第1097話 要素 《三年》
ハァー。順調なほど問題が出てくるよな。オレ、呪われてんだろうか?
「髪がなくなるのが先か、それとも胃に穴が開くか、回復薬で治るのが嫌すぎるぜ」
死ぬことも許されないとか、オレは地獄で罰を受けてんのか? そんなに業の深いことしたのか、オレは?
それでも前に進まなければならない。オレには守らなくてはならないことがたくさんあるんだからな。
まずは巨人のほうから片付けるとしよう。
「雷牙。メビたちのところにいってくれ。あっちを頼むよ」
本当はオレがいくべきなんだろうが、巨人を味方にするほうを優先しておこう。あっちはまだ動けないだろうからな。
「魔王軍はどうするの?」
「中のは任せる。外はラダリオンにやってもらうよ。メビにもそう伝えてくれ」
「了解」
駆けていく雷牙を見送り、タダオンのところに向かった。
「ラダリオン! 周辺の警戒を頼む!」
「わかった」
外せる装備はすべて外して巨人になる。じゃないと周りにいるヤツらに声が届かないからな。
「オレは一ノ瀬孝人。ゴブリン駆除ギルド、セフティーブレットのギルドマスターだ」
「わたしはルカール。ランディールの民の女王だ」
ラダリオンから若いとは聞いてたが、まだ二十歳前半じゃないか。その若さで女王とは大変なことだ。よく周りがついてきているものだな? いや、それだけ切羽詰まっていたってことか。若いのに大変なことだ。
「タカト。ランディールの民はタカトにつく。いいだろうか?」
「なかなか口が上手いじゃないか。戦士より王にでもなったほうがいいんじゃないか」
前々からこいつは戦士としての要素より上に立つほうが向いているんじゃないかと思っていた。長老もそうだし、そんな要素が受け継がれてんのかな?
「からかわんでくれ。おれは生涯戦士でいたいよ」
たぶん、そうもいかんと思うぞ。世の中、好き嫌いで動くには相当の実力と運がないとできない。お前はきっと苦労すり運命だと思う。なんかオレと同じ臭いがするからな。
「ランディールの民はオレが引き受けた。住むための土地も用意してやる。作物も育つまでの食料も用意してやる。タダオン。回復薬を飲ませてやれ」
回復薬に大きさは関係ない。種族も関係ない。効果は等しく表れる。そのままのサイズで飲ませても大中小に合わせて効果を見せてくれる。巨大化させても大したエネルギーがかからないのだ。
回復薬大を手をなくした者たちに飲ませて回った。
なんだかマッチポンプみたいなものだが、巨大がいるなら別の方法が使えた。すべては魔王軍が悪いってこと。オレらに責任はないし、恨まれる筋合いもない。丸く収まったことに感謝しましょう、だ。
すべての者が回復薬で完治。不思議そうに失った手や足を見詰めていた。
「その神薬は失った手足を元どおりにすることも大病も治すことができる。たとえ子供が産めない体であっても治してしまうものだ。この薬はまだある。と言ってもさすがにお前たち全員に行き渡るほどの数はないがな。軽傷の場合はこちらを使う。効果は身をもって理解したはずだ」
針なし注射器を掲げて見せた。
「こちらの味方についたのならランディールの民を飢えさせることはしない。だが、お前たちを家畜にする気はない。自分たちの暮らしは自分たちで築いていけ」
そうしてくれないとこちらは破産する。いつまでも面倒見てらんないんだから早めに自立してください。
「ランディールの民はあなたに従おう」
女王であるルカールがオレの前に跪くと、残りもそれに習って跪いた。
「タダオン。しばらくお前が面倒見てやれ」
「謹んでお受けしよう」
タダオンは敬礼して答えた。
やっぱりこいつは順応力が高い男だよ。巨人の中にこういう男がいてくれてありがたいばかりだ。
───────────────────────
書き始めて三年。今も読んでくださる方々に大感謝です。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます