第1101話 *マリル* 必殺技

 ライガって子のあとに続いて城のほうに繋がる通路を駆けた。


 あの女の動きもヤバいと思ったけど、ライガって子のほうがヤバすぎる。音もしなければ気配も感じない。一瞬でも目を離したら見つけられない気がする。どんだけ上がいるのよ!


「──魔物がくる。ここから別行動だ!」


 そう叫ぶとわたしの視界から消えてしまった。はぁ!?


「……マルゼ、いくよ!」


 悪態をつきそうになるのをグッと堪えて下に続く階段に飛び込んだ。


 豚どもに合わせたのか、少し大きい造りになっていて段差が高い。飛び下りたほうが速く下りられるな。


「ねーちゃん急ぎすぎ!」


 おっと。そうだった。


 仕方がないとマルゼに合わせて階段を下り、かなり広い空間に出た。


「町?」


 巨大な建物からして巨人が暮らしていたところだろうか? 明かりはあるけど、こんな地下でよく生活していたものだ。わたしなら気が狂っているところだ。


「ねーちゃん」


 マルゼに引っ張られて指を差した方向を見た。


 そこには濃い緑の肌を持つゴブリンがいた。


 身長は約三メートル。鎧を纏い、金棒を握っていた。おそらく、首長クラスのゴブリンだろう。なら、ここを任されている存在の確率が高い。


「装備を換えるよ」


「やるの!? 強そうだよ?! 止めておこうよ!」


「あれくらい倒せないようではおじちゃんの側にいられないよ。わたしたちもバケモノになる」


 あの女やライガって子ならあんなものにビビらず戦い挑んで倒してしまうでしょう。恐れ一つ見せずにね。


「まだわたし一人で倒すことはできない。でも、マルゼとなら倒せる。一緒にやるよ」


 サポート役としてわたしを支えてくれる立派な弟。わたしたちは二人で協力して生きてきたんだ、あんなゴブリンくらい倒してやるよ。


「わかった!」


 おじちゃんのようにマルゼの頭をわしわしとした。


「わたしがアタッカー。マルゼはディフェンス。いいね?」


「もちろん」


 ライガって子から補給を受けて弾薬は元に戻った。いろんな状況に応じた武器もある。わたしたちなら充分やれる!


 リュックサックからリンクスを取り出し、換えのマガジンをマルチシールドに絡めた。


「マルゼ。標的はアレ。狩るよ」


「了解」


 二人で頷き合い、リンクスを構えて狙撃した。


 これで倒せるとは思ってはいない。あいつの意識をわたしに向けさせるためだ。


 距離があるので命中にはならなかったが、12.7㎜弾を食らって平気なヤツはそうはいない。カスっただけでも致命傷になる威力だ。


「防御力高いな、あの鎧」


 おじちゃんが言っていた。たまに魔法のかかった武具があるって。鎧がそうなのだろう。


 まあ、弾で鎧が穿っているのならそこまで脅威ではないか。見た感じ、飛び抜けた治癒力があるわけではない。こちらに駆けてくるスピードも遅い。パワータイプってことだろう。


「脳筋だな!」


 自分がなんで攻撃されたかもわからず、ただ攻撃されたことに怒って真っ正面から突っ込んでくる。獣以下の知能だな。


 わたしはリンクスを構えたまま次弾を発射。なんと金棒で防いだ。


「脳筋は脳筋でも筋金入りの脳筋かい」


 よく拠点防衛をやっている。ってまあ、巨人がいたら三メートルくらいのゴブリンでも子供以下でしかないか。


 距離が五十メートルくらいまで縮まったら腰を低くして連続で撃つ。


「マルゼ!」


 そう叫んで横に転がった──ら、マルゼが床に置いていたミニミが火を吹いた。


 あいつに5·56㎜弾が効果があるかはわからないが、二十メートルの近距離から数十発も食らった。その衝撃を受けてなんともないってことはない。必ず衝撃は蓄積されている。ほら、よろめいている。


 動けないでいる脳筋に12.7㎜弾を食らわせてやる。


 重いボディーブローを食らって膝をついたが鎧が凹んだだけ。かなり防御力が高い。あれでは並みの者では倒せないだろうよ。


 さらに撃ち込んでやると、金棒で塞ぎ始めた。


 脳筋は勘で動くから厄介だよ。でも、その金棒も12.7㎜弾を三発も受けたら折れてしまった。


「マルゼ、弾幕!」


 わたしの意図を汲んだマルゼが脳筋に催涙弾を撃ち込み、脳筋をガスで覆わせた。


 弾切れとなったリンクスを投げ出して駆け出した。


 苦し紛れにガスを手で払うが、それで消えたら苦労はしない。わたしはヘルメットの熱源で見ているので問題なく床を蹴った。


 右脚にはマルチシールドをつけており、伸ばす勢いでジャンプしたり壁に突き刺せたりできる。


 十メートルほどの高さからマルチシールドを尖らせて脳筋の背中に刺してやった。


「硬いね」


 鎧には突き刺さったけど、筋肉までは届いていない。


「でも残念。二段構えだよ」


 マルチシールドにつけた三本のラットスタットを展開させた。


「ラットスタットコレダァアァァァー!」


 リミッターを外したラットスタットから雷が放たれる。


 どんなバケモノでもこの攻撃は防げない。おじちゃんが教えてくれたわたしの必殺技だ!


 ラットスタットの魔力がなくなり、脳筋が床に倒れた。


「念のため」


 ラットスタットを排除し、腕にしているマルチシールドを尖らせて脳筋の首に突き刺してやった。


 ──────────────────────────


 とある五百年生きたゴブリン。


 わ、我は最強の戦士だぞ。数多くの神の使徒を殺した我がここで死ぬのか?


 強敵に殺されるならまだしも人間の子供だと? それも雌に殺されるなとあり得ん! 無念にもほどがあるわ!


 ─────────────────────────


「うわ。こいつ、首を斬ってもまだ生きてるよ。気持ち悪っ!」


「魔石を取り出したら死ぬんじゃない? ゴブリンの魔石、高く売れるっておじちゃんが言ってたし」


「へーそうなんだ。じゃあ、血抜きして取り出すとしようか」


「腕も斬り落としてよ。ひっくり返すのも大変そうだし」


「オッケー。ほらよっと」


「おー。たくさん出るね」


「流れ終わるまでわたしは他を見てくるよ」


「了ー解」


 ───────────────────────────


 キックもやりたかった。後悔はない。

 

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