四方を海で囲まれているっぽい。なら、オレが生きやすいように改造させてもらう。そのためには味方は一人でも多いほうがいいんだよ。

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